僅差の涙を越えて
ジェフリー・マン、U.S. Open PTQを首位通過
PTQ突破の壁を越えた男、ジェフリー・マン
ボウリング界でも屈指の難度と権威を誇るメジャー大会「Go Bowling U.S. Open」。その本戦に立つには、実力者が集うプレトーナメント予選(PTQ)を勝ち抜かなければなりません。2026年大会のPTQで主役になったのは、インディアナ州エイボン出身のジェフリー・マン(26)。彼は「通過」ではなく「優勝」という最高の形で、本戦への扉を開きました。
マンにとってPTQは、苦い記憶と隣り合わせの舞台でした。2024年は7ピン差、2025年は4ピン差でカットラインに届かず、2年連続で涙を飲んでいます。トップレベルの大会ほど、ほんの小さなミスが致命傷になる。その現実を、彼は身をもって知ってきました。だからこそ、2026年の首位通過は単なる好成績ではありません。「あと少し」を塗り替えた瞬間でもあります。
300発進の支配力、混戦を回避した“勝ち方”の価値
1)いきなり300。初戦で主導権を握る
会場はインディアナポリスの「Royal Pin Woodland」。108名が出場したPTQで、マンはいきなり大会の空気を塗り替えます。ゲーム1でパーフェクト300。開始直後にリーダーボード最上段へ躍り出て、主導権を自らの手に収めました。
PTQのような短期決戦では、立ち上がりの数フレームが心理戦の様相を帯びます。緊張で視界が狭くなりやすい序盤に、完璧な一撃で「今日は自分の展開にする」と示したことが、後の安定につながったと言えるでしょう。
2)“派手さ”ではなく“崩れない強さ”。8ゲーム1900で圧勝
もちろん、300の勢いを8ゲーム通して維持するのは現実的ではありません。マンもその後は194、173と落ち着いたスコアになりますが、重要なのは「踏み外さない」ことでした。続くゲームで257、256、276と再びギアを上げ、最終的に8ゲーム合計1900(アベレージ237.5)でフィニッシュ。2位のデオ・ベナード(1850)に50ピン差をつけ、首位通過を決めています。
300が注目を集めるのは当然として、本当に価値があるのは“その後”の組み立てです。大きく崩れず、必要な局面で再び伸ばした。これは、偶発的な爆発ではなく、状況に合わせて調整できる競技者の勝ち方です。
3)32位が象徴する、PTQの残酷さ
今回のPTQで特に注目されたのが「32位」でした。上位32名が本戦へ進めるため、33位以下はどれだけ内容が良くても結果はゼロになります。最後の通過枠を掴んだのは、インディアナ州バルパライソのライアン・バートン。8ゲーム1660(アベ207.5)で32位を確保しましたが、そこからわずか8ピン以内に5人がひしめく大混戦だったといいます。
この数字は、PTQの本質を端的に示します。1本のスペアミス、1フレームのオープンが、そのまま「本戦に行けるか否か」を決める。マンが過去2年、10ピン未満の僅差で落ちたのも、この世界の厳しさそのものです。
4)今年のマンは「ドラマに巻き込まれなかった」
マンにとっての最大の収穫は、通過そのものよりも「勝ち切った」ことかもしれません。過去2年の悔しさがあるからこそ、ぎりぎりの32位争いではなく、上位で余裕を持って抜けた事実が大きい。
PTQを突破した瞬間がピークになってしまう選手も少なくありません。しかし首位通過は、体力面でも精神面でも消耗を抑えられ、準備に集中できる“余白”を生みます。マンは今年、その余白ごと手に入れました。
5)地元開催の追い風と、本人が掲げる「基本」
さらにマンには、いわゆるホームアドバンテージがあります。会場近くに住んでいるため、遠征の負担が少なく、応援も集まりやすい。本人も「自分のベッドで眠れる」ことや、家族や友人の声援が特別だと語っています。
ただし、地元開催は期待が大きくなる分、プレッシャーにもなり得ます。そこでマンが口にしたのが「成功の鍵は一貫性」。良い読みを続け、球を“前”に置き、スペアを取る。派手なことではなく、基本の積み重ねに勝機を見いだしています。U.S. Openが「メンタルの消耗戦」になりやすいことを踏まえると、この姿勢は理にかなっています。
6)2026年U.S. Openの流れと、王者の壁
本戦は長丁場です。月曜日に公式練習が行われ、4種類のオイルパターンへの適応を進める時間が用意されます。競技は火曜日に開幕し、A・B・Cの各スクワッドがそれぞれ8ゲームの予選ブロックを戦います。3日間で計24ゲームを投げ、まず108人→36人へ絞り込み。続いて4つ目のパターンで8ゲームを追加し、32ゲームのピンフォール合計で24人がラウンドロビン方式のマッチプレーへ進出します。マッチプレーは勝利ごとに30ピンのボーナスが加算され、56ゲーム相当の合計で最終5名がステップラダーファイナルへ。決勝は3月8日に放送予定で、予選からマッチプレーまでの中継はBowlTVが担います。
そして大きな焦点は、前年覇者EJ・タケットの連覇挑戦です。2025年はタケットがアンドリュー・アンダーソンを破り、近年のU.S. Openで抜群の存在感を示しました。U.S. Openでのタイトル防衛は1995・1996年のデイブ・ヒューステッド以来とされ、達成は容易ではありません。強豪が揃うフィールド、難度の高いオイル、そして長いフォーマット。王者でさえ安泰ではない舞台に、マンは「PTQを勝って入ってきた挑戦者」として乗り込みます。
PTQ優勝は到達点ではなく、“最難関メジャー”への入場券
ジェフリー・マンのPTQ首位通過は、過去2年の僅差落選を塗り替える象徴的な成果でした。ゲーム1の300で流れを掌握し、必要な局面で再びスコアを伸ばし、50ピン差の快勝。さらに、混沌とした32位争いから距離を置き、余力を残して本戦へ進めた点に、今年の強さが表れています。
とはいえ、U.S. Openは“ここから”が本当の勝負です。4種のオイルパターンに対応し、予選からマッチプレーまで集中力を保ち続ける持久戦。求められるのは、一発の華やかさではなく、読みの精度、スペアの確実性、そしてブレないメンタルです。マン自身が掲げる「一貫性」という言葉は、そのままU.S. Open攻略の核心でもあります。
地元の声援を背に、悔しさを糧にしてきた26歳は、本戦でどんな物語を描くのか。王者タケットの連覇に立ちはだかる挑戦者は多い。しかし、PTQを「勝ち切って」入ってきた男が、大会の流れを面白くする可能性は十分にあります。今週インディアナポリスで始まる最難関メジャーの舞台で、マンの次の一投に注目です。