勝てば伝説、負ければ異例
EJタケットが迎える運命のワールドチャンピオンシップ
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要点音声解説
本要点音声解説は、「OneHandedBowling」掲載の動画内容をNotebookLM を用いて生成したものです。
2026年PBAツアーを揺らす、異例のPlayer of the Year論争
2026年のPBAツアーは、シーズン終盤を迎えてもなお、はっきりとした答えを出せないまま熱を帯びている。通常であれば、年間最優秀選手、いわゆるPlayer of the Yearの議論は、タイトル数やメジャー制覇を軸に進んでいく。複数の大会を制した選手、最も大きな舞台で勝ち切った選手が評価されるのは自然な流れだ。
しかし今季は、その常識が揺らいでいる。議論の中心にいるのは、まだ今季タイトルを獲得していないEJタケットである。
タケットは過去3年連続でPBA年間最優秀選手に選ばれてきた、現代ボウリング界を代表する存在だ。今季もポイントランキング、平均スコア、安定感のすべてで圧倒的な成績を残している。にもかかわらず、シーズン終盤の時点で優勝がない。この事実が、2026年のPBAを非常に珍しいシーズンにしている。
ワールドシリーズ・オブ・ボウリング終了時点で、残された標準イベントはわずか。さらにタケットはワールドチャンピオンシップで第1シードを獲得しており、ここで勝てば自身の評価だけでなく、PBA史における立ち位置まで大きく変える可能性がある。今季のタケットは、単に「強い選手」ではない。勝てば歴史、負ければ異例の無冠シーズンとして語られる、まさに分岐点に立っている。
圧倒的な数字と、勝ち切れない現実が生む評価の難しさ
今季のEJタケットを語るうえで、最初に触れるべきは記録的な平均スコアである。彼は392ゲームを投げ、平均229.77という驚異的な数字を残している。しかも、このゲーム数はツアー全体でも突出して多い。少ない試合数で高い平均を出すことと、長期間にわたって大量のゲームを投げながら高水準を維持することは、意味がまったく違う。
ボウリングは、単に同じ投球を繰り返せば勝てる競技ではない。レーンコンディションは刻々と変化し、オイルパターンも大会ごとに異なる。使用するボール、ライン取り、回転数、スピード、立ち位置の微調整。これらを一投ごとに判断し続けなければならない。数ゲームなら勢いや感覚で乗り切れることもあるが、シーズン全体で平均229.77を維持するには、技術だけでなく、対応力、集中力、精神的な耐久力が不可欠である。
さらに重要なのは、タケットがほとんどカットを逃していない点だ。今季、彼がカットを逃したのはわずか一度だけとされている。しかも、その唯一の失敗もニューヨーククラシックで13ピン届かなかっただけの48位だった。多くの選手にとっては「惜しくも届かなかった大会」と言える結果が、タケットにとっては今季最悪の成績になる。この事実だけでも、彼のシーズン全体の安定感がどれほど異常かが分かる。
PBAの年間最優秀選手を考えるうえで、タイトル数はもちろん大きな意味を持つ。しかし、年間を通じて誰が最も高いレベルで戦い続けたのかという視点も欠かせない。その意味で、タケットの今季は極めて強力だ。ほぼすべての大会で上位争いに加わり、ポイントランキングでも2位以下を大きく引き離している。これは一大会だけの爆発力ではなく、シーズン全体を支配する力の証明である。
ただし、ここに2026年最大の矛盾がある。タケットは数字上では今季最高の選手と言っていい成績を残しながら、まだタイトルを手にしていない。
この「圧倒的に強いのに、勝ち切れていない」という状態が、彼の評価を難しくしている。予選やマッチプレーでは他を圧倒する場面が多い一方で、テレビ決勝やタイトルマッチでは最後の一歩が届かない。ボウリングファンの間で議論が分かれるのは当然だ。シーズン全体の強さを評価すべきなのか。それとも、最後に勝ち切る力を最も重視すべきなのか。今季のタケットは、この問いをPBA界に突きつけている。
象徴的だったのが、ブランドン・ボントとのタイトルマッチである。ボントは開幕戦のプレイヤーズチャンピオンシップでステップラダーを勝ち上がり、タケットとの決勝で300点のパーフェクトゲームを達成した。相手が完璧な試合をした以上、タケットにとっては不運な敗戦とも言える。しかし同時に、最も注目される舞台で主役を奪われた試合でもあった。
USBCマスターズでも、タケットは大きなチャンスを逃している。重要な場面で10ピンを倒し切れていれば、彼は今季すでにメジャータイトルを手にしていた可能性がある。もしそこで勝っていれば、年間最優秀選手争いはここまで複雑になっていなかったかもしれない。だが、現実にはその一投が結果を分けた。ボウリングという競技の厳しさは、こうしたわずかな差に表れる。
それでも、テレビ決勝で勝てていないことだけを理由に、タケットのシーズン全体を過小評価するのは早計だ。PBAのポイントシステムは、継続して上位に入り続ける選手を高く評価する仕組みになっている。つまり、毎大会のように勝ち上がることには明確な価値がある。タケットが無冠でありながらポイントランキング首位に立っているのは偶然ではない。彼が誰よりも安定して、誰よりも高い水準で結果を積み重ねてきたからである。
今季のポイント争いを見ると、その構図はさらに明確になる。2位以下にはパトリック・ドンブロウスキー、ブランドン・ボント、バッジ・クロール、アンソニー・サモンセンらが並び、激しい接戦を繰り広げている。一方で、タケットだけはその集団から大きく抜け出している。2位から5位までは僅差で争っているのに、首位のタケットとの間には大きな隔たりがある。この差は、単なる運や一時的な好調では説明できない。
今季をさらに複雑にしているのが、新人選手たちの大躍進である。通常、PBAツアーの年間最優秀選手争いにルーキーが深く関わることは多くない。ツアー初年度の選手にとって、トッププロたちと長いシーズンを戦い抜くことは簡単ではないからだ。しかし2026年は、その常識が大きく覆された。
その筆頭がブランドン・ボントである。開幕戦でタケットを破り、しかもタイトルマッチで300点を出したという事実は、今季のPBAを語るうえで外せない出来事になった。新人が、現代最強クラスの選手を相手に、決勝の舞台で完璧なゲームを見せる。それは単なる番狂わせではなく、新しい時代の到来を印象づける勝利だった。
ボントの強みは、開幕戦の衝撃だけではない。その後も上位争いに絡み続け、新人としての年間獲得賞金記録にも関わるほどの活躍を見せている。つまり、彼は一発屋ではない。大舞台で勝ち、シーズンを通じても存在感を示している。さらに、タケットを破ったという物語性がある。年間最優秀選手の議論において、このストーリーの強さは無視できない。
一方で、アレックス・ホートンも強力な候補である。ホートンは複数タイトルを獲得しており、トーナメント・オブ・チャンピオンズやシャークチャンピオンシップでの勝利が大きな評価材料になっている。年間最優秀選手を選ぶうえで、実際にタイトルを勝ち取ったかどうかは非常に重要だ。タケットがどれほど安定していても、ホートンのように勝利という結果を複数回残した選手がいる以上、議論は簡単には終わらない。
ここに、今季の年間最優秀選手争いの本質がある。タケットは「シーズン全体の完成度」で圧倒している。ボントやホートンは「勝利のインパクト」と「物語性」で対抗している。どちらを重く見るかによって、評価は大きく変わる。
ベテラン勢にも注目すべき選手はいる。パトリック・ドンブロウスキーはUSオープンを制しており、メジャータイトルという強力な実績を持つ。USオープンはボウリング界でも屈指の難関大会であり、そこで勝つことには大きな価値がある。ただし、シーズン全体の支配力や話題性という点では、タケットや新人勢に比べてやや印象が弱い。大きな一勝はあるが、それだけでタケットの圧倒的な安定感を上回れるかは難しいところだ。
アンソニー・サモンセンも候補の一人である。2025年はタイトルに届かなかったが、2026年は再び優勝争いの中心に戻ってきた。シーズン序盤にはポイントランキングで上位に立つ場面もあり、復活を印象づけた。しかしシーズンが進むにつれて、タケットの異常な安定感がそれを上回った。現時点では、年間最優秀選手争いの主役というより、候補の一角にとどまっている印象が強い。
こうした混戦の中で、最終的に最大の意味を持つのがワールドチャンピオンシップである。タケットは同大会で66ゲームの予選を戦い抜き、第1シードを獲得している。しかも、この予選は複数のオイルパターンで行われた。異なるコンディションに対応しながらトップに立つことは、単に調子が良いだけでは不可能だ。あらゆる状況に対応できる総合力がなければ、66ゲームを通じて頂点に立つことはできない。
もしタケットがワールドチャンピオンシップを制すれば、その意味は計り知れない。まず、今季初タイトルとなる。そして同時に、彼の今季にまとわりついていた最大の疑問が消える。記録的な平均、圧倒的なポイントリード、ほぼ完璧な安定感。そこにメジャータイトルが加われば、年間最優秀選手としての説得力は一気に完成する。
さらに、ワールドチャンピオンシップでの勝利は、単なる今季の一勝にとどまらない。タケットにとっては、4年連続のワールドチャンピオンシップ制覇という歴史的偉業に関わる勝利でもある。PBAの長い歴史の中でも、同じメジャー大会をこれほど連続して支配することは極めて難しい。もし実現すれば、彼の名前は現役最強という枠を超え、歴代最高クラスの選手たちと並べて語られることになる。
また、年間最優秀選手の4年連続受賞という可能性もある。過去にはアール・アンソニー、ウォルター・レイ・ウィリアムズJr.、ジェイソン・ベルモンテといった偉大な選手たちが複数回の受賞を果たしてきた。しかし、4年連続という領域は特別だ。どれほど支配的な選手であっても、長いシーズンのどこかで他の選手に主役を譲ることはある。頂点に立つこと以上に、頂点に居続けることは難しい。
だからこそ、今季のタケットには歴史的な重みがある。彼がワールドチャンピオンシップを制すれば、無冠という弱点は消え、2026年は「記録的な支配のシーズン」として語られるだろう。逆に、最後までタイトルを獲得できなければ、今季は「数字では圧倒的だったが、勝利だけが足りなかったシーズン」として記憶される可能性がある。
この差は非常に大きい。スポーツにおいて、数字は選手の実力を示す重要な証拠である。しかし、記憶に残るのは最後に勝った場面でもある。タケットは今季、実力を示す数字をすでに十分すぎるほど積み上げた。あとは、その数字を歴史に変える勝利が必要なのだ。
もしボントやザック・ウィルキンスがワールドチャンピオンシップを制した場合、年間最優秀選手争いは一気に混沌とする。特にボントが勝てば、新人としてのインパクトはさらに強まる。開幕戦でタケットを破り、シーズン終盤のメジャーでも勝つとなれば、彼の物語は非常に強力だ。ルーキーがPBAの顔を倒し、年間最優秀選手にまで届く。そんな展開になれば、PBA史に残る世代交代の象徴として語られるだろう。
アレックス・ホートンの場合も同じだ。すでに複数タイトルを獲得している彼がさらに評価を高めれば、タイトル数を重視する投票者にとっては非常に魅力的な候補になる。タケットが無冠のままなら、ホートンの「勝ち切った実績」はさらに重くなる。
そして、ジェイソン・ベルモンテの存在も忘れてはならない。近年はタケットの勢いに押される場面もあるが、ベルモンテは依然として大舞台で最も警戒すべき選手の一人である。もし彼がステップラダーを勝ち上がり、ワールドチャンピオンシップを制すれば、キャリア通算メジャー数をさらに伸ばすことになる。タケット中心に見える物語であっても、PBAの大舞台ではいつでも別の伝説が生まれる可能性がある。
それでも、今季の主役がタケットであることは変わらない。なぜなら、彼はタイトルなしでも年間最優秀選手候補の最上位に立っているからだ。これは普通の選手にはできない。無冠であることが弱点として語られる一方で、無冠でもここまで評価されること自体が、彼の異常な強さを証明している。
過去数年、タケットは複数タイトルやメジャー優勝によって支配力を示してきた。特に2025年は、4タイトル、そのうち2つがメジャーという圧倒的なシーズンだった。その記憶があるからこそ、今季の無冠は余計に目立つ。しかし見方を変えれば、タイトルがない年でさえ、彼はなおシーズン最高の選手として語られている。それは、彼がすでに別格の存在になっている証拠でもある。
2026年のタケットは、非常に珍しい評価の中にいる。勝てば、文句なしの年間最優秀選手。負ければ、史上最も強い無冠シーズンの一つとして語られるかもしれない。どちらに転んでも、彼の名前は今季の中心に残る。
しかし、タケット自身が望んでいるのは、おそらく「よく戦った無冠の選手」という評価ではないはずだ。彼が目指しているのは、数字の上でも、結果の上でも、誰もが認める王者である。だからこそ、ワールドチャンピオンシップは彼にとって単なる一大会ではない。自らの支配を完成させるための最終試験なのだ。
ワールドチャンピオンシップが、タケットのレガシーを決める
2026年のPBA年間最優秀選手争いは、近年でも特に複雑で、興味深い展開になっている。EJタケットは、ポイント、平均スコア、安定感において他を圧倒している。一方で、ブランドン・ボントやアレックス・ホートンといった新人選手たちは、タイトル、インパクト、物語性によって強烈な存在感を放っている。
この議論の結論は、ワールドチャンピオンシップで大きく決まる可能性が高い。タケットが優勝すれば、今季の疑問はほぼ解消される。無冠という唯一の弱点を消し、記録的な平均、圧倒的なポイントリード、そしてメジャータイトルをそろえた文句なしのシーズンになるからだ。4年連続の年間最優秀選手という歴史的評価も、一気に現実味を帯びる。
しかし、もしタケットが勝てなければ、年間最優秀選手争いは最後まで意見が分かれるだろう。シーズン全体の完成度を重視するならタケット。勝ち切った実績や物語性を重視するなら新人勢やメジャー優勝者。どの基準を優先するかによって、答えは変わる。
それでも一つだけはっきりしている。2026年のPBAは、EJタケット抜きには語れない。彼はすでに、今季最も安定した選手であり、最も議論を生んでいる選手であり、最も歴史に近い場所にいる選手でもある。
あとは、最後の舞台で勝ち切れるかどうかだ。
ワールドチャンピオンシップは、タケットが現代最強の選手であることを改めて証明する舞台になるのか。それとも、新人勢やライバルたちが新たな時代の扉を開く舞台になるのか。
2026年PBAシーズンの答えは、その一戦にかかっている。
