PBA世界選手権の名勝負史
歴史を変えた王者たちの一投
17人目の王者誕生へ、PBA世界選手権が迎える歴史的局面
PBAワールドシリーズ・オブ・ボウリングは、これまで数々の名勝負と名王者を生み出してきた。なかでもPBA世界選手権は、選手の実力、精神力、勝負強さが最も厳しく問われる舞台である。
そして次回、AMF PBA世界選手権ファイナルで新たなメジャーチャンピオンが誕生する可能性がある。これまでPBAワールドシリーズ・オブ・ボウリングでは16人のメジャーチャンピオンが誕生しており、次の大会では17人目の王者が生まれるかもしれない。
注目は、6月13日午前11時(米東部時間)からCBS Sports Networkで放送されるプレーイン・ステップラダーだ。第5シードから第9シードまでの選手が出場し、その中心にはジェイソン・ベルモンテの名前がある。勝者は午後1時からCBSおよびParamount+で放送されるチャンピオンシップラウンドへ進出する。
しかし、頂点で待ち受ける存在はさらに大きい。第1シードには、PBA世界選手権を3連覇中のEJタケットが控えている。タケットは今回の大会で、PBAツアーイベントを4年連続で制するという前人未到の記録に挑む。もし実現すれば、4年連続PBA年間最優秀選手賞という歴史的偉業にも大きく近づくことになる。
舞台は、ミシガン州アレンパークのThunderbowl Lanes内にあるStrobl Arena。2009年にワールドシリーズ・オブ・ボウリングの創設に尽力した故トム・ストロブル氏ゆかりの会場であり、PBAの新たな歴史が刻まれる場所として、これ以上ない舞台だ。
本記事では、PBA世界選手権における名勝利の中から、歴史的意義、試合の緊張感、感情を揺さぶる場面、観客の反応を軸に、特に印象深い勝利を振り返る。ランキングは主観を含むものの、どの試合もPBAの歴史を語るうえで欠かせない瞬間ばかりである。
PBA世界選手権を彩った名勝利
第4位:2016年 EJタケット、初メジャーで才能を証明
2016年のPBA世界選手権は、EJタケットにとってキャリアの転換点となった大会だった。
前年の2015年、タケットは世界選手権で優勝のチャンスをつかみながら、戦略面と試合運びの甘さによってタイトルを逃していた。その敗北は、彼にとって大きな悔いとして残った。だが同時に、それは成長のきっかけにもなった。
タケットは「同じ失敗は二度と繰り返さない」と誓い、翌年の舞台に戻ってきた。2016年シーズンにはテレビ決勝で初優勝を飾り、その後も勝利を重ねる。そして世界選手権で初のメジャータイトルを獲得したことで、彼の評価は一気に確かなものとなった。
この勝利は、タケット自身だけでなく、彼を支え続けてきた父親にとっても大きな意味を持っていた。タケットが唯一のコーチとして信頼してきたのは父であり、親子で築いてきた練習法や考え方は、時に周囲から疑問視されることもあった。
しかし、インディアナ州の小さな町からボウリング界の頂点へと到達したことで、その道のりは正しかったと証明された。2016年の勝利は、タケットが一流選手から真の王者へと変わった瞬間だった。
第5位:2017年 ジェイソン・ベルモンテ、史上初のシーズン3メジャー制覇
2010年代半ばのジェイソン・ベルモンテは、まさに時代を変える存在だった。彼の快進撃の中でも、2017年のPBA世界選手権は特別な意味を持つ。
この年、ベルモンテはシーズン序盤から圧倒的な強さを見せていた。プレーヤーズ選手権を制し、さらにUSBCマスターズでは3連覇を達成。そしてシーズン最後のメジャーである世界選手権では第2シードに入った。
それまで、同一シーズンに3つのメジャータイトルを獲得した選手はいなかった。アール・アンソニー、ウォルター・レイ・ウィリアムズJr.、ドン・カーター、ディック・ウェバー、ピート・ウェバー、マーク・ロス、マーシャル・ホルマンといった伝説的選手たちでさえ成し遂げられなかった記録である。
決勝でベルモンテは、イェスパー・スヴェンソンを相手に勝利を収めた。優勝を決定づけたのは、彼らしい激しいメッセンジャーストライクだった。観客の熱狂とともに、ベルモンテは史上初のシーズン3メジャー制覇を達成した。
この優勝で、ベルモンテはわずか6年の間にメジャータイトル9勝目を記録した。これは異例のスピードであり、彼がいかに別次元の存在だったかを物語っている。2017年のベルモンテは、シーズン平均スコアの記録を更新し、5年間で4度目のPBA年間最優秀選手賞も獲得した。
この大会は、ボウリング界に対して明確なメッセージを放った大会だった。ベルモンテは単なる強豪ではない。競技の常識を塗り替える選手だったのである。
第6位:2025年 EJタケット、3連覇で王朝を築く
2025年のPBA世界選手権は、現代ボウリングを象徴する頂上決戦となった。2連覇中の王者EJタケットと、トップシードのジェイソン・ベルモンテ。実力、実績、注目度のすべてがそろった一戦だった。
この対決は、2023年世界選手権決勝の再戦でもあった。そして今回もまた、試合は劇的な展開を見せた。
タケットがベルモンテを封じ切るには、終盤でダブルを決める必要があった。極限のプレッシャーがかかる場面で、タケットは本人が「キャリア最高のショット」と語る投球を見せる。勝負どころで最高の一投を放てることこそ、王者の証明だった。
2025年のWSOB XVIにおけるタケットのパフォーマンスは、ボウリング史に残る内容だった。5つすべてのチャンピオンシップラウンドに進出し、シャーク・チャンピオンシップのタイトルを防衛。さらに世界選手権では3連覇を達成した。
10年前、同じレーンでタケットは世界選手権制覇のチャンスを逃していた。しかし、その失敗を糧にし、同じ舞台で歴史的な勝利をつかみ取った。2025年の3連覇は、単なる連続優勝ではない。敗北から学び、王者として完成したタケットの集大成だった。
第7位:2010年 クリス・バーンズ、批判を封じたトリプルクラウン
2010年のPBA世界選手権で、クリス・バーンズは長年つきまとっていた評価を覆した。
当時のバーンズは、実力者として高く評価される一方で、「テレビ決勝で勝てない選手」という印象も強かった。12勝を挙げていながら、タイトルマッチでは22敗。世界最高クラスのショットメーカーでありながら、勝負どころでは不安が残る。そんな見方が放送中にも繰り返し語られていた。
だが、この日のバーンズは違った。
プレーインマッチでマイケル・ハウゲンJr.を243対172で破ると、その勢いのままステップラダーを駆け上がった。オスク・パレルマーには246対176、ショーン・ラッシュには237対161、ビル・オニールには267対237で勝利。すべての試合で30ピン以上の差をつけ、平均スコアはほぼ250に達した。
完璧に近い内容での優勝だった。批判も疑念も、彼の投球の前では意味を失った。
この勝利により、バーンズはトリプルクラウンを達成した。長年語られてきた弱点を、自らの圧倒的なパフォーマンスで打ち消した名勝利である。
第8位:2013年 ドム・バレット、歓喜が先に来た初メジャー
2013年のPBA世界選手権で、ドム・バレットは自身初のメジャータイトルを手にした。だが、この勝利が強く記憶されている理由は、結果だけではない。勝利の瞬間に見せた、彼らしい感情の爆発があったからだ。
10フレーム目、バレットはダブルを決めた時点で大きく喜びを表した。しかし実際には、まだ完全に勝利が確定したわけではなかった。最後のフィルショットで一定のカウントが必要な状況だったのである。
通常であれば、選手は最後の一投まで感情を抑える。だがバレットは、勝利を確信したかのように喜んだ。そしてその後、フィルショットでもストライクを奪い、正式に優勝を決めた。
この場面は、バレットの大胆さ、勝負強さ、そして個性を象徴する名シーンとなった。
この優勝は、彼にとって初のメジャータイトルであり、のちにトリプルクラウンへつながる第一歩でもあった。緊張感のある終盤に見せた早すぎる歓喜は、ミスになれば語り草になりかねない場面だった。しかし結果として、それは彼の勝利をより印象的なものにした。
第9位:2015年 ゲイリー・フォークナーJr.、歴史を変えた一日
2015年のPBA世界選手権で、ゲイリー・フォークナーJr.はボウリング史に残る勝利を挙げた。
メンフィス出身のフォークナーは、この優勝によりPBAツアータイトルを獲得した史上2人目の黒人選手となった。ジョージ・ブラナム3世以来となる快挙であり、その意味は単なる1勝にとどまらない。
PBAテレビ決勝初登場にもかかわらず、フォークナーは驚くほど冷静だった。初戦ではスコット・ノートンを相手に262対218で勝利。完璧に近い投球で、会場の空気を一気に自分のものにした。
この試合では、同じテネシー州出身でMLBスターのムーキー・ベッツも解説席に加わっていた。注目度の高い中でも、フォークナーは動じなかった。
続く試合では、当時好調だったライアン・シミネリを247対237で撃破。そして決勝では、若きEJタケットと対戦した。タケットはすでに将来の大物を予感させる選手だったが、当時はまだ成長途上にあった。
決勝のスコアだけを見れば、フォークナーの216点は突出した数字ではない。しかし内容は安定しており、第9フレームの時点でタケットを封じ込める展開を作った。
フォークナーの勝利は、歴史的意義を持つだけでなく、PBAの未来にも影響を与えた。タケットにとっては、この敗北がさらなる飛躍へのきっかけとなった。2015年の世界選手権は、フォークナーが歴史を作り、タケットが未来へ向かう分岐点でもあった。
第10位:2022年 クリス・プラザー、ロールオフを制した劇的勝利
2022年のPBA世界選手権決勝は、最後まで息をのむ展開となった。
クリス・プラザーは、ジェイソン・スターナーを相手に終盤で9ピンのリードを持っていた。残り2フレームでストライクを続ければ、相手を完全に封じ込めることができる状況だった。
しかし、ここでプラザーは痛恨の10ピン残りを続けてしまう。彼は椅子に沈み込み、眼鏡をテーブルに置き、顔を手で覆った。直前のトーナメント・オブ・チャンピオンズでも決勝で敗れていたプラザーにとって、再びメジャー決勝でタイトルを逃す悪夢が現実になりかけていた。
一方のスターナーは、第4シードから勝ち上がってきた挑戦者だった。ヤコブ・バターフ、ジェイソン・ベルモンテ、トミー・ジョーンズを破り、決勝までたどり着いた。初のメジャータイトルは、目の前まで迫っていた。
10フレーム目、スターナーは勝利のチャンスを迎える。しかし最初の投球を外し、1-2-8を残した。それでもスペアを成功させ、フィルショットでストライクを奪ってロールオフへ持ち込む。
ここからプラザーは息を吹き返した。ロールオフの先攻を選び、理想的なスイングから完璧なポケットショットを放つ。残った10ピンをメッセンジャーが倒し、ストライク。スターナーに再び「ストライクが必要」という重圧をかけた。
スターナーは返しの投球で左に外し、3-6-9-10を残した。これにより、プラザーが自身2つ目のメジャータイトルを獲得した。
長年、PBAツアーで安定した成績を残すことに苦しんできたプラザーにとって、この勝利はキャリアの見方を変えるものだった。殿堂入りを語られる選手へと近づいた瞬間でもある。
PBA世界選手権は、勝者の人生を変える舞台
PBA世界選手権の魅力は、単なるスコアやタイトル数だけでは語れない。そこには、失敗からの再起、批判を覆す強さ、歴史的な壁を破る瞬間、そして一投で運命が変わる緊張感がある。
EJタケットは、2015年の失敗を糧に初メジャーをつかみ、今や3連覇中の絶対王者となった。ジェイソン・ベルモンテは、シーズン3メジャー制覇という前人未到の記録で、ボウリング界に新たな基準を示した。クリス・バーンズは疑念を結果で黙らせ、ドム・バレットは大胆な歓喜とともに初メジャーを手にした。ゲイリー・フォークナーJr.は歴史を変え、クリス・プラザーは極限のロールオフを制してキャリアを大きく前進させた。
そして次のPBA世界選手権では、新たな物語が生まれる。
タケットが4年連続優勝という前人未到の領域へ踏み込むのか。ベルモンテをはじめとする挑戦者たちが、その歴史的挑戦を阻むのか。Strobl Arenaという特別な舞台で行われる決戦は、PBAファンにとって見逃せない一戦となる。
PBA世界選手権は、単なる大会ではない。選手の過去、現在、未来が交差し、競技の歴史そのものが更新される場所である。だからこそ、そこで生まれる勝利は、単なる結果を超えて語り継がれる物語になる。
