チェリー・タン、2年ぶりの復活優勝
PWBAリラックシティ・オープンで通算6勝目

長いトンネルを抜けた、価値ある一勝

シンガポールのチェリー・タンが、ついに勝利の輪へ戻ってきた。

ニューヨーク州ロチェスターのABC Gates Bowlで開催された「PWBA Lilac City Open」で、タンは強豪たちを抑えて優勝。自身通算6個目となるPWBAタイトルを獲得した。彼女にとっては、2024年の「PWBA BowlTV Classic」以来、約2年ぶりのタイトルである。

この勝利は、単なる久々の優勝ではない。ここ数シーズンのタンは、投球フォームタイミング体重移動の乱れに苦しみ、自分本来のボウリングを取り戻すために地道な修正を続けてきた。何度か優勝に近づきながらも届かなかった時間。その悔しさと向き合い続けた末に手にしたタイトルだからこそ、今回の一勝には特別な重みがある。

試合後、タンはPWBAツアーについて「競争のレベルが高く、年々成長している」と語った。シンガポール代表チームとしてこの舞台に戻り、世界のトップ選手たちと戦えることを「祝福」と表現した言葉からは、競技への敬意と、再び勝者として立てた喜びがにじんでいた。

 

第1シードとして待ち受けた決勝の舞台

今大会のタンは、マッチプレー・ブラケットのラウンド8を勝ち抜いた選手の中で最上位となり、ステップラダー決勝では第1シードとしてタイトルマッチから登場した。

第1シードは、最後の試合だけを投げればよい有利な立場に見える。しかし、そこには独特の難しさもある。下から勝ち上がってくる選手は、レーンの変化を実戦の中でつかみ、勢いを持って決勝に臨んでくる。一方、待つ側は一発勝負でその流れを止めなければならない

タンの相手となったのは、アメリカ・オハイオ州デイトン出身のシャノン・プルハウスキーだった。

プルハウスキーは通算8勝目を狙う実力者であり、しかも今大会のわずか2日前には、同じABC Gates Bowlで行われた「PWBA BowlTV Open」を制していた。勢い、経験、実績のすべてを備えた相手である。

第3シードとしてステップラダーに臨んだプルハウスキーは、まずエリン・マッカーシー235対197で下し、続く準決勝ではカナダのフェリシア・ウォン218対191で破った。安定感のあるスコアで勝ち進み、最高の状態でタンの待つ決勝へたどり着いた。

つまり決勝は、復活を期す第1シードのタンと、連続優勝を狙う勢い十分のプルハウスキーによる、非常に見応えのある一戦となった。

 

左投げ同士の決勝戦を分けた、レーンへの対応力

決勝は、タンとプルハウスキーという左投げ同士の対決となった。

序盤は互いにストライクを奪い合う展開だった。両者とも第1、第2フレームでストライクを決め、試合は静かな緊張感の中で始まった。しかし第3フレーム、タンは7番ピンをミス。先に隙を見せた形となった。

ここでプルハウスキーが一気に主導権を握る可能性もあったが、第5フレームで4-6-10のスプリットを残す。プルハウスキーは6番、10番を倒すにとどまり、タンのミスを大きなリードにはつなげられなかった。5フレーム終了時点で両者は並び、勝負の行方は中盤以降へ持ち越された。

流れを引き寄せたのはタンだった。

第6フレームから第8フレームにかけて、タンは3連続ストライクを決める。一方のプルハウスキーは、その間に1つのストライクを挟みながらも、7番ピンのカバーが続き、得点を伸ばし切れなかった。ここで試合の重心は、はっきりとタンの側へ傾いた。

勝負を分けた要因の一つは、レーンコンディションの変化だった。

タンは試合後、左側のレーンの変化が自分の投球スタイルに合っていたと振り返った。フロント部分が削れていたことで、ボールを左へ出し、そこから曲げてポケットへ戻すラインが自然に使えたという。

タンは、プルハウスキーやウォンと比べて、やや大きくボールを振っていくタイプの選手である。そのため、レーンが変化した状況では、自分の得意な形を作りやすかった。彼女自身も、その強みが試合中に表れたと語っている。

ボウリングでは、技術だけでなく、レーンの変化を読む力が勝敗を左右する。特にトップレベルの試合では、わずかなラインの違いやオイルの削れ方が、ストライクとスプリットを分ける。タンはその変化を冷静に見極め、自分の武器へと変えた

 

プレッシャーを越えた最終フレーム

第9フレームには、試合の流れが大きく揺れかける場面があった。

タンの投球はポケットに入ったものの、一瞬、7-10スプリットが残るかに見えた。しかし、立っていた7番ピンが遅れて倒れ、最悪の展開を回避する。続く投球では10番ピンを確実に処理し、タンは優位を保ったまま最終フレームへ進んだ。

最終フレームで必要だったのは、確実なマークだった。ここでミスをすれば、プルハウスキーに逆転の可能性を与える。2年ぶりのタイトルがかかる一投。待ち続けた勝利が目前にあるからこそ、そのプレッシャーは計り知れない。

しかし、タンは崩れなかった。

最終フレームの一投目でストライクを決め、勝利を大きく引き寄せる。最後は225点でゲームを締めくくり、206点のプルハウスキーを破って優勝。賞金1万ドルを手にした。準優勝のプルハウスキーには5,000ドルが贈られた。

スコア以上に印象的だったのは、タンの落ち着きだった。序盤にミスがあり、終盤には危うい場面もあった。それでも自分の投球を信じ、必要な場面で最善の一投を投げ切った。そこに、長く苦しんできた選手だからこその精神的な強さがあった。

 

フォーム再構築の2年間

今回の優勝が特別なのは、タンがこの2年間、自分のボウリングを立て直す作業を続けてきたからである。

彼女は昨年も何度か優勝に近づいた。しかし、自分の投球が本来の状態ではないことを理解していた。タイミングが合わず、安定感にも欠ける。結果だけを見れば惜しい試合もあったが、本人の中には納得し切れない感覚が残っていた。

特に大きな課題となっていたのが、体重移動とフットワークだった。

タンは、体重移動が正しくできていなかったことに加え、それを修正しようとすればするほど状態を悪化させてしまったと明かしている。そこで彼女は、一度すべてをリセットする決断をした。フットワークを再構築し、投球のタイミングを身体に覚え直させる必要があった。

トップ選手にとって、長年積み上げてきた投球動作を変えることは簡単ではない。むしろ、実績がある選手ほど、身体に染みついた感覚を修正するのは難しい。タンは約1年間、悪いタイミングのまま投げ続けていたと語っており、そこから抜け出すには、まさに一からやり直す覚悟が必要だった。

この過程は、外から見れば地味なものかもしれない。だが、競技者にとっては最も苦しい時間でもある。試合で勝つ以前に、自分の身体、自分の感覚、自分の投球を信じ直さなければならないからだ。

今回の優勝は、その積み重ねがようやく結果として現れた瞬間だった。

 

ステップラダー決勝を彩った選手たち

今大会のステップラダー決勝は、エリン・マッカーシーとシンガポールのニュー・フイフェンによる初戦から始まった。

マッカーシーは2026年にUSBC Queensでメジャータイトルを獲得しており、今季さらなる優勝を狙う存在だった。一方のニューは、今季6大会中5度目のチャンピオンシップラウンド進出。優勝こそまだ届いていないものの、抜群の安定感を示していた。

初戦は、どちらも決定打を欠く展開となった。ニューは第10フレームまでに3度のオープンフレームを作り、マッカーシーもストライクを連続させることができない。終盤、マッカーシーはダブルを持って最終フレームに入り、マークを取ればニューを封じる場面を迎えた。

しかし、投球が厚く入り、4-6-10のスプリットを残して190点で終了。ニューには第10フレームで3連続ストライクが必要となったが、こちらも投球が厚く入り、6番ピンを残した。ニューは177点で敗れたものの、今季5度目のトップ5入りを果たし、3,000ドルを獲得した。

続く試合では、プルハウスキーがマッカーシーを圧倒した。マッカーシーは複数回のボール変更で流れを変えようとしたが、最後まで安定したラインを見つけ切れなかった。プルハウスキーは235点をマークし、197点のマッカーシーを下した。マッカーシーは4位となり、3,500ドルを獲得している。

準決勝では、フェリシア・ウォンとプルハウスキーが対戦した。序盤は数ピン差の接戦だったが、ウォンは第6フレームから第9フレームにかけて、良い投球をしながらもピンが飛び切らない場面が続いた。対するプルハウスキーはその隙を逃さずリードを広げ、218対191で勝利した。

ウォンにとっては、自身2度目のチャンピオンシップラウンド出場だった。結果は3位だったが、4,000ドルを獲得し、今後につながる内容を残した。

こうして勝ち上がったプルハウスキーを、最後に待ち受けていたのがタンだった。勢いのある挑戦者と、復活を懸けた第1シード。その対決を制したからこそ、タンの優勝はより鮮やかなものとなった。

 

一投ずつ積み重ねた先にあった復活

チェリー・タンのPWBA Lilac City Open優勝は、約2年ぶりのタイトルという記録以上に、競技者としての再生を示す勝利だった。

不調を認めること。原因と向き合うこと。長年の感覚を一度手放し、基本から作り直すこと。どれも簡単な作業ではない。特に、すでに世界の舞台で結果を残してきた選手にとって、自分を作り直す決断には大きな勇気が必要だ。

タンはその過程から逃げなかった。勝てない時間の中でも練習を重ね、少しずつ投球を修正し、試合で再び信じられる形へと戻していった。そして今回、強豪プルハウスキーとの決勝で、その成果をはっきりと示した。

序盤のミスにも動じず、中盤でレーンの変化を味方につけ、終盤の重圧にも耐えた。最後に必要な一投でストライクを決めた姿は、まさに復活を象徴するものだった。

タンは今後について、「勢いを持ち越すことではなく、今に集中し、一投ずつ向き合うことが大切」と語っている。この言葉は、苦しい時間を経験した彼女だからこそ説得力を持つ。勝利に浮かれるのではなく、次の一投に集中する。その姿勢こそが、彼女を再び頂点へ導いたのだろう。

PWBAツアーはこの後、6月4日から6日にかけて、オハイオ州コロンバスのHPL Bowling Centerで開催される「PWBA Barbara Chrisman Classic presented by Storm」へと続く。

タンはこの優勝を新たな出発点にできるのか。プルハウスキー、ニュー、マッカーシー、ウォンら実力者たちはどのように巻き返すのか。シーズンの行方はまだ分からない。

ただ一つ確かなのは、リラックシティ・オープンの主役がチェリー・タンだったということだ。2年ぶりの勝利には、数字だけでは語れない努力と葛藤、そして再び頂点に立つための確かな意志が込められていた。