世界最高峰のコーチ、マーク・ベイカーが語る現代ボウリング
リリースより先に見直すべき「本当の原因」とは
記事に入る前に、音声による要点解説をお聞きいただくと、内容が一段と理解しやすくなります。
要点音声解説
本要点音声解説は、「Brad and Kyle」掲載の動画内容をGemini Notebook を用いて生成したものです。
上達を阻んでいるのは「リリースへのこだわり」かもしれない
ボウリングでスコアを伸ばしたいと考えたとき、多くのボウラーが真っ先に意識するのがリリースだ。
もっと回転数を増やしたい。ボールの内側に手を入れたい。手をボールの後ろに残したい。もっと大きなフックを生み出したい。
動画やSNSを見れば、トップ選手の手元を拡大した映像が数多く公開されている。だからこそ、「強いボールを投げるには、リリースを変えなければならない」と考えるのは自然なことでもある。
しかし、世界トップクラスの選手たちを長年指導してきた名コーチ、マーク・ベイカーは、その考え方に明確な警鐘を鳴らしている。
Beef and Barnzy Showに出演したベイカーは、現代ボウリングで急増しているツーハンドやノーサムスタイル、リリースへの過剰な意識、フットワーク、スピードコントロール、身体の使い方などについて幅広く語った。
番組ではベイカーを「ボウリング界最高のコーチ」と紹介。現在もリンブルックとファウンテンボウルを中心に指導を続け、対面レッスンだけでなく、オンラインでのコーチングも活発に行っている。
今回の発言を通して浮かび上がるのは、非常にシンプルでありながら奥深い考え方だ。
リリースは原因ではなく、投球全体の結果として現れる。
だからこそ、リリースを変えたいのであれば、最後の一瞬だけを見るのではなく、その前に何が起きているのかを見なければならない。
マーク・ベイカーが語る「現代ボウリングで本当に直すべきもの」
ツーハンドとノーサムは、もはや特殊なスタイルではない
ベイカーが現在の指導現場で最も大きな変化として感じているのが、2フィンガー・ノーサム、そしてツーハンドボウラーの増加だ。
特にジュニア世代ではその傾向が顕著で、ベイカーの感覚では、指導に来る子どもの約80%がツーハンドだという。
しかも、この流れは若い世代だけに限らない。
25歳以上でボウリングを始めた男性や、身体能力が高く「ボールを大きく曲げたい」と考える初心者の間でも、2フィンガー・ノーサムは非常に人気が高い。
これは、従来のボウリングにおける上達の入り口とは少し違っている。
かつては、まず助走を覚え、狙った場所へ安定して投げ、スペアを確実に取り、スコアをまとめていくという流れが一般的だった。
しかし現在の新規ボウラーは、最初の段階から「どうすれば曲げられるか」「どうすれば回転を増やせるか」という部分に強く興味を持つ。
ベイカーも、初心者の中には、安定して180点台を打つことよりも、多少オープンフレームがあっても4連続ストライクを出し、大きく曲がるボールを見ることを好む人が多いと語っている。
つまり現代では、「曲がること」そのものがボウリングを好きになる入口になっている。
そして、この変化を加速させた存在がYouTubeだ。
YouTubeはボウリング人口を広げた一方で、新たな落とし穴も生んだ
友人同士でボウリングに行き、隣のレーンで大きくフックさせているボウラーを見る。
「どうして自分のボールは曲がらないのか」
そう思った人は、すぐにスマートフォンで検索できる。
そこには、ボールの曲げ方、回転数の上げ方、ツーハンドの投げ方、リリースの作り方まで、膨大な解説動画が並んでいる。
ベイカーは、この環境の変化について非常に肯定的だ。
動画を見て試し、少し曲がるようになる。ストライクが出る。ダブルが出る。
すると競技が面白くなり、数カ月後には複数のマイボール、スペアボール、表面調整用のパッドまで持つようになる。
ベイカーはこうした流れを例に挙げながら、YouTubeはボウリングというスポーツに大きな恩恵を与えたと評価している。
以前であれば、専門的な技術を学ぶには身近に上級者やコーチがいることが重要だった。
現在は、ジェイソン・ベルモンテやEJタケットのフォームを何度でも見返し、一時停止やスロー再生を使いながら研究できる。
これは間違いなく大きな進歩だ。
しかし、その一方で見落とされやすい部分もある。
動画で最も目立つのは、どうしても「手元」だからだ。
ボールのどこに手が入っているのか。手首はどう動いているのか。指はどのタイミングで抜けているのか。
その結果、投球全体ではなく、リリースだけを切り取って真似しようとするボウラーが増えやすい。
ベイカーが今回の番組で強く問題視したのは、まさにこの点だった。
「ボールの後ろに手を残す」ことを考えすぎてはいけない
番組では、
「最近、ボールの後ろに手を残すことよりも、ターンを遅くすることを重視していますか」
という質問が寄せられた。
ベイカーの答えは非常に明快だった。
ボウラーは手の位置を気にしすぎている。
しかも問題なのは、手について考えていること自体ではなく、考えるタイミングが遅すぎることだという。
バックスイングのトップに到達し、ダウンスイングへ移ろうとする瞬間に、
「もっと手を内側に入れよう」
「手をボールの後ろに残そう」
「もっと回転をかけよう」
と考えてしまう。
すると、本来最優先されるべき「狙ったラインへボールを送り出す」という動作への集中が失われる。
ベイカーによれば、トップ選手にバックスイングの頂点で何を考えているかを尋ねれば、多くの選手は手の形ではなく、ボールを狙ったラインへ乗せることを考えているという。
トップ選手は、リリースの瞬間に手でボールを作っているわけではない。
それまでの身体の動きが整っているからこそ、最後に自然なリリースが現れる。
一方でアマチュアボウラーほど、
「回転数を上げたい」
「ボールの内側を使いたい」
「ヨーヨーのように投げたい」
「ムチをしならせるように使いたい」
といった意識を持ちやすい。
ベイカーは、こうした手の操作を強く意識すると、結果として投球精度が落ち、リリースポイントも不安定になりやすいと指摘している。
これは、多くのボウラーにとって耳の痛い話かもしれない。
しかし同時に、大きなヒントでもある。
リリースで何かを「足そう」とするほど、投球全体の再現性を失っている可能性があるからだ。
本当に重要なのは「どれだけ回すか」ではなく「どこで回すか」
ベイカーのリリース理論で最も重要なポイントの一つが、
「どれだけターンするかではなく、どこでターンするか」
という考え方だ。
回転を増やしたいボウラーは、手を大きく回すことを意識しやすい。
しかし、手を大きく回すことと、良いボールを投げることは同じではない。
ベイカーはむしろ、優れた選手ほどターンが少なく、しかも遅いと考えている。
彼は足のアーチ付近から、その数インチ前方までを「リリースウインドウ」と捉えている。
重要なのは、その限られた範囲のどこでターンが始まるかだ。
早い段階で手がボールの横へ回ってしまえば、方向性を失いやすくなり、狙ったブレークポイントへボールを送り続けることも難しくなる。
一方、ターンをできるだけ待ち、リリースウインドウの終盤までボールの後方に手を残すことができれば、より高い精度でラインを作りやすくなる。
この能力について、ベイカーが代表例として挙げたのがEJタケットだ。
ベイカーは、リリースウインドウの最後でターンする能力について、タケットは世界最高レベルだと評価している。
重要なのは、タケットと同じ手の形を作ることではない。
見るべきなのは、ターンを急がず、必要な場所まで待てていることだ。
そして、ターンが少なく遅いボウラーには共通点があるという。
それが、
高い投球精度とブレークポイントコントロール
だ。
ストライクを増やすうえで必要なのは、最大回転数を記録することではない。
狙った場所から、狙った形でボールを曲げ続けることだ。
ベイカーの理論は、回転数よりも再現性こそがスコアを作ることを改めて示している。
リリースは「原因」ではなく、投球全体の「結果」である
ベイカーが自身のコーチングを説明する際に用いた、非常に印象的な例えがある。
それがルービックキューブだ。
ボウラー全体を一つのルービックキューブだと考え、その中の一面をリリースとする。
多くの選手は、その一面だけを何とか揃えようとする。
しかし実際の投球には、
タイミング、バランス、リズム、投球精度、ブレークポイントコントロールといった複数の要素がある。
一面だけを完成させようとしても、他の面が崩れていれば投球全体は完成しない。
ベイカーはこの考え方から、ファウルライン付近だけで行うリリースドリルについても慎重な見方を示している。
問題なのは、リリースドリルそのものではない。
そこだけに集中してしまうことで、本来もっと難しく、もっと重要な部分を飛ばしてしまうことだ。
ベイカーが挙げているのは、
タイミング、バランス、リズム、精度、ブレークポイントコントロール
である。
投球の流れを順番に考えてみれば、この指摘は非常に合理的だ。
リリースの直前にはダウンスイングがある。
その前にはバックスイングがある。
さらに前にはプッシュアウェイがあり、フットワークがあり、姿勢があり、テンポがある。
つまり、リリースだけが独立して存在しているわけではない。
たとえば、助走とスイングのタイミングが遅れれば、最後に手でボールを合わせようとする可能性が高くなる。
身体がスイングの通り道を塞いでいれば、ボールは身体を避けて外側や後方へ回る。
フィニッシュでバランスを崩せば、手首や腕を使って無理に方向修正しようとする。
その最終的な姿だけを見て、
「リリースが悪い」
と考えてしまえば、本当の原因を取り逃がしてしまう。
リリースで起きているミスの原因は、リリースより前に存在している可能性が高い。
これこそが、今回のベイカーの発言で最も重要なポイントの一つだ。
ツーハンドで球速を上げたいなら、先にメカニクスを整える
番組では、58歳でワンハンドからツーハンドへ転向して3カ月という視聴者から、
「フォームを先に完成させ、その後で球速を上げるべきか。それとも両方を同時に鍛えるべきか」
という質問が寄せられた。
ベイカーの答えは、
「スピードを見つけるためには、まずメカニクスが必要」
というものだった。
フォームが整っていない状態で無理に球速を求めれば、人間は本能的に肩や上半身の力を使い始める。
特にツーハンドでは、肩を回しすぎることでボールが身体から外側へ離れやすくなる。
右投げの場合、リリースで手が本来通るべき右足首付近から離れ、結果として手がボールの横へ回り込みやすくなる。
ベイカーは、これをツーハンドが本来使うべきパワーの生み方ではないと説明している。
重要なのは、スライドへ入る瞬間のボール位置だ。
右投げの場合、スライドへ入るときにボールが右太ももの後方にあることが重要になる。
この位置関係ができていれば、肩の力だけに頼らず、身体全体を使って効率良くエネルギーをボールへ伝えられる。
ここでも順序が重要になる。
「速く投げよう」と考えるのではない。
速いボールが自然に生まれる身体の使い方を先に作る。
結果を直接追うのではなく、結果が生まれる構造を整える。
これはワンハンドでもツーハンドでも共通する考え方だろう。
ベルモンテから学ぶべきなのは高回転だけではない
ツーハンドの技術についてベイカーが何度も名前を挙げたのが、ジェイソン・ベルモンテだ。
しかし、ベイカーが注目しているのはベルモンテの圧倒的な回転数だけではない。
むしろ重要視しているのは、アプローチ序盤にどのタイミングで上半身を傾けるかという部分だ。
多くのツーハンドボウラーは、プッシュアウェイした直後から上体を前へ倒そうとする。
身体を低くすれば力強く投げられるように感じるからだ。
しかしベイカーによれば、この前傾が早すぎると、左腕が使える長さを短くしてしまう。
ベルモンテの場合、アプローチ序盤の数歩では比較的高い姿勢を保ち、頭の高さを急激には下げない。
そしてボールが右腰付近まで後方へ移動したタイミングで、初めて背骨の傾きを大きくしていく。
ベイカーはこの変化を、「ブランコからシーソーへ変わる」と表現している。
アプローチ序盤ではブランコのようにボールを前後へ動かす。
そしてボールが身体の後方へ入ったところで頭が下がり、その反作用によって手が上がる。
これによって、身体とスイングの動きが連動する。
多くのツーハンドボウラーは、この背骨の傾きを早く作りすぎる。
その結果、スイングのための空間が十分に確保できず、ボールが身体へ巻き付くような軌道になることがある。
ツーハンドのフォームを見ると、どうしても大きな回転や深い前傾に目を奪われる。
しかしベイカーが本当に見ているのは、
「どれだけ動くか」ではなく「いつ動くか」
という点なのだ。
身長が高いボウラーほど「身体のひねり」と待つ時間が重要になる
身体の大きなツーハンドボウラーに対する質問もあった。
ベイカーは、指導しているGageが非常に長身であることを例に挙げながら、背の高い選手ほど身体を前へ倒しすぎたときに、脚を再び身体の下へ戻すことが難しくなると説明している。
そのため重要になるのが、特定のステップで身体をひねって力をため、ボールを待てる状態を作ることだ。
背が高いからといって、大きな身体をより大きく動かせばいいわけではない。
むしろ長い腕や脚という大きなレバーを持つからこそ、タイミングを合わせる必要がある。
イェスパー・スベンソンについては、スイングの周囲を歩くような独特のフットワークによって、その問題に対応しているとベイカーは説明している。
ここからも分かるように、トップ選手のフォームは必ずしも一つの型に収まってはいない。
身体的特徴が違えば、必要な動きも違う。
重要なのは、見た目を同じにすることではなく、
自分の身体で正しいタイミングと位置関係を作れているかどうか
である。
4歩、5歩、6歩に絶対的な正解はない
フットワークについても、ベイカーは興味深い考え方を示している。
番組内でStu Williamsが5歩から6歩へ変更したことを話すと、ベイカーはピート・ウェバー、ノーム・デューク、パトリック・アレンなど、6歩助走で成功したトップ選手の名前を挙げた。
さらに、自身がツアーで競技していた時代には、マイク・オールビーやブライアン・ヴォスが4歩と5歩を頻繁に切り替えていたという。
ある歩数で数カ月好調を維持し、結果が出なくなると歩数を変える。
すると、再び投球が良くなる。
この話から分かるのは、歩数そのものに絶対的な正解はないということだ。
5歩が優れているわけでも、6歩が特殊なわけでもない。
助走の歩数は、自分のスイング、テンポ、球速、タイミングを合わせるための手段の一つにすぎない。
番組内では、歩数が多い場合、最初の一歩がペースを作る役割を持ちやすく、スピードコントロールにも幅を持たせやすいのではないかという話も出ている。
つまり、フットワークを「何歩が正しいか」という固定された型で考えるより、
自分のスイングとリズムを合わせるための調整機構として考えるほうが重要
ということになる。
プラントは間違いではない。しかしスイングへの影響は理解すべき
最後の一歩でスライドせず、足を止める「プラント」についても質問が寄せられた。
質問者は、プラントスタイルのためスイングにフラットスポットを作れないと感じており、スライドを習得する必要があるのかと尋ねている。
ベイカーは、プラントを行うと左足のかかとが床に固定され、その瞬間に肩が下へ引かれやすくなると説明している。
その結果、スイングが緩やかな軌道ではなく、急なV字型になりやすい。
つまり、最後の一歩の使い方がスイングの底の形そのものに影響しているということだ。
一方で、プラントスタイルでも成功した選手は存在する。
ベイカーはシャノン・プロウスキーやクリス・ヴァイの名前を挙げている。
ただしヴァイについては、その後スライドを取り入れたとしている。
ここでも重要なのは、
「プラントだから悪い」「スライドだから正しい」と単純化しないこと
だ。
自分がどのようなボール軌道を作りたいのか。
そのために今のフットワークがどう影響しているのか。
そこまで理解したうえで変更する必要がある。
ファウルラインから離れていても、それ自体は問題ではない
55歳の視聴者からは、
「いつもファウルラインから12〜18インチ手前で止まってしまう。スタート位置を前にしても同じ場所に来る」
という質問も寄せられた。
一般的には、ファウルラインまでしっかり近づくことが理想だと考えられがちだ。
しかしベイカーは、必ずしもその距離を問題視する必要はないと説明している。
頭がスライドしている膝の上にあり、ボールがレーン上の2〜3フィート先へ向かって適切に送り出されているのであれば、12〜18インチ離れていても大きな問題ではないという。
デイブ・ヒューステッドもファウルラインから距離を残していたが、非常に良い軌道を作っていたと例に挙げている。
問題になるのは、距離そのものではない。
身体が前へ突っ込み、ボールを前ではなく下方向へ落としてしまう場合だ。
この回答にも、ベイカーのコーチング哲学がよく表れている。
見た目の形よりも、その動作がどのような結果を生んでいるかを見る。
ファウルラインから何センチ離れているかではなく、そこから正しい軌道を作れているかどうかを見るのである。
球速を落とすときに「弱く投げる」必要はない
480rpmという高い回転数を持つワンハンドボウラーからは、球速を落としながら大きな角度を作りたいという質問が寄せられた。
ベイカーは、球速を落とす場合、アプローチ上でスタート位置を前へ移動することが一つの方法になると説明している。
助走距離を短くすることで、脚、身体、腕といった投球に関わる複数のレバーをまとめて減速させる。
つまり、腕だけで弱く投げるのではない。
投球全体のテンポを落とす。
さらに、レーンが大きく曲がる状況では、適切なタイミングで立ち上がるボールを選ぶことで、しっかりした投球を維持しながらパターンを投げ越さないようにすることも重要だとしている。
EJタケットについては、単純に手元の球速を落とすのではなく、軸の転がり方を利用しながらダウンレーンでボールを減速させると表現している。
これはスピードコントロールを考えるうえで重要な視点だ。
球速とは、手から離れた瞬間の数字だけではない。
助走、テンポ、ボール選択、軸回転、レーン上での減速まで含めて、一つのボールモーションが作られている。
ジリアン・マーティンの強さに見る「頭とボールの位置関係」
番組では、ジリアン・マーティンの強さについても質問が寄せられた。
質問者が注目していたのは、リリース時に頭がボールに対して右側へ置かれているように見える点だった。
ベイカーは、優れたボウラーの多くに共通する特徴として、リリース時にボールが頭の真下から出てくることを挙げている。
マーティンについては、あらかじめ少し身体をセットする姿勢、高い身体能力、PWBAツアーでも高い回転数、十分な球速、そして低めのアクシスローテーションを評価している。
特に低いアクシスローテーションによって、バックエンドでボールを強く前方向へ転がせる点を挙げている。
ここでも、単純な回転数だけを見ているわけではない。
頭、ボール、身体の位置関係、球速、軸回転が組み合わさって強いボールモーションになる。
一つの数字や一つの動作だけで強さは説明できない。
スイングが身体の後ろへ回るなら「腕」ではなく「足」を見る
「スイングがいつも身体の後ろへ行ってしまう」という質問に対し、ベイカーはクリス・プレイザーやデイブ・ヒューステッドのフットワークを見るよう勧めている。
ポイントは、最初のステップを真っすぐ出し、次のステップを身体の前へ入れ、その後クロスオーバーを使うこと。
さらにピボットステップを適切に入れることで、ダウンスイングの通り道から身体を外していく。
そのうえでプッシュアウェイは身体を横切らせるのではなく、ターゲット方向へ出すことが重要になる。
ここには、今回のテーマを象徴する非常に重要な考え方がある。
スイングが身体の後ろへ回っていると、多くの人は「腕を真っすぐ振らなければ」と考える。
しかし、身体そのものがスイングの通り道を塞いでいるのであれば、腕を直そうとしても根本的な解決にはならない。
ボールは身体を避けるために後方へ回っている可能性があるからだ。
つまり、
問題が現れている場所と、問題を生み出している場所は必ずしも同じではない。
この視点を持てるかどうかが、効率の良いフォーム改善につながる。
ノーサムでは「手を置く位置」がボールリアクションまで変える
ツーハンド、ノーサム特有の興味深いテーマとして、ボール上の手の位置についても語られた。
サムホールを使用するワンハンドでは、親指の穴によって手の位置がある程度固定される。
しかしノーサムの場合、その基準がない。
ベイカーは、ノーサムでは手のひらそのものがアンカーになると説明している。
そのため、ボールに手を置く位置が毎回変われば、ピンとPAPの距離やトラックとの関係まで変わってしまう可能性がある。
本人は同じボール、同じ投げ方をしているつもりでも、実際にはボールに対する手の位置そのものが変わっていれば、リアクションの再現性にも影響する。
ノーサムでは親指がない分、グリップが自由に見える。
しかし自由度が高いからこそ、
毎回同じ場所に手をセットする再現性がより重要になる。
投球は助走開始と同時に始まっているのではない。
ボールを構え、どこへ手を置くかという段階から、すでに再現性は問われている。
スタート位置や歩幅に「万能の公式」はない
番組終盤では、
「スタート位置やステップの長さに公式はあるのか。それとも感覚なのか」
という質問も出ている。
ベイカーの答えは、基本的には感覚であり、自分のマーカーと一致させることが重要だというものだった。
特に重視しているのは、
すべてのステップでバランスを保ち、頭を足の上に置くこと
そして、
スイングのトップと自分のタイミングポイントを一致させること
である。
何センチの歩幅が正しい、何歩目で何枚左へ動くべき、といった万能の公式があるわけではない。
身体の大きさ、スイング、テンポ、球速が違えば、最適な歩幅も変わる。
ここでもベイカーの考え方は一貫している。
見た目を同じにするのではなく、必要なタイミングと位置関係を作る。
トップ選手のフォームをそのままコピーすることよりも、そのフォームによって何が実現されているのかを理解することのほうが重要なのである。
「リリースを直すために、リリース以外を見る」という発想
今回のマーク・ベイカーの発言には、現代ボウリングを考えるうえで非常に重要な示唆が数多く含まれている。
ツーハンドやノーサムの普及によって、以前よりも大きな回転やフックを生み出しやすい時代になった。
YouTubeを開けば、世界トップクラスの投球を何度でも確認できる。
だからこそ、手首、指、回転数、リリースといった「最後に目に見える動作」へ意識が集中しやすい。
しかし、ベイカーの考え方はその逆だ。
リリースは投球全体の最後に現れる結果であり、その前に起きたすべての動作の影響を受けている。
タイミングが整い、バランスが整い、適切なリズムで身体が動き、スイングの通り道が確保される。
その結果として、初めて再現性の高いリリースが生まれる。
そしてトップボウラーほど、最後の瞬間に必要以上の操作を加えない。
少なく、遅くターンし、狙った場所へ正確にボールを送り、ブレークポイントをコントロールする。
回転数が注目されやすい現代だからこそ、この考え方はさらに重要になっている。
リリースが不安定なら、リリースだけを見るのではない。
助走は合っているか。
スイングのタイミングは合っているか。
頭は足の上にあるか。
身体がスイングの通り道を塞いでいないか。
上半身を倒すタイミングは早すぎないか。
ボールを置く手の位置は毎回同じか。
そこまでさかのぼって考える必要がある。
問題が見えている場所と、本当の原因がある場所は違うことがある。
そして最も重要なのは、
「リリースを直すために、リリース以外を見る」
という発想だ。
世界トップクラスの選手を長年指導してきたマーク・ベイカーの言葉は、フォーム改善に悩む多くのボウラーにとって、技術の優先順位を見直す大きなヒントになりそうだ。