PBA世界選手権の名勝負
クリス・プラザーがロールオフでつかんだ栄冠
17人目の王者が生まれる前に振り返る名勝負
PBAワールドシリーズ・オブ・ボウリングは、これまで数々の名勝負とメジャーチャンピオンを生み出してきた。そして次なるAMF PBA世界選手権の決勝では、新たに17人目のメジャー王者が誕生する可能性がある。
今回の大会で最大の注目を集めるのは、EJ・タケットだ。PBA世界選手権を3連覇中のタケットは、決勝ステップラダーの最上位で挑戦者を待ち受ける。もし今大会でも頂点に立てば、PBAツアーの同一大会を4年連続で制する史上初の選手となる。さらに、4年連続PBA年間最優秀選手という前人未到の記録にも大きく近づくことになる。
その舞台となるのが、ミシガン州アレンパークのサンダーボウル・レーンズ内にあるストローブル・アリーナだ。2009年に始まったワールドシリーズ・オブ・ボウリングの創設に深く関わった故トム・ストローブル氏の名を冠するこの会場は、PBAの歴史的瞬間を迎えるにふさわしい場所である。
6月13日午前11時からは、CBSスポーツネットワークでプレーイン・ステップラダーが放送される。ここには、ジェイソン・ベルモンテを含む第5シードから第9シードの選手たちが登場する。そしてその勝者が、午後1時からCBSおよびParamount+で放送されるチャンピオンシップラウンドへ進出する。
本記事では、PBA世界選手権の歴代名勝負ランキングで第10位に挙げられた、2022年大会のクリス・プラザーの勝利に焦点を当てる。わずか一投で天国と地獄が入れ替わるメジャー決勝の緊張感、そして勝者と敗者の明暗を分けたロールオフのドラマを振り返りたい。
追い込まれたプラザーがロールオフでつかんだ栄冠
2022年のPBA世界選手権決勝は、最後の一投まで結末が読めない名勝負となった。タイトルマッチで対戦したのは、クリス・プラザーとジェイソン・スターナー。試合終盤、プラザーはスターナーに対して9ピンのリードを持っていた。
状況だけを見れば、プラザーが優位だった。残り2フレームをすべてストライクで締めくくれば268点に到達し、スターナーに逆転の余地を与えず優勝を決めることができたからだ。
しかし、メジャーの決勝は簡単には終わらない。
プラザーの前に立ちはだかったのは、ボウリングで最も悔しさを残すピンの一つである10番ピンだった。しかも、それが2度続いた。ストライクを重ねて勝負を決めるはずだった展開は一転し、スターナーに逆転の可能性を残す形となった。
投球後、プラザーは席に戻り、眼鏡をテーブルに置くと、両手で顔を覆った。その姿には、悔しさ、失望、そして迫りくる敗北への不安がにじんでいた。
この場面がより重く映ったのは、プラザーが直前のメジャー大会でも苦い敗戦を経験していたからだ。数週間前のトーナメント・オブ・チャンピオンズで決勝に進みながら、ドム・バレットに敗れていた。もしこの世界選手権でも敗れれば、2大会連続でメジャー決勝を落とすことになる。
一方のスターナーは、第4シードからステップラダーを勝ち上がってきた。ジェイコブ・バトゥーフ、ジェイソン・ベルモンテ、トミー・ジョーンズという強豪たちを次々と破り、タイトルマッチまでたどり着いた。その道のりは決して幸運だけではない。PBAツアー3勝の実績を持つ彼が、自らの力でつかみ取ったメジャータイトルへの挑戦権だった。
スターナーにとって、この第10フレームはキャリアを変える瞬間になり得た。初のメジャータイトルを手にすれば、選手としての評価は大きく変わる。実力者からメジャーチャンピオンへ。その境界線は、目の前の数投にかかっていた。
だが、運命の最初の投球は右へ外れた。残ったのは1-2-8。ストライクが求められる場面で、完璧な一投とはならなかった。しかし、ピンアクションによって8番ピンが倒れ、スターナーの望みはかろうじてつながる。
スターナーはスペアを成功させ、最後の投球でストライクを決めた。これにより試合は同点となり、勝負はロールオフへ突入する。
会場の空気は一気に張り詰めた。
落胆していたはずのプラザーは、ここで再び立ち上がる。まるで一度途切れかけた勝利への道が、もう一度目の前に現れたかのようだった。表情には新たな集中力が宿り、流れを取り戻そうとする強い意志が感じられた。
ロールオフでプラザーは先攻を選択する。大きな重圧がかかる場面だったが、彼のスイングは乱れなかった。ボールは狙ったラインを通り、ポケットへ吸い込まれていく。ヘッドピンが壁に跳ね返り、倒れかけた4番ピンが10番ピンへ向かった。
結果はストライク。
プラザーは、スターナーに「ストライク以外なら敗退」という究極のプレッシャーを突きつけた。
続くスターナーの投球は、わずかに左へ外れた。残ったのは3-6-9-10。この瞬間、勝負は決した。
クリス・プラザーが、キャリア2度目となるメジャータイトルを手にしたのである。
この勝利が特別だったのは、単にロールオフで決着したからではない。プラザーという選手の歩みそのものが、この一勝に深い意味を与えていた。彼は長い間、PBAツアーで安定して上位に残ることに苦しんできた選手だった。常に優勝候補として語られる存在ではなく、カットラインを越えることさえ簡単ではない時期もあった。
その選手が、メジャーの大舞台で重圧を乗り越え、2つ目のメジャータイトルをつかんだ。これは単なる勝利ではなく、キャリアの評価を大きく押し上げる分岐点だった。
同時に、敗れたスターナーの戦いぶりも称賛に値する。彼はステップラダーで、ベルモンテやトミー・ジョーンズといった歴史的選手を破ってきた。メジャー決勝で敗れたとはいえ、その勝ち上がりは大会の価値を高めるものだった。勝者プラザーの物語が輝いたのは、スターナーがそれほどまでに強く、危険な挑戦者だったからでもある。
この試合には、PBA世界選手権の魅力が凝縮されていた。リードしていた選手が勝利目前で揺らぎ、追う選手が土壇場で追いつき、最後は一投で栄冠の行方が決まる。技術、精神力、運、会場の熱気。そのすべてが交差したからこそ、2022年の決勝は忘れがたい名勝負となった。
一投がキャリアを変え、歴史をつくる
PBA世界選手権の歴史を振り返ると、ジェイソン・ベルモンテやEJ・タケットのようなスーパースターの名前が何度も登場する。しかし、この大会の本当の魅力は、記録や優勝回数だけでは語り尽くせない。
そこには、選手が極限の重圧にどう向き合うのかという人間的なドラマがある。勝利を目前にしながら揺らぐ瞬間があり、敗北寸前から息を吹き返す瞬間がある。そして、ときにはたった一投が、選手のキャリアそのものを変えてしまう。
2022年のクリス・プラザーの勝利は、まさにその象徴だった。勝利を決めきれず、ロールオフへ持ち込まれながらも、最後は完璧なストライクで王座をつかんだ。その姿は、ボウリングが単なる精密な技術競技ではなく、精神力と勝負勘が問われるスポーツであることを改めて示した。
もし今後、プラザーが全米オープンを制し、トリプルクラウンを達成することがあれば、この2022年世界選手権の勝利はさらに大きな意味を持つだろう。キャリア2度目のメジャータイトルという枠を超え、偉大な選手へ歩みを進める転換点として語り継がれるはずだ。
そして今、PBA世界選手権は再び歴史的な局面を迎えようとしている。タケットが4連覇という前人未到の偉業を成し遂げるのか。それとも、ベルモンテをはじめとする挑戦者たちがその記録を阻止するのか。
PBAの歴史は、一投で変わる。
2022年のプラザーが証明したように、世界選手権の舞台では、誰もが伝説の主人公になり得る。今年もまた、ボウリングファンの記憶に深く刻まれる一戦が生まれるかもしれない。
