2日連続300ゲーム達成
クルーズがシニアマスターズで快進撃
記録の余韻が残るラスベガス、視線はクルーズの次戦へ
ラスベガスのサムズ・タウン・ボウリングセンターで開催されている「2026 USBCシニアマスターズ」は、序盤から大会史に残る熱気に包まれている。その中心にいるのが、フロリダ州セブリング出身の54歳、左投げのアンソニー・クルーズだ。
クルーズは木曜日の予選第3ラウンドで、5ゲーム合計1,414ピンという驚異的なスコアを記録した。平均スコアは282.8。279、278、300、279、278というハイレベルなスコアを並べ、シニアマスターズの新記録を樹立するとともに、USBC史上でも4番目に高い5ゲームシリーズに並んだ。
この5ゲームで、クルーズは60投中56投でストライクを奪い、オープンフレームはゼロ。単なる好調という言葉では片づけられない、まさに歴史的な一日だった。
そして金曜日。マッチプレー初日を迎えた会場の関心は、ひとつの問いに集まっていた。
「クルーズは、あの歴史的パフォーマンスの翌日に何を見せるのか」
記録を出した翌日は、選手にとって最も難しい時間でもある。周囲の期待は一気に高まり、本人の中にも前日の感覚を再現しようとする意識が生まれる。そんな独特の重圧のなか、クルーズは再び観客を驚かせるパフォーマンスを見せた。
2日連続の300ゲーム、そして勝者組での生き残り
マッチプレー初戦、クルーズの相手はニューヨーク州ハンバーグのアンドリュー・レティグだった。
試合開始直後から、クルーズは完璧なスタートを切る。1フレーム目から12投連続でストライクを決め、いきなり300点のパーフェクトゲームを達成した。これでクルーズは2日連続の300ゲーム。さらに今大会では、すでに3度目のパーフェクトゲームとなった。
この300点により、クルーズの直近6ゲームの合計は1,714ピンに到達した。平均スコアは285.67。ボウリングの世界でも、これほど高い水準を複数ゲームにわたって維持することは極めて難しい。まさに異次元のスコアリングペースだった。
しかし、本人の受け止め方は意外なほど冷静だった。
クルーズは初戦について、「300点は出したが、投球内容は決して良くなかった」と振り返っている。むしろ、対戦相手のレティグのほうが良いボールを投げていたと感じていたという。それでも結果としてストライクが続き、自分に報酬が来た。クルーズの言葉からは、数字だけに酔わず、投球の質を冷静に見つめる姿勢が伝わってくる。
初戦は740対700でクルーズが勝利。続く第2戦では、カリフォルニア州リンカーンのジョー・ペトロビッチと対戦し、716対605で快勝した。これにより、クルーズはマッチプレー初日を2勝0敗で終え、無敗のまま勝者組に残った16人のひとりとなった。
完璧ではなくても勝ち切る強さ
クルーズの強さは、パーフェクトゲームを出したことだけにあるわけではない。むしろ注目すべきは、本人が「完璧ではなかった」と感じる状態でも勝ち切った点だ。
第2戦では、初戦よりも投球感覚は良かったという。ただし、前日の予選ほど簡単にはいかなかった。レーンの変化に応じて、より多くの調整が必要だった。それでもクルーズは冷静に対応し、ピンを倒し続け、勝利を手にした。
ボウリングでは、調子が良いときに高得点を出すことも重要だが、それ以上に大切なのは、感覚が万全でないときに崩れないことだ。特にシニアマスターズのようなメジャー大会では、レーンコンディションの変化、相手の投球、試合ごとの緊張感が重なり、常に同じ投球を続けられるわけではない。
そのなかでクルーズは、歴史的な勢いを保ちながらも、現実的な調整力を示した。大記録を生んだ爆発力と、苦しい局面でも勝ちを拾う安定感。その両方が、今大会のクルーズを特別な存在にしている。
歴史的記録が生んだ重圧
一方で、クルーズ自身は金曜日の序盤に強い緊張を感じていた。前日の歴史的なパフォーマンスが、翌日の心理状態に影響していたという。
木曜日の快挙は、本人にとっても周囲にとっても大きすぎる出来事だった。そのため金曜日の朝は、新しい一日というよりも、前日の続きのように感じられた。注目が集まれば集まるほど、普段通りに投げることは難しくなる。
スポーツにおいて、最高の結果を出した翌日は決して楽ではない。周囲はさらなる快投を期待し、選手自身も無意識のうちに前日の感覚を追いかけてしまう。特にボウリングは、リリースのわずかな違い、スピードの変化、回転軸、そしてレーン上のオイルの移り変わりが結果を大きく左右する競技だ。精神面の揺れは、そのまま投球の精度に影響する。
それでもクルーズは、緊張に飲み込まれなかった。初戦で300点を記録し、2試合を勝ち抜いた。結果だけを見れば圧倒的だが、その裏側には、重圧と向き合いながら一投ごとに対応していく姿があった。
クルーズは、週末に向けて「注目の大部分が過ぎ去ってくれれば」と語っている。もちろん、快進撃が続く限り注目が完全に消えることはない。それでも、会場の熱気が少し落ち着き、普段の感覚に近い状態で投げられることを望んでいるようだ。
次戦は同じく無敗のブライアン・ホフマン
土曜日にクルーズが迎える第3ラウンドの相手は、テキサス州サンアントニオのブライアン・ホフマンだ。ホフマンも金曜日に2勝0敗を記録しており、ジェフリー・ボンテを643対631、トニー・ルースを675対642で破って勝ち上がってきた。
クルーズはホフマンについて、自分と似たタイプのゲームを持つ選手だと分析している。ただし、ホフマンのほうがやや重いロールを投げるため、レーンの消耗を早める可能性があるとも見ている。そのため、クルーズはこれまでよりも早い段階で右へ移動する必要があるかもしれないと考えている。
この発言は、クルーズが勢いだけで勝ち上がっているわけではないことを示している。相手の球質がレーンに与える影響を読み、オイルの変化を予測し、自分の立ち位置やラインを調整する。トップレベルのマッチプレーでは、こうした判断の積み重ねが勝敗を分ける。
クルーズがここまで見せてきた爆発力は圧倒的だ。しかし、ここから先は単に高得点を出せばよいという段階ではない。相手も強い。レーンも変化する。プレッシャーも増していく。次戦のホフマン戦は、クルーズの対応力と冷静さが改めて問われる重要な一戦となる。
歴代王者たちも無敗で勝者組へ
金曜日には、クルーズ以外の実力者たちも順調に勝ち上がった。
2018年大会王者のクリス・ウォーレン、そして2015年と2019年に優勝しているアムレト・モナチェリも、マッチプレー初日を2勝0敗で終えている。USBCとPBAの殿堂入り選手であるモナチェリは、ジョシュ・ヘイルに718対680、デーブ・パフミに719対700で勝利。ベテランらしい安定感を見せた。
ウォーレンも、リック・メネリーを696対638、ジョン・バービッチを698対682で下し、勝者組に残った。ウォーレンが土曜日の第3ラウンドでクリス・ヒビッツに勝利すれば、次はサム・ベンチュラとトロイ・リントの勝者と対戦することになる。
特にリントは、第2ラウンドで803シリーズを記録している。278、247、278というスコアで、ブラジルのジャイル・ダルトラを803対636で圧倒した。この数字は、勝者組のなかでも大きな存在感を放つ内容だ。
さらに、勝者組の反対側にも強豪が並ぶ。USBCとPBAの殿堂入り選手であるジェイソン・カウチ、ミカ・コイブニエミ、そして2025年大会で4位に入ったアンソニー・フランクリンも勝ち残っている。勝者組は、実績ある名手と勢いに乗る選手が入り混じる、非常に見応えのある構図となった。
敗者復活側にも優勝候補がずらり
一方で、敗者側トーナメントに回った選手たちも、決して軽視できない顔ぶれだ。
ディフェンディングチャンピオンのトム・ドーティをはじめ、2024年優勝のジョン・ラコスキ、2022年優勝のディノ・カスティーヨが残っている。さらに、2023年スーパーシニアクラシック王者のジョン・マーサラ、USBCとPBAの殿堂入り選手であるクリス・バーンズ、昨年のシニアマスターズ準優勝者パーカー・ボーン三世も、敗者側から巻き返しを狙う。
ダブルエリミネーション形式では、一度敗れた選手にも優勝の可能性が残されている。むしろ、敗者側で厳しい試合を勝ち抜くなかで状態を上げ、終盤に大きな勢いを持って決勝へ進むケースもある。勝者組に残ることは大きなアドバンテージだが、敗者側に実力者が多い以上、最後まで安心できる選手はいない。
国際勢の活躍も今大会の見どころだ。ブラジルのジャイル・ダルトラ、ドミニカ共和国のロランド・セベレンなど、海外からの実力者も存在感を示している。セベレンは金曜日にパーフェクトゲームを達成し、第1シードのマイケル・マチューガを762対681で破る大きな勝利を挙げた。
勝者組と敗者側のどちらにも、優勝経験者、殿堂入り選手、勢いのある選手が残っている。大会はここから、さらに濃密な戦いへと進んでいく。
クルーズの物語は、まだ途中にすぎない
アンソニー・クルーズは、2026 USBCシニアマスターズで特別な存在になりつつある。
予選での5ゲーム合計1,414ピン。2日連続の300ゲーム。今大会3度目のパーフェクトゲーム。直近6ゲーム平均285.67。数字だけを並べても、その凄まじさは十分に伝わる。
しかし、クルーズの本当の強さは、記録そのものだけではない。歴史的快挙の翌日に注目と緊張を背負いながら、それでも勝ち切ったこと。投球内容に満足していなくても冷静に修正し、試合を支配したこと。相手の球質やレーン変化を見据え、次の一手を考えていること。そこに、メジャータイトルを狙う選手としての総合力が表れている。
大会は土曜日に再開され、3ゲーム合計ピンによるブラケットマッチが続く。最終的には上位5人がステップラダー決勝へ進出し、日曜日に優勝者が決まる。決勝はBowlTVでライブ配信される予定で、真のダブルエリミネーション形式により、トップシードを倒すには2度勝つ必要がある。
優勝者には、PBA50スケジュールにおけるメジャータイトルと、賞金2万ドルが贈られる。
クルーズがこのまま大会の主役であり続けるのか。それとも、モナチェリやウォーレン、カウチ、コイブニエミといった実績十分の名手たちが流れを変えるのか。あるいは、敗者側から強豪が一気に巻き返すのか。
歴史的記録から始まった今大会は、週末に向けてさらに緊張感を増している。クルーズの次の一投が、再び大会の空気を変えるかもしれない。
