父になったボウラーの挑戦
デビッドソンが狙う初のU.S.オープンとグリーンジャケット

108人から36人へ――U.S.オープン予選が生んだ「首位」と「生存」の物語

インディアナ州インディアナポリスのロイヤル・ピン・ウッドランドで開催中の「2026 Go Bowling U.S. Open」は木曜夜、3日間・計24ゲームの予選を終えた。108人で始まった戦いは上位36人へと絞り込まれ、舞台は次の局面へ進む。

予選首位に立ったのは、オハイオ州バーサイユ出身のマイケル・デビッドソン(30歳)。24ゲーム合計5,357(アベレージ223.21)という高水準のスコアでトップ通過を果たし、最終日には300ゲームも記録した。だが、U.S.オープンの本質は「首位の栄光」だけではない。会場の熱量を最も押し上げたのは、最終ゲームで命運が決まるカットラインの攻防だった。メジャー大会らしい緊張とドラマが、予選最終日に凝縮されたのである。

 

デビッドソンの安定、300ゲームの連鎖、そして“最後の1席”を巡る緊迫

1)首位は一撃ではなく積み上げ――デビッドソンが示した「崩れない強さ」

デビッドソンの首位通過は、派手な一発で奪い取ったものではない。

  • Round1(火曜)1,773

  • Round2(水曜)1,727

  • Round3(木曜夜)1,857

3日間を通して大きく崩れず、最終ブロックで一段ギアを上げた。特に木曜夜の8ゲームは、195、234、199、213、255、214、300、247。ビッグゲームを挟みながらも落とし穴を最小限に抑え、スコアの波をコントロールしたことが分かる。難度の高いコンディションで「高い天井」と「低い床」を両立させる――それこそが、U.S.オープンで勝ち残るための実戦的な強さだ。

本人は好調の要因を、週を通じての安定したボールモーションと、手の位置を調整して複数のボールを各パターンに適応させられた点に求めた。木曜のRound3は35フィートのオイルパターン。対応力が問われる局面で、もっとも精度の高い“回答”を提示した選手の一人がデビッドソンだった。

 

2)僅差の2位、存在感の3位――「数ピン」で景色が変わる

予選2位はフロリダ州バルリコのイーサン・フィオーレ。合計5,354でデビッドソンとの差はわずか3ピンしかない。フィオーレは2025年PBA Players Championship優勝経験を持つ、メジャー級の舞台で結果を残してきた選手だ。首位と2位が3ピン差という事実は、この大会が「少しのミス」「一本のスペア」で順位が入れ替わる世界であることを端的に示している。

3位にはラスベガスのアンソニー・サイモンセン5,316)。初日リーダーとして大会序盤を牽引し、最終的にも上位でフィニッシュした。続く4位A.J.ジョンソン(5,258)、5位ティム・フォイ Jr.(5,208)まで含め、上位は実力者が揃い踏みだ。首位通過は確かに価値がある。しかしこの顔ぶれを見れば、後半戦が“独走”になる保証はない

 

3)木曜に一気に火がついた――300ゲーム続出が生んだ熱と緊張

予選最終日は、スコアの空気そのものが変わった。最終日開始時点で300ゲームは1つだけ。火曜午後、マレーシアのトゥン・ハキムがB SquadのGame5で達成していた。その状況から木曜は一転し、さらに3人が300を追加。会場のテンションを引き上げたのは、単なる好スコアではなく「完璧」と紙一重の瞬間が続いたことだった。

フィンランドのサンットゥ・タフバナイネンは、木曜午後のA Squad・Game4で12連続ストライク。オハイオ州パーマのパトリック・ドンブロウスキーは、B Squad最終ラウンド・Game5でパーフェクトを記録し、そのまま次ゲームも11連続ストライク299まで迫った。連続300という夢が10ピンで途切れた場面は、見ている側にとっても胃が縮むような瞬間だったはずだ。

そしてデビッドソンは、木曜夜のB Squad・Game7で300。しかも彼は「惜しい未遂」ではなく「取り切る」側に立った。大舞台の後半戦では、この“最後までやり切る精度”が、勝敗の境界線になり得る。

 

4)最大のドラマはカットライン――最終ゲームで生まれた「生存の一投」

とはいえ、木曜の会場を最もざわつかせたのは、上位の華やかさ以上に「36位以内」を巡る生存競争だった。最終ゲームの一投が、明日の椅子を決める。U.S.オープンの怖さと面白さが、ここにある。

象徴的なのが地元インディアナ州エイボンのジェフリー・マンだ。彼は日曜の事前予選(8ゲーム)を勝ち抜いて本戦入りした選手で、そもそもここまで来るのにひと仕事している。そのマンが木曜のGame8で最初の10フレームまでストライクを並べ、パーフェクトに迫った。最後は9カウントで289。しかしその289が、合計5,048まで押し上げ、29位へ滑り込みさせた。まさに「必要なときに必要な一本を重ねた」生存劇である。

さらに薄氷だったのが最後の席TJロック(ウィチタ)は最終ゲーム244ベイリー・マブリック(インディアナ州ペルー)は236。両者は合計5,009(アベレージ208.71)で並び、同率36位としてCashers’ Roundの最後の出場枠を確保した。ボウリングは静かな競技に見えるが、こういう局面では紛れもなく“勝負のスポーツ”になる。

 

5)ここからが本番――36→24→総当たり、そして56ゲームで決まる最終5人

予選を突破した36人は、金曜午前(東部時間10時開始)のCashers’ Round(8ゲーム)へ進む。ここで再びカットが入り、36人から24人へ。さらに残った24人が、3つの8ゲーム・ラウンドロビン(総当たり)で戦う。Round1は金曜夕方(東部時間5時開始)、残り2ラウンドは土曜の午前(同10時)と夕方(同5時)に予定されている。

最終的には合計56ゲームの総計(マッチプレーは勝利ごとに30ピンのボーナス)が、ステップラダー決勝へ進む5人を決める。決勝は日曜、CWで生中継(東部時間4時開始)。優勝者が手にするのはPBAメジャータイトル賞金10万ドル、そしてU.S.オープンの象徴であるグリーンジャケットだ。なお、予選とマッチプレーはBowlTVで配信される。

 

父になった男の落ち着き――「首位通過」を勝利へ変えるのはここから

デビッドソンは首位に立ちながらも浮つかない。「良い位置にいるのは気持ちいいが、まだボウリングはたくさん残っている。家に帰ってしっかり眠り、明日に備える」。この短い言葉に、U.S.オープン後半戦の厳しさを知る選手の現実感がある。

彼には私生活の大きな変化もあった。最近、第一子となる息子タッカーの父になったという。遠征で家族と離れるのは簡単ではない。それでも「ボウリングが良いと、家を離れるのも少し楽になる」と率直に語り、「息子が成長したとき、努力すれば何ができるかを見せたい」と続けた。勝ちたい理由が、結果だけでなく“生き方”と結びついている。その視点は、プレッシャーのかかる終盤で、静かな支えになるのかもしれない。

もちろん、主役は一人ではない。EJタケットは予選7位(5,192)から連覇を狙い、達成すれば1995~1996年のデイブ・ヒューステッド以来となるU.S.オープン連覇の快挙に並ぶ。上位は僅差で、カットラインを辛くも越えた選手にも勢いがある。U.S.オープンは、最後の最後まで“勝てる理由”が更新され続ける大会だ。

首位通過は確かに強い。だが、それはゴールではない。
デビッドソンが積み上げた安定感と、木曜夜に示した「取り切る力」を、残り3日間で勝利へ変換できるか。108人の物語は36人に凝縮され、ここからいよいよ、グリーンジャケットの現実味が増していく。

全米オープンの詳細情報をご覧いただけます。

 👉  2026 Go Bowling U.S. Open