「You Belong」を言葉だけで終わらせない
ボウリング界が退役軍人支援に取り組む理由

記事に入る前に、音声による要点解説をお聞きいただくと、内容が一段と理解しやすくなります。

要点音声解説

本要点音声解説は、「BowlersNetwork」掲載の動画内容をGemini Notebook を用いて生成したものです。

「あなたは仲間だ」という言葉を、行動に変える

「If you bowl, you belong.(ボウリングをするなら、あなたは仲間だ)」

Bowlers Networkが掲げてきたこの言葉は、ボウリングというスポーツの本質をよく表している。

年齢も、競技レベルも、職業も、これまで歩んできた人生も違う。それでも同じボウリング場に集まり、同じレーンに立てば、そこには自然と会話が生まれる。

毎週リーグで顔を合わせる仲間がいる。ストライクを一緒に喜び、ミスを笑い合い、ゲームが終わればスコアとはまったく関係のない話で盛り上がる。

ボウリングは、単にピンを倒す競技ではない。人と人がつながる場所でもある。

今回、Bowlers Networkが取り上げたのは、この「You Belong」という言葉をさらに一歩先へ進めるテーマだった。

登場したのは、Bowlers to Veterans Link、通称BVLのJessica Abel。そして長年プロボウリング界で活躍してきたCarolyn Dorin-Ballardだ。

テーマは、退役軍人への支援。

「Thank you for your service」と感謝を伝えるだけではなく、その感謝を、実際の行動に変えるためには何ができるのか。

そこから見えてきたのは、BVLが80年以上にわたって続けてきた活動と、ボウリングが持つ「人をもう一度コミュニティへつなぐ力」だった。

 

ボウラーたちが80年以上つないできた支援の輪

すべての始まりは、1942年に集められた小さな硬貨だった

BVLの歴史は1942年までさかのぼる。

当時は第二次世界大戦の最中。アメリカの女性ボウラーたちは、戦地へ向かった父親や兄弟、夫、友人たちのために、「自分たちにも何かできないだろうか」と考えた。

そこで始めたのが、ペニー硬貨を集める活動だった。

一枚一枚はごく小さな金額である。

しかし、多くのボウラーが力を合わせることで、その小さな硬貨は大きな力へと変わった。

集めた資金によって、戦地から兵士たちを帰還させるための航空機2機を購入できるほどの支援につながったという。

翌年には男性ボウラーたちも活動に加わり、海外にいる兵士たちへ送るケアパッケージなどのために資金を集め始めた。

それから80年以上。

BVLは現在までに、6,000万ドルを超える資金を集め、退役軍人のレクリエーション療法を支援してきた。

ここで注目したいのは、この活動が一部の著名人や大企業から始まったものではないという点だ。

原点にあったのは、一般のボウラーたちによる「自分たちにもできることがあるはずだ」という思いだった。

一枚のペニー。

一人の寄付。

一つのリーグ。

一つのボウリング場。

その積み重ねが、80年以上続く活動へと成長した。

BVLの歴史そのものが、ボウリングコミュニティの力を証明している。

 

BVLは「退役軍人にボウリングを提供する団体」ではない

BVLについては、ボウリング界にいる人の中でも、その活動内容を正確に知らないケースがあるという。

団体名に「Bowlers」と入っていることから、「退役軍人にボウリングをしてもらうための団体」と思われることもある。

しかし、Jessica Abelはその仕組みを明確に説明している。

ボウラーがBVLを支援し、BVLが退役軍人のレクリエーション療法を支援する。

つまり、ボウリングは支援を生み出すためのコミュニティであり、その支援先はボウリングだけに限定されていない。

アダプティブスポーツ。

音楽。

アート。

そのほかにも、退役軍人一人ひとりに合ったさまざまな活動が存在する。

重要なのは、どの活動をするかではない。

その活動を通じて、人と関わり、社会とのつながりを取り戻すこと。

そこにBVLが支援するレクリエーション療法の大きな意味がある。

 

本当に必要なのは、「また人と関わってみよう」と思えるきっかけ

軍務に就いている間、多くの人は非常に強い組織の中で生活する。

仲間がいる。

自分の役割がある。

誰かが自分を必要としている。

そして、自分自身も仲間を必要としている。

長い時間をそうした環境の中で過ごした後、軍を離れ、民間生活へ戻る。

その変化は、単に職業が変わるという話ではない。

それまで当たり前に存在していた人間関係や役割、生活のリズムが一度に変わることもある。

Jessicaが語ったレクリエーション療法の意味は、まさにそこにある。

スポーツをする。

音楽を楽しむ。

絵を描く。

それ自体が最終目的なのではない。

「もう一度、誰かと関わってみよう」と思える理由をつくること。

その入口として活動がある。

これはボウリングにも非常によく似ている。

リーグ戦に参加する目的は、平均点を上げることだけではない。

毎週決まった曜日にボウリング場へ行く。

いつもの仲間と顔を合わせる。

「今日のレーン、遅いね」

「先週は調子よかったじゃん」

そんな何気ない会話をする。

ゲームが終われば、「また来週」と言って別れる。

そして翌週、また同じ場所へ戻ってくる。

「来週もここに来る理由がある」こと自体が、人にとって大きな意味を持つことがある。

ボウリングは、競技であると同時に、定期的に人と会い、関わり続けられるコミュニティでもある。

 

Carolyn Dorin-Ballardの父が抱えていた、戦争の記憶

今回の番組では、Carolyn Dorin-Ballardが自身の家族についても語った。

Carolynの父は第二次世界大戦に従軍し、ドイツの捕虜収容所で9カ月間、捕虜として過ごしたという。

戦争から帰還し、結婚し、家庭を築いた。

一見すれば、日常生活へ戻ったように見える。

しかし、Carolynが後になって気づいたことがあった。

父は遠くへ旅行することを避けていた。

車で数時間程度の距離であれば移動したものの、それ以上の遠出を好まず、家族が一緒でなければ、帰還後は飛行機に乗ることもなかったという。

後になって、戦争によるトラウマがあったことも分かった。

この話が示しているのは、軍務の影響が必ずしもすぐに、分かりやすい形で表れるとは限らないということだ。

本人自身も気づかないまま、長い年月を過ごす場合もある。

そして、その影響は本人だけではなく、家族にも及ぶ。

だからこそ、退役軍人への支援を考えるとき、「軍務を終えたから日常生活に戻った」と単純に区切ることはできない。

軍人から民間人へ戻ることそのものが、一つの大きな転換点なのである。

 

VRが、過去と向き合うための新しい選択肢になる

BVLが支援する取り組みの一つとして紹介されたのが、MyndVRのVR機器だった。

番組内では、約60のVA施設で利用され、PTSDなどを抱える退役軍人への支援にも活用されていると説明されている。

使い方は人によって大きく異なる。

ある人はGoogle Earthを使い、かつて赴任していたベトナムの現在の姿を見る。

ある人は、かつて乗っていた航空機を思わせるコックピットを体験する。

また別の人は、蝶が飛ぶ穏やかな野原の中で静かに過ごす。

同じVRという技術を使っていても、必要としているものは一人ひとり違う。

過去と向き合いたい人。

不安から離れたい人。

静かな環境で心を落ち着かせたい人。

Jessicaは、強い不安やPTSDを抱えてきた退役軍人の中には、ある時点で過去を振り返り、自分自身の中で一区切りをつけたいと考える人もいると説明している。

そのとき、VRがそのための一つの手段になる。

大切なのは、VRという技術自体ではない。

その人が自分自身のペースで、世界ともう一度つながるための選択肢を増やすことに意味がある。

 

「Mission 2 Million」が伝えるのは、大きな寄付ではなく「あと少し」の力

BVLは、年間200万ドルの資金調達を目標とする「Mission 2 Million」を掲げている。

目標が達成されれば、BVLにとって年間過去最高規模の資金調達になる。

200万ドルという数字だけを見ると、とても大きな目標に感じる。

しかしJessicaが呼びかけているのは、ごく一部の人による巨額の寄付ではない。

すでに募金活動をしているリーグなら、今年はもう一度だけ募金を呼びかける。

イベントを開催しているボウリング場なら、もう一つ企画を増やしてみる。

50/50 raffleを行っているなら、回数を一度増やしてみる。

個人であれば、毎月5ドルの寄付を続ける。

「大きなことをしてください」ではなく、「今やっていることを、ほんの少しだけ増やしてみませんか」という考え方だ。

そしてこれは、BVLの歴史とも重なる。

始まりはペニーだった。

小さな硬貨だった。

しかし、多くの人が参加したからこそ、大きな力になった。

Mission 2 Millionの本質は、金額の大きさではなく、参加する人の数にある。

 

USBC、ボウリング場、業界企業がつくる支援のネットワーク

BVLへの支援は、個人の寄付だけで成り立っているわけではない。

全米各地のUSBC協会も、さまざまなイベントを通じて活動を支えている。

番組では、近年集められた資金のうち、各地のUSBC協会による支援が100万ドルを超える規模になっていることも紹介された。

さらに、ボウリングセンターによるイベント、業界企業による協力も加わっている。

つまりBVLは、一つの団体だけで完結する活動ではない。

ボウラー、リーグ、ボウリング場、地域協会、企業が、それぞれ少しずつ役割を担うことで成立している。

ここにも、ボウリングという競技の特徴が表れている。

ボウリングは基本的には個人競技だ。

しかし、その文化は非常にコミュニティ性が強い。

一人で投げることはできても、一人だけではリーグは成立しない。

一人だけでは大会も成立しない。

さまざまな人が集まることで、ボウリング文化そのものがつくられている。

BVLは、そのコミュニティの力を競技の外側へ広げた活動とも言えるだろう。

 

軍務中に初めてボウリングと出会った人たち

Carolynは、軍務経験者とボウリングの興味深い関係についても紹介している。

軍へ入る前にはボウリング経験がなかったものの、軍務中にチームへ入り、そこで初めて競技を始めた人もいるという。

Carolynが参加した軍関係者やファーストレスポンダー向けの大会でも、そのような参加者がいた。

一人はArmy。

もう一人はNavy。

二人とも軍務中にボウリングを始めた。

その後、仕事や子育てなどによって競技から長く離れていたが、最近になって再びボウリングへ戻ってきた。

新しいボールを購入し、新しいシューズも揃え、今度は退役軍人や現役軍人、ファーストレスポンダーが参加できるリーグをつくろうとしているという。

ここで起きていることは、単なる競技復帰ではない。

かつてボウリングによって生まれたつながりが、時間を超えて再び動き始めている。

そして、その人たち自身が今度は新しいコミュニティをつくろうとしている。

ボウリングが人をつなぎ、そのつながりがまた別の誰かを呼び込む。

それが繰り返されることで、コミュニティは広がっていく。

 

Johnny Petragliaが体現してきた「人のために動く」という姿勢

今回のエピソードでも特に印象的だったのが、ボウリング界のレジェンド、Johnny Petragliaの話である。

JohnnyはBVLと深い関係を持ち、長年にわたって退役軍人支援にも関わってきた人物として紹介された。

CarolynはJohnnyについて、素晴らしいストーリーテラーであると同時に、非常に強い愛国心を持つ人物だと語っている。

そして何より、周囲から頼まれたことに対して惜しまず協力する人だという。

イベントに来てほしい。

サインをしてほしい。

ジャージを提供してほしい。

そうした依頼にも快く応じる。

Johnnyが大切にしているのは、肩書きではなく「人」そのものだ。

この姿勢は、BVLの活動にも通じる。

誰かのためにできることがあるなら、それをする。

それが大きなことでなくても構わない。

「Give Back」という考え方を行動で示してきた人物の一人が、Johnny Petragliaなのである。

 

ツアー初優勝の直後に届いた徴兵通知

Johnny自身も軍務経験者だ。

番組では、若くしてツアー初優勝を果たした直後に、徴兵の知らせを受けたというエピソードが紹介された。

ようやく手にしたツアー初タイトル。

競技者として、これからさらにキャリアを築いていこうという時期だった。

しかし、その直後に軍務へ向かうことになる。

アスリートにとって若い時期は非常に重要だ。

体力。

技術。

経験。

そのすべてを伸ばしていく時期である。

Johnnyはその時期にツアーを離れ、軍務に就いた。

そして任務を終えた後、再びプロボウリングの世界へ戻った。

その後の活躍を知っている人であれば、このエピソードがいかに大きなものだったかは想像しやすいだろう。

競技人生の途中で大きな中断を経験しながら、それでも戻り、再びキャリアを築いた。

その経験を持つJohnnyだからこそ、BVLや退役軍人支援への思いにも特別なものがあるのかもしれない。

 

ベトナムへ向かう直前、そこにいたのはBarry Asherだった

Johnnyについて語られたもう一つのエピソードは、今回のテーマを象徴するような話だった。

徴兵されたJohnnyがTravis Air Force Baseからベトナムへ向かおうとしていたときのこと。

多くの兵士が航空機へ乗り込んでいた。

その搭乗を担当していた人物が、偶然にも同じボウリング界のBarry Asherだったという。

Johnnyにとっては、これから戦地へ向かうという極めて不安な瞬間だった。

そこで知っている顔に出会った。

BarryはJohnnyに、帰還を待っているという趣旨の言葉をかけた。

Johnnyは、その言葉によって「自分は帰ってくる」と思えたという。

世界中に数え切れないほどの人がいる中で、戦地へ向かう直前に、同じボウリング界の人間と出会う。

偶然と言えば偶然だ。

しかし、その偶然が一人の人間に大きな意味を与えた。

「待っている人がいる」

「帰ってくる場所がある」

それだけで、人は前を向けることがある。

このエピソードほど、「You Belong」という言葉の意味を分かりやすく伝えるものはないのかもしれない。

所属していると感じること。

自分の居場所があると感じること。

それは単なるきれいな言葉ではなく、状況によっては人を支える非常に大きな力になる。

 

ボウリング場は、誰かにとって「帰ってこられる場所」になれる

では、一般のボウラーやボウリング場には何ができるのか。

番組後半では、その具体的なアイデアも語られた。

その一つが、退役軍人向けリーグをつくることだった。

必ずしも経験者だけを対象にする必要はない。

ボウリングをしたことがない人でもいい。

昼間でもいい。

夜でもいい。

まずはボウリング場へ来てもらう。

「一緒に投げませんか」

その一言から始める。

Carolynの地域では、退役軍人とファーストレスポンダー向けのイベントが開催され、空いているレーンがないほど多くの参加者が集まったという。

そこには、何年もボウリングをしていなかった人たちもいた。

軍務中は投げていた。

しかし、退役後に仕事や子育てが始まり、いつの間にか競技から離れてしまった。

そんな人たちが、再びボウリング場へ戻ってきた。

それは単なる「スポーツへの復帰」ではない。

かつて自分が所属していた世界へ、もう一度戻ることでもある。

また、退役軍人、現役軍人、ファーストレスポンダーを対象に、1時間自由に投げてもらうオープンレーン企画も提案された。

競技として本格的に取り組まなくてもいい。

ボールを持つ。

一球投げる。

誰かと話す。

一緒に笑う。

そこからでいい。

最初の目的は「上手くなること」ではなく、「ここに来てもいい」と感じてもらうことだからだ。

 

ボウリングが生んだ30年ぶりの再会

番組では、USBC会長であり自身も退役軍人であるDennis Hackerのエピソードも紹介された。

Dennisは軍関係者の大会に参加した際、かつて一緒に軍務に就いていた仲間と再会した。

最後に会ってから、約30年が経っていたという。

30年。

人生の中でも非常に長い時間だ。

それでも、ボウリングがきっかけとなり、かつての仲間が再び同じ場所に集まった。

スポーツには、さまざまな価値がある。

勝敗がある。

記録がある。

技術を磨く楽しさがある。

健康にもつながる。

しかし、それだけではない。

人を同じ場所へ集める力がある。

そしてその力は、ときに30年という時間さえ超える。

 

「競技人口を増やす」だけが、ボウリング界の価値ではない

ボウリング界では長年、競技人口やリーグ参加者をどう増やすかという議論が続いている。

もちろん、新しいボウラーを増やすことは重要だ。

若い世代に魅力を伝えることも必要だろう。

しかし今回のBVLの話からは、それとは少し異なる視点が見えてくる。

人を増やすことだけが、ボウリング文化を豊かにする方法ではない。

「誰かの居場所になること」そのものにも、大きな価値がある。

退役軍人。

現役軍人。

ファーストレスポンダー。

以前はリーグに参加していたが、長く離れてしまった人。

孤独を感じている人。

もう一度、人と関わるきっかけを探している人。

そうした人たちに、

「ここへ来てもいい」

「一緒に投げよう」

「あなたにも場所がある」

と伝えることができる。

ボウリング場には、その可能性がある。

競技人口という数字では測ることのできない価値が、そこには存在している。

そして、それこそが「If you bowl, you belong」という言葉を本当の意味で形にすることなのだろう。

 

「You Belong」は、行動に変わったとき本当の意味を持つ

「You Belong」。

あなたには居場所がある。

今回のBowlers Networkのエピソードが伝えていたのは、この短い言葉の重さだった。

退役軍人への感謝を示す方法は、大規模な寄付だけではない。

一人をリーグへ誘う。

イベントを一つ増やす。

募金をもう一度呼びかける。

毎月少額を寄付する。

しばらくボウリングから離れていた人に、

「また一緒に投げよう」

と声をかける。

一つひとつは小さな行動に見える。

しかし、BVLの歴史そのものが、小さな行動の積み重ねが大きな力になることを証明している。

始まりは、一枚一枚のペニーだった。

そこから80年以上。

その活動は、6,000万ドルを超える支援へと成長した。

ボウリングの価値は、レーンの上だけでは完結しない。

ストライク。

スコア。

タイトル。

平均点。

もちろん、それらはボウリングの大切な魅力だ。

しかし、そのさらに奥にもう一つの価値がある。

人と人をつなぐこと。

誰かがもう一度社会と関わるきっかけをつくること。

「ここにいていい」と伝えること。

そして、誰かにとって帰ってこられる場所になること。

それもまた、ボウリングというスポーツが持つ大きな力なのではないだろうか。

「If you bowl, you belong.」

この言葉を、ただのスローガンで終わらせない。

言葉が行動に変わったとき、「You Belong」は初めて本当の意味を持つ。