30年超ぶりの高得点決戦
サイモンセン vs タフバイネン、290-279の衝撃

敗戦の翌週、サイモンセンは「答え」を出した――イリノイ・クラシックで雪辱の戴冠

PBAツアー「Groupon PBA Illinois Classic」で、アンソニー・サイモンセン(29歳)が劇的な勝利を収めた。タイトルマッチは290対279前年王者サントゥ・タフバイネンが279を打ちながら敗れるという、常識外れの打ち合いだった。

この優勝が特別なのは、背景にある。前週の「Go Bowling U.S. Open」でサイモンセンは、最終投球で7-10スプリットを残し、わずか2ピン差でタイトルを逃した。日曜日の午後に突き落とされたような痛恨。だが本人は「毎週は別のトーナメント」と切り替え、イリノイ州ディケーターのデビッド・スモールが運営するボウリング場で黙々と調整を重ね、今大会に臨んだ。

そして迎えた決勝。結論から言えば、サイモンセンは“負け方”を“勝ち方”に変えた。前週の悔恨を、今週は10フレームの強さで塗り替えたのである。

 

290対279の異次元決戦――30年以上ぶりの高得点タイトルマッチが生まれるまで

1)予選から見えた「立て直し」の輪郭

サイモンセンは予選とマッチプレーを通じてアベレージ240超を記録し、第1シードを獲得。勢いだけではなく、ライン取りと再現性でスコアを積み上げ、決勝への最短距離を自ら選び取った。

結果はツアー通算17勝目優勝賞金は3万ドル。さらに「2024年7月以来のタイトル」という点も大きい。実績十分のトップ選手が、勝ち切る感覚を“戻した”ことを数字と内容の両方で示した大会となった。

 

2)大会全体が「高得点前提」だった

今大会は前週のU.S. Openと比べ、スコアが伸びる展開だった。決勝ラウンドで第3シードにいたEJ・タケットが「安全圏にいるには270が必要」と見立てたほどで、実際にタフバイネンは279を打ちながら敗れている270でも足りない。そういう舞台だった。

使用されたのは43フィートの「Carmen Salvino」オイルパターン。高スコアが出やすい傾向がある一方、スコアが跳ね上がるほど、わずかなズレが致命傷になる。つまり“打てる”こと自体は前提で、勝敗を分けるのは微調整の質、そして終盤の選択と実行だった。

 

3)ステップラダーの流れ:復讐、ミス、そして準決勝の明暗

決勝ラウンドのステップラダーは、ストーリー性の強い展開が続いた。

第1試合はマット・オーグル対ショーン・マルドナード。直前のラウンドではマルドナードが3-1から逆転勝ちしていたが、この日は逆にオーグルが取り返す。マルドナードの単発ピンのスペアが“扉”を開け、オーグルが最終盤に4連続ストライクで抜け切った。268対258。10ピン差の中身は、終盤の集中力の差だった。

第2試合はオーグル対タケット。両者は279ペースで並走していたが、オーグルが6フレームで3-10の“ベイビースプリット”をミス。高得点勝負では、たった一度の取りこぼしが致命傷になり得る。タケットは8〜10フレームの連続ストライクで逃げ切り、258対224で決勝へ駒を進めた。

準決勝(第3試合)はタフバイネン対タケット。ここで流れは一変する。タケットは特に右レーンをつかめず、1・5・7フレームでスプリットを残してオープンフレームが続いた。タフバイネンは大崩れせず、247対185で快勝。高得点大会で60点以上離れるのは、適応力とショットの精度がそのまま点差に変換された結果だ。

 

4)タイトルマッチ:9フレーム半、ストライクだけが続いた

そして決勝は、290対279

第1フレームでサイモンセンは4ピン、タフバイネンは10ピンをそれぞれスペアで処理した。だがそこから先、両者は10フレームに入るまで、ほぼストライクで突き進む。ツーハンダー同士のパワーと角度が、互いの完成度を映す鏡のようにぶつかり合い、観る側の意識は「どこで崩れるか」から「どこで差が生まれるか」に移っていった。

勝負を動かしたのは10フレームだった。先攻のタフバイネンは、初球で4-7-10が倒れかける“トリップ”でストライクをもぎ取る。だが、ほぼ外れかけた一投が微調整を促したのか、次は10ピンを残してスペア。結果としてサイモンセンに、「10フレームで2つストライクを出せば勝ち」という、より有利で明確な条件を渡した。

その条件を、サイモンセンは一切の迷いなく回収する。10フレームで2つのタイトル決定ストライク、さらにダメ押しの3投目もストライク。合計11連続ストライクで試合を締め、頂点を奪い切った。

試合後、サイモンセンは「先週から立て直して、ここでは賢い選択をして、良いレーンで締められた」と振り返りつつ、タフバイネンを称えた上で「これ以上、タイトルマッチで279を倒す必要がないといいね」と本音も漏らした。さらに「雪辱は甘い。でも来週もやるべき仕事がある」と続け、勝利の余韻に浸りすぎない視線を次へ向けた。

この290対279は、PBAのリサーチャー、エリック・ハートマンによれば、「30年以上で最高得点のタイトルマッチ」。史上最高は1993年ウィチタ・オープン(マイク・オールビーが300対279で勝利)。また今回のスコアは、1994年トゥルー・バリュー・オープン(ブライアン・ゴーベルが296対280で勝利)以来の高水準として位置づけられる。つまりこれは“高得点だった”で終わらず、“歴史の棚に並ぶ試合”として記録される一戦だ。

 

5)サイモンセンの言葉が示した「強さの定義」

サイモンセンは勝利の裏側を、次の言葉で整理している。

「良いショットを投げて、結果と共に生きる。良いショットでも倒れないことはあるし、良くないショットでも倒れることはある。大事なのは、それが必要な時に釣り合うことだ」

ボウリングの勝負は、完璧さを積み上げても“必ず”報われるわけではない。だからこそ、必要な局面で自分に傾く確率を上げるしかない。今大会のサイモンセンは、その確率を上げるための「選択」と「実行」を、最後の最後で最も高い精度で揃えてみせた。

 

敗戦を翌週の勝利に変える価値――次戦インディアナ・クラシックへ

今回の勝利が示したのは、サイモンセンの技術だけではない。前週、最終投球で7-10スプリットを残し、2ピン差でタイトルを逃した痛みを、言い訳ではなく“翌週の優勝”で上書きした切り替えの速さと、勝負所の強さだ。

高得点の大会ほど「1投の価値」はむしろ増す279を打っても勝てない舞台で、最後に必要なストライクを迷いなく揃える。そこに、トップ選手がトップであり続ける理由が凝縮されていた。

PBAツアーは次戦「PBA Indiana Classic」(フォートウェイン)へ。予選は水曜にデビッド・スモールのPro Bowl Westで開始し、決勝は3月22日(日)午後4時(米東部時間)からThe CWで放送予定だ。イリノイで“雪辱”を果たしたサイモンセンが、次週も勢いを持ち込めるか。結局のところ、勝敗はいつだって「10フレームをどう締めるか」で決まる。その真理を、これ以上ない形で証明した大会だった。

 

決勝ラウンド結果(ステップラダー)

  • 第1試合:マット・オーグル(第5) 268-258 ショーン・マルドナード(第4)

  • 第2試合:EJ・タケット(第3) 258-224 マット・オーグル(第5)

  • 準決勝:サントゥ・タフバイネン(第2) 247-185 EJ・タケット(第3)

  • 決勝:アンソニー・サイモンセン(第1) 290-279 サントゥ・タフバイネン(第2)

 

最終順位(上位)

  • 優勝:アンソニー・サイモンセン(30,000ドル

  • 2位:サントゥ・タフバイネン(18,000ドル

  • 3位:EJ・タケット(13,000ドル

  • 4位:マット・オーグル(10,000ドル

  • 5位:ショーン・マルドナード(9,000ドル

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