PBA世界選手権の名勝負ランキング
タケット4連覇挑戦が示す新時代
次に刻まれるのは「17人目」の王者か、それとも前人未到の偉業か
PBAワールドシリーズ・オブ・ボウリングは、これまで16人のメジャーチャンピオンを生み出してきた。そして次回、AMF PBA世界選手権ファイナルで、新たな歴史が刻まれようとしている。舞台となるのは、ミシガン州アレンパークのサンダーボウル・レーンズ内にあるストローブル・アリーナ。PBAの節目を迎えるには、これ以上ない場所だ。
最大の注目は、EJタケットの4連覇挑戦である。タケットは現在、PBA世界選手権を3連覇中。次の決勝ではステップラダーの最上位で挑戦者を待ち受ける。もし勝利すれば、PBAツアーイベントで4年連続優勝という前例のない偉業に手をかけるだけでなく、4年連続PBA年間最優秀選手賞という記録的な栄誉も大きく近づく。
一方、プレーイン・ステップラダーにはジェイソン・ベルモンテをはじめとする実力者たちが名を連ねる。ベルモンテは現代ボウリングの常識を塗り替えてきた存在であり、彼が勝ち上がれば、タケットとの対決は再びPBA史に残る大一番となるだろう。
PBA世界選手権の魅力は、単なるタイトル争いにとどまらない。そこには、選手の評価を一変させる一投があり、時代の主役を決定づける勝利があり、観客の記憶に深く刻まれるドラマがある。今回は、PBA世界選手権の名勝負ランキングを振り返りながら、この大会がなぜ特別なのか、そしてタケットの挑戦がどれほど大きな意味を持つのかを読み解いていく。
ランキングで振り返るPBA世界選手権の名勝負
PBA世界選手権の歴史には、スコアだけでは語り尽くせない勝利がいくつも存在する。歴史的な意義、試合終盤の緊張感、選手の感情、観客の反応。そうした要素が重なったとき、ひとつの試合は単なる勝敗を超え、競技の記憶として語り継がれていく。
ここでは、PBA世界選手権の中でも特に印象深い勝利を、ランキング形式で振り返る。
第5位:2017年 ジェイソン・ベルモンテ、シーズン3つ目のメジャー制覇
第5位は、2017年のジェイソン・ベルモンテによるPBA世界選手権制覇である。この勝利は、ベルモンテが「現代最高」から「史上最高級」の存在へと評価を押し上げた象徴的な一戦だった。
この年のベルモンテは、シーズン序盤から圧倒的だった。プレーヤーズ選手権を制し、USBCマスターズでは3連覇を達成。そしてシーズン最後のメジャーである世界選手権でも第2シードとして決勝に進出した。
当時、1シーズンで3つのメジャータイトルを獲得した選手はまだ存在していなかった。アール・アンソニー、ウォルター・レイ・ウィリアムズJr.、ドン・カーター、ディック・ウェバー、ピート・ウェバー、マーク・ロス、マーシャル・ホルマンといった伝説的な名手たちでさえ、到達できなかった領域である。
決勝では、イェスパー・スヴェンソンを相手に、ベルモンテらしい強烈なメッセンジャーで勝利を決定づけた。この優勝により、ベルモンテはわずか6年間で9つ目のメジャータイトルを獲得した。ピート・ウェバーが9つ目のメジャーに到達したのがキャリア32年目だったことを考えると、そのスピードがいかに異次元だったかが分かる。
この勝利は、単なるタイトル獲得ではなかった。ボウリング界に対して、「これまで誰も見たことのない選手が、今この時代にいる」という事実を突きつけた一戦だった。
第6位:2025年 EJタケット、王者の証明となった世界選手権3連覇
第6位は、2025年のEJタケットによるPBA世界選手権3連覇である。2年連続の世界王者として大会に臨んだタケットは、トップシードのジェイソン・ベルモンテと対戦した。
このカードは、2023年の世界選手権タイトルマッチの再戦でもあった。現代PBAを代表する2人が、再びメジャータイトルを懸けて向き合う。試合前から大きな期待を集めていたが、内容もその期待を裏切らなかった。
勝負どころは終盤に訪れた。タケットはベルモンテを完全に突き放すため、ダブルが必要な状況を迎える。極限のプレッシャーがかかる場面で、タケットは自ら「キャリア最高のショット」と語る投球を放った。技術だけではなく、重圧の中で最高の一投を出し切る精神力こそ、王者に求められる資質である。
この年のタケットは、WSOB XVIで5つすべてのチャンピオンシップラウンドに進出。さらにシャーク選手権のタイトル防衛にも成功し、そのうえで世界選手権3連覇を達成した。安定感、爆発力、勝負強さのすべてを兼ね備えたパフォーマンスだった。
今、タケットは4連覇という前人未到の挑戦に向かっている。2025年の3連覇は、その偉業へと続く重要な通過点であり、彼がこの時代の主役であることを改めて証明する勝利だった。
第7位:2010年 クリス・バーンズ、批判を沈黙させたトリプルクラウン完成
第7位は、2010年のクリス・バーンズの優勝である。この勝利は、彼のキャリアに対する評価を大きく変えた。
当時のバーンズは、PBA屈指の実力者として知られていた。ショットメイクの精度は高く、総合力も抜群。しかし一方で、テレビ決勝では勝ち切れない選手という印象がつきまとっていた。12回の優勝経験がありながら、タイトルマッチで22回敗れていたこともあり、実況や解説では「素晴らしい選手だが、大舞台では苦しむ」という見方が繰り返されていた。
しかし、2010年の世界選手権でバーンズはその評価を完全に覆す。
プレーインではマイケル・ハウゲンJr.を243対172で破り、勢いに乗った。その後もオスク・パレルマーを246対176、ショーン・ラッシュを237対161、ビル・オニールを267対237で撃破。すべての試合で30ピン以上の差をつける圧勝だった。
平均スコアはほぼ250。内容にも結果にも隙がなかった。勝負弱いと言われていた選手が、最も注目される舞台で、最も説得力のある勝ち方を見せたのである。
この優勝によって、バーンズはトリプルクラウンを完成させた。批判に反論するために必要なのは言葉ではない。最高の舞台で結果を出すことだ。バーンズの2010年世界選手権制覇は、その事実を鮮やかに示した勝利だった。
第8位:2013年 ドム・バレット、歓喜が先に来た初メジャー制覇
第8位は、2013年のドム・バレットの優勝である。この一戦が記憶に残る理由は、勝利そのものだけではない。勝利を確信するタイミング、そしてそこに表れたバレットの人間味が、多くのファンの印象に残った。
第10フレーム、バレットは勝利に大きく近づくダブルを決めた。しかし、その時点で完全に勝利が確定していたわけではなかった。フィルボールで必要なカウントを取る必要があり、まだ最後の投球を残していた。
通常であれば、選手は最後まで感情を抑える。必要なピン数が少なくても、大舞台では何が起こるか分からない。過去には、勝利目前で思わぬミスが起きた例もある。だからこそ、多くの選手は最後の一投まで冷静さを保つ。
しかし、バレットはダブルを決めた瞬間に歓喜した。まるで勝利を完全に確信したかのように感情を爆発させたのである。そして最後のフィルボールでもストライクを奪い、自らの喜びが早すぎなかったことを証明した。
この勝利は、バレットにとってキャリア初のメジャータイトルだった。さらに後にトリプルクラウンへとつながる第一歩にもなった。緊張感、勘違いにも見える早すぎる歓喜、そして最後にしっかり決め切る勝負強さ。すべてが合わさった、PBA世界選手権らしい名場面である。
第9位:2015年 ゲイリー・フォークナーJr.、歴史を開いた一日
第9位は、2015年のゲイリー・フォークナーJr.の優勝である。この勝利は、競技史の文脈でも非常に大きな意味を持っている。
フォークナーJr.は、この優勝によってPBAツアータイトルを獲得した史上2人目の黒人選手となった。ジョージ・ブラナム3世以来となる快挙であり、PBAの歴史に新たなページを刻んだ瞬間だった。
しかも、この大会はフォークナーJr.にとってPBAのテレビ決勝デビューでもあった。初めての大舞台であれば、誰もが緊張して当然である。しかし彼は、落ち着き払った投球で強豪たちを次々と退けていった。
初戦ではスコット・ノートンを相手に262対218で勝利。完全試合に迫るような勢いを見せた。続くライアン・シミネリ戦でも247対237で勝ち切り、年間最優秀選手候補を破った。そして決勝で待っていたのは、当時23歳のEJタケットだった。
タケットはすでに将来の大物としての片鱗を見せていた。しかし、この日のフォークナーJr.には特別な集中力があった。決勝のスコアは216だったが、その数字以上に内容は支配的だった。第9フレームの時点でタケットを封じ込め、堂々と頂点に立った。
この勝利は、フォークナーJr.自身のキャリアにとって決定的な瞬間であると同時に、PBAの歴史においても重要な節目だった。また、敗れたタケットにとっても、その後の飛躍へつながる経験になったと見ることができる。
第10位:2022年 クリス・プラザー、ロールオフでつかんだ再出発のメジャー
第10位は、2022年のクリス・プラザーの勝利である。この試合は、終盤の心理戦と劇的なロールオフによって、強く記憶される一戦となった。
決勝でプラザーが対戦したのは、ジェイソン・スターナーだった。終盤、プラザーはリードを持ちながらも、連続して痛恨の10ピン残りに苦しむ。直前のメジャーであるトーナメント・オブ・チャンピオンズでも決勝で敗れていたことから、再び大きなタイトルを逃すのではないかという緊張が漂った。
一方のスターナーは、第4シードから勝ち上がってきた挑戦者だった。ジェイコブ・バトラフ、ジェイソン・ベルモンテ、トミー・ジョーンズを破り、初のメジャータイトルまであと一歩に迫っていた。勢いという点では、スターナーに分があるようにも見えた。
第10フレーム、スターナーは勝利目前の状況で投球する。しかし、完璧なストライクには届かず、スペアとフィルボールで同点に持ち込む形となった。試合はロールオフへ突入する。
先攻を選んだプラザーは、見事なストライクを決めた。追い込まれたスターナーもストライクが必要な状況で投球したが、3-6-9-10を残して勝負は決した。プラザーは自身2つ目のメジャータイトルを手にした。
この勝利が大きな意味を持つのは、プラザーのキャリアの流れと重なるからだ。かつてはPBAツアーで安定して上位に進出することに苦しんでいた選手が、メジャー複数勝利を挙げる存在へと成長した。2022年の世界選手権は、プラザーが新たなキャリアの段階へ進んだことを示す勝利だった。
タケットの挑戦は、PBAの新時代を決定づけるのか
PBA世界選手権の歴史をランキング形式で振り返ると、この大会が単なる優勝者を決める場ではないことがよく分かる。ベルモンテが前人未到のシーズン3メジャー制覇を成し遂げた2017年。バーンズが批判をはね返し、トリプルクラウンを完成させた2010年。フォークナーJr.が歴史的な勝利を収めた2015年。そしてプラザーがロールオフの末にキャリアを前進させた2022年。
それぞれの勝利には、選手個人の物語がある。同時に、それらはPBAという競技全体の歴史を動かす瞬間でもあった。
そして今、EJタケットが新たな歴史の入口に立っている。3連覇中の王者としてトップシードで待つ彼にとって、次の決勝は単なるタイトル防衛戦ではない。4年連続優勝、4年連続年間最優秀選手賞、そして現代PBAにおける支配的時代の確立がかかった一戦である。
もちろん、挑戦者たちにも十分なチャンスはある。ベルモンテが勝ち上がれば、ボウリング界を代表する2人による再戦が実現する。ほかの選手が台頭すれば、新たなスター誕生の物語が始まるかもしれない。PBA世界選手権のステップラダーでは、一投で流れが変わり、一試合でキャリアの評価が変わる。
ストローブル・アリーナで迎える次のファイナルは、過去の名勝負に連なる新たな名場面となるのか。それとも、タケットが前人未到の領域へさらに踏み込む舞台となるのか。
いずれにしても、PBA世界選手権は再び、ボウリングファンが長く語り継ぐ瞬間を生み出そうとしている。今回の決勝は、単なる大会の結末ではない。PBAの現在地と未来を映し出す、重要な一戦になる。
