世界王者EJタケットが大会運営に込めた思い!
家族総出で支えるPBAエリートリージョナルの舞台裏

世界トッププロが挑む、もう一つのボウリングへの貢献

世界のプロボウリング界で活躍するEJタケットと、その弟であるザック・タケット。競技者として高いレベルを追求し続ける兄弟には、もう一つの大切な使命がある。

それは、自らが運営するボウリング場で大会を開催し、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる環境をつくることだ。

2026年10月2日から4日にかけて、アメリカ・インディアナ州ブラフトンの「EZ Bowl」で、PBA ELITEセントラル地区大会が開催された。

セントラル地区では初開催となるPBA ELITE大会。その舞台となったEZ Bowlは、タケット一家が2018年に購入した22レーンのボウリング場であり、EJとザックにとってホームセンターでもある。

今回の大会が注目を集めた理由は、トッププロたちによる熱戦だけではない。

選手への細やかな配慮、家族の温かいもてなし、地域企業との協力、そしてボウリング界の未来を見据えた強い信念。大会を支える一つひとつの取り組みが、多くの選手や観客から高い評価を受けた。

「選手には、最高のパフォーマンスを発揮することだけに集中してほしい」

そんな思いを形にしたタケット一家の大会運営には、プロボウリングの発展につながる重要なヒントが詰まっている。

世界のトップレベルで戦い続けるEJタケットが、なぜ地域大会の開催にこれほど情熱を注ぐのか。その舞台裏から、家族とボウリングを結ぶ深い絆が見えてくる。

 

家族の絆とボウリング愛が生み出す、特別な大会運営

1. 選手への感謝を形にする「競技に集中できる環境づくり」

EJタケットとザック・タケットは、プロボウラーとして自分自身に厳しい基準を課している。しかし、大会を主催する立場では、それ以上に高い水準を目指しているという。

兄弟が何より大切にしているのは、参加選手に対する感謝を、具体的な行動で示すことだ。

会場には軽食や飲料水を用意し、食事も無料で提供する。選手たちが競技以外の負担をできる限り減らし、レーン上で実力を発揮できるよう、細部まで配慮している。

こうした取り組みは、単なるサービスの充実ではない。

ツアーを転戦するプロボウラーにとって、移動や滞在、食事の確保は日常的な負担となる。特に地域大会では、競技に集中するための環境が十分に整っているかどうかも、参加者の満足度を左右する重要な要素になる。

自らも現役選手として世界各地を転戦するEJとザックだからこそ、選手が本当に必要としているものを理解しているのだろう。

今回の大会では、こうした細やかな心配りに対して、選手や観客から数多くの好意的な反応が寄せられた。

大会の価値は、賞金額や競技レベルだけで決まるものではない。

参加する選手が歓迎され、尊重されていると実感できること。そして、もう一度この大会に出場したいと思えること。

タケット兄弟は、その積み重ねこそが大会の魅力を高め、長期的な発展につながると考えている。

 

2. 母アンジーの手料理が生み出した、忘れられない大会の温かさ

今回の大会で大きな話題となったのが、タケット一家による心のこもった食事の提供だった。

金曜日のプロアマ終了後には、兄弟を支援するバーベキューレストランが、選手たちに無料のケータリング料理を振る舞った。

翌土曜日には、EJとザックの母親であるアンジー・タケットが腕を振るい、選手だけでなく観客にも手料理を無料で提供した。

毎年人気を集めているのが、牛肉と麺を使った家庭料理「ビーフ・アンド・ヌードルズ」だ。

さらに今回は、約50ポンド(約22.7kg)もの自家製マッシュポテトを用意したが、すべてなくなったという。

このエピソードからも、料理がいかに参加者から愛されているかが伝わってくる。

ザックは、特に心に残った参加者の言葉を紹介した。

ある参加者から、EZ Bowlに来ると、まるでアンジーの家のキッチンに座っているような気持ちになるため、毎年戻ってきたいと言われたという。

ザックは、それがこれまで受け取った中でも最高の褒め言葉の一つだったと振り返っている。

プロスポーツの大会では、勝敗やスコア、賞金などに注目が集まりやすい。しかし、EZ Bowlでは競技の緊張感とは別に、選手と観客が自然に交流できる家庭的な雰囲気が生まれている。

同じ料理を囲み、会話を楽しみ、家族に迎えられたような温かさを感じる。

そこには、一般的な競技イベントとは異なる特別な魅力がある。

「また参加したい」と思える大会は、競技の内容だけでなく、そこで過ごした時間の記憶によってもつくられる。

母アンジーの手料理は、まさにその象徴といえるだろう。

 

3. 父の長年の夢を実現した22レーンのEZ Bowl

タケット一家が大会開催に情熱を注ぐ背景には、父親の長年の夢がある。

父のエド・タケットは、1980年代後半から1990年代前半にかけて、リージョナルツアーで競技していた経験を持つ。

エドは以前から、自分たちのボウリング場でリージョナル大会を開催したいと考えていた。

しかし、当時所有していたセンターは12レーンしかなく、大会を開催するには規模が十分ではなかった。

その夢が実現に向けて大きく動き出したのが2018年だった。

タケット一家は、22レーンを備える現在のEZ Bowlを購入。これにより、念願だったリージョナル大会の開催が可能になった。

そして今回、EZ Bowlで開催するリージョナル大会は通算9回目を迎えた。

EJは、大会を主催することの意義について、選手としてプロボウリングに参加するだけでなく、ほかの選手たちに競技の機会を提供することも重要だと語っている。

その機会には、自分自身や弟のザックも含まれている。

大会を開催することは、選手たちに新たな挑戦の舞台を用意することであり、地域のボウリング文化を支えることにもつながる。

さらに、毎年多くの個人や企業が資金面で協力しており、その支援によって大会を継続し、内容を充実させることができているという。

競技者が大会を支え、大会が新たな競技機会を生み出す。

EZ Bowlでは、そんな好循環が着実に築かれている。

父エドが抱き続けた夢は、今や家族全員の力によって実現し、多くのプロボウラーに活躍の場を提供する取り組みへと発展している。

 

4. 大会運営の成功を陰で支えるナタリーとケイラ

タケット兄弟は、大会の成功を自分たちだけの功績だとは考えていない。

その中心的な役割を担っているのが、EJの妻であるナタリーと、ザックの婚約者であるケイラ・クロフォードだ。

ザックは、大会運営について、実際にはEJと自分の2人ではなく、4人で取り組んでいるのだと説明している。

ザックはプロショップの業務を担当し、EJとともに大会が円滑に進むよう現場を管理する。

一方、ナタリーとケイラは、表からは見えにくい運営業務を支えている。

ナタリーはイベントの企画や準備、スタッフの管理、新規採用、給与の支払いなど、ボウリング場の運営に関わる幅広い仕事を担当している。

ケイラもナタリーと協力し、必要な業務を分担している。

しかも、2人にはボウリング場とは別に、それぞれ本業があるという。

ザックは、EZ Bowlの経営を引き継いでからの成功には、ナタリーとケイラの貢献が非常に大きいと強調している。

そして、2人が果たしてきた役割は、もっと高く評価されるべきだと語った。

華やかなプロ大会では、有名選手や優勝者に注目が集まりやすい。

しかし、イベントを成功させるためには、会場の準備、スタッフの配置、選手への対応、経理業務など、目立たない仕事が数多く存在する。

レーン上で繰り広げられる熱戦は、舞台裏で大会を支える人々の努力があってこそ成立する。

タケット一家の大会運営は、その大切さを改めて教えてくれる。

 

5. 年間200〜250日の遠征生活を支える家族の絆

世界のトップレベルで戦い続けるEJタケットは、年間200〜250日を自宅以外で過ごしているという。

プロツアーへの参戦に加え、ボウリング場の経営や大会運営にも関わる生活は、決して簡単なものではない。

それを可能にしているのが、家族や周囲の人々による支えだ。

EJとナタリーの息子であるトリップの子育てについても、近くに住む両家の両親が協力している。

EJ自身も、現在の生活が多くの人々の支えによって成り立っていることを強く実感している。

そして、家族の歩みを振り返る中で、ボウリングが自分の人生そのものを形づくってきたことを明かした。

両親がボウリング関連の仕事を始めたのは約40年前。

EJが妻ナタリーと出会ったのも、ボウリングがきっかけだった。

弟ザックと婚約者ケイラも、同じくボウリングを通じて出会っている。

EJにとって、ボウリングは単なる職業でも、競技として成功を追い求めるためだけの存在でもない。

大切な家族との出会いを生み、現在の人生を築いてくれた、かけがえのないスポーツなのだ。

さらにEJは、ボウリングの持つ大きな魅力についても語っている。

ボウリングは生涯を通じて楽しむことができ、家族と一緒に取り組めるスポーツである。

社会的な立場や育った環境に関係なく、さまざまな人が参加できることも大きな特徴だ。

EJは、ボウリングを世界でも特に包容力のあるスポーツの一つだと捉えている。

だからこそ、この競技の魅力を次の世代につなぐために、関係者が力を合わせる必要があると訴えている。

その思いを象徴するのが、「ボウリングを単に存続させるのではなく、繁栄させなければならない」という考え方だ。

競技人口や大会数を維持することだけが目標ではない。

より多くの人々にボウリングの魅力を届け、選手が挑戦できる機会を増やし、スポーツとしてさらに発展させていく。

EJが地域大会の開催に情熱を注ぐ理由は、まさにそこにある。

 

6. 前年優勝者への敬意を示す「専用駐車スペース」

EZ Bowlでは、選手の努力と功績を称えるユニークな取り組みも行われている。

それが、前年優勝者のために用意される特別な駐車スペースだ。

今回の大会では、前年の「Family Ford of Bluffton/Yergy’s BBQ/EZ Bowl Central Open Central」で優勝したグラハム・ファのために、専用の駐車スペースが確保された。

このアイデアは、EJがゴルフの大会で目にした取り組みから着想を得たものだという。

EZ Bowlでは2024年に初めて導入された。

優勝者に特別な駐車スペースを用意するという、一見すると小さな取り組み。

しかし、EJはそこに大切な意味があると考えている。

大会で優勝するためには、長年にわたる努力と準備が必要になる。

だからこそ、その成果を称え、選手への感謝を形にしたいというのだ。

トロフィーや賞金だけでなく、翌年の大会でも優勝者として迎えられる。

その特別な待遇は、選手にとって自身の功績を実感できる機会にもなる。

そして今回、スタンダード部門ではマイケル・デビッドソンが優勝を果たした。

EJは、翌年の専用駐車スペースをデビッドソンが利用することになると明かしている。

優勝という結果を、その大会限りの出来事で終わらせない。

こうした細やかな工夫が、選手の誇りを高め、大会の歴史や伝統を育てていく。

大規模な設備投資を必要としなくても、参加者に特別な価値を届けることはできる。

EZ Bowlの取り組みは、その好例といえるだろう。

 

7. 大会終了直後には通常営業へ――華やかな舞台の裏にある現実

今回のPBA ELITEセントラル地区大会では、スタンダード部門でマイケル・デビッドソン、シニア部門でミカ・コイブニエミが優勝した。

しかし、優勝者にトロフィーと賞金が授与され、大会が終了しても、タケット兄弟の仕事は終わらなかった。

EJはすぐに自分のボウリング用具を片付け、ザックはレーンメンテナンスマシンを準備した。

その目的は、日曜日の夜に行われる通常のリーグ戦に向けて、ボウリング場を整えることだった。

数多くのプロ選手が集まり、特別な雰囲気に包まれていた会場は、すぐに地域のボウラーたちが集う日常の空間へと戻っていく。

大きな大会を成功させた達成感に浸る時間も、ほとんどない。

EJは、人生は止まってくれないため、ゆっくり振り返る時間がないのだと笑いながら語っている。

この場面は、プロ大会の華やかさだけでは語れない、ボウリング場運営の現実を象徴している。

大会開催には多大な準備と労力が必要だが、地域の利用者にとっては日々の営業やリーグ戦も大切な活動だ。

その両方を支え続けるためには、綿密な準備と家族、スタッフの協力が欠かせない。

それでもEJは、今後も大会開催を継続していく考えを示している。

世界のトップレベルで戦うプロボウラーでありながら、地元では一人のボウリング場運営者として汗を流す。

その姿からは、競技者としての情熱だけでなく、地域のボウリング文化を守り、育てようとする強い責任感が伝わってくる。

 

ボウリングを「存続」から「発展」へ――タケット一家が示す未来への道

今回のPBA ELITEセントラル地区大会は、単なるプロボウリングの競技イベントではなかった。

選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整え、食事を通じて交流を生み、優勝者の努力を称える。

その一つひとつの取り組みには、タケット一家のボウリングに対する深い愛情と、参加者への感謝が込められている。

父エドが長年抱き続けた大会開催の夢は、EJとザック、ナタリーとケイラ、母アンジー、そして地域の協力者たちによって現実のものとなった。

現在では、EZ Bowlでのリージョナル大会は9回を数え、多くのプロボウラーに競技機会を提供している。

その原動力となっているのが、EJの揺るぎない信念だ。

「ボウリングが自分の人生に多くのものを与えてくれた。だからこそ、今度は自分たちがボウリング界の発展に貢献したい」

この思いは、大会運営のあらゆる場面に表れている。

選手への敬意を忘れず、家族や地域とのつながりを大切にし、次の世代へと競技の魅力をつないでいく。

それは、大規模なプロツアーだけでなく、地域のボウリング場や大会主催者にとっても重要な考え方だ。

魅力的な大会をつくるために必要なのは、必ずしも豪華な設備や多額の予算だけではない。

参加する選手を大切にし、そこでしか得られない経験を提供すること。そして、また戻ってきたいと思える場所をつくること。

そうした取り組みの積み重ねが、大会の価値を高め、競技全体の発展につながっていく。

そして何より、EJが語った「ボウリングを生き残らせるだけでなく、さらに繁栄させる」という言葉には、スポーツの未来に対する強い決意が込められている。

世界の頂点を目指す競技者でありながら、地元では大会を主催し、選手をもてなし、レーンの準備にまで携わるEJタケット。

その活動を支える家族の存在もまた、ボウリングが人と人を結びつけるスポーツであることを物語っている。

タケット一家が目指しているのは、一つの大会の成功だけではない。ボウリングを愛する人々が集い、新たな挑戦と交流が生まれ続ける未来そのものなのだ。