
USBC、ウレタンボール規制を本格化
ボウリング界を揺るがす決断とその背景
アメリカ合衆国ボウリング会議(USBC)は、ウレタンボールの使用をめぐる新たなルール改正を正式に発表しました。競技の公平性や安全性を守るための措置でありながら、プロ・アマを問わず多くのボウラーやメーカーに影響を及ぼす決定です。長年続く「硬度規制」「タンパリング(違法加工)」「レーンコンディションへの影響」といった論点が再び表面化し、ボウリング界全体を巻き込む大論争へと発展しています。
歴史的背景:ウレタンボール規制の始まり
ウレタンボールが注目されたのは1980年代。当時は「化学的な軟化処理(ソーキング)」による不正が横行し、1974年にPBAが硬度75ショアDを基準に規制を導入。さらに1976年にはABC(現USBC)が72ショアDの基準を採用しました。
その後、リアクティブレジンの台頭によりウレタンは一時衰退。2000年代初頭には硬度チェックそのものが廃止されました。しかし、Storm社「Pitch Black」(2014年発売)やEbonite社「Purple Hammer」(2016年発売)といった新モデルが登場し、ツアーで成功を収めたことから再び使用者が急増。「ウレタンの第2次ブーム」が到来しました。
USBC研究チームの最新調査
USBCは近年、徹底的な研究を実施。中でも衝撃的だったのが、ウレタンボールをアセトンに浸すと硬度が一晩で40ポイント以上低下するという実験結果です。さらに時間経過で硬度が「回復」してしまうため、不正の証拠を発見することが極めて困難であることも明らかになりました。
また、フィールドテストでは、使用を重ねるだけで硬度が低下する現象も確認。硬度が低いほど接地面積(フットプリント)が拡大し、摩擦が増加、ボールが早く強く曲がる傾向が見られました。これは競技の公平性を著しく損なう可能性があるとされています。
タンパリング問題と安全性
ボールの不正加工(タンパリング*は、スポーツの根幹を揺るがす大きな脅威です。USBCの実験では、ソーキング直後のボールは通常よりも「20枚分内側」から投球できるほど反応が強烈であることが確認されました。
さらに過去には、化学薬品を使った加工によって死亡事故が発生した事例もあり、単なる不正行為ではなく安全面のリスクも伴います。
このためUSBCは、大会現場での抜き打ち検査(スポットチェック)を再導入し、違反者に対しては会員資格停止などの厳罰を科す方針を示しました。
レーンコンディションへの影響
ウレタンボールはオイルを吸収しにくく、レーン上に油を運ぶ(キャリーダウン)特性があります。その結果、レーンパターンが急速に変化し、試合の途中で攻略難易度が大きく変動。特に短いパターンでは、ウレタン使用が戦術を一極化させるという指摘もあります。
USBCレーン開発責任者ニック・ホグランド氏は、次のように警鐘を鳴らしました。
「ウレタンとリアクティブが同時に使用されることで、従来のレーンパターン設計がほぼ不可能になりつつある。公平性の維持が限界に近づいている。」
このため、USBCはオイル吸収時間90分ルールを新たに設定。これは「リアクティブは数分〜1時間で吸収されるが、ウレタンは数日間油を保持する」という特性を踏まえた規制であり、競技環境を健全化する狙いがあります。
ボウラーと業界の反応
2025年、USBCは20,000人以上のボウラーを対象に調査を実施。結果は以下の通りでした。
オープン選手権参加者:規制強化を支持する意見が多数
PBA・PWBAのプロ選手層:ウレタンを「技術の一部」として存続を希望
ジュニア層:学習機会の一環としてウレタンを容認する声
このように、世代や立場によって意見は大きく分かれることが浮き彫りになりました。
今後の展望と課題
USBCは今シーズンから段階的にルールを適用。特にジュニアゴールドや大学リーグでは、「予選ではウレタン使用可、決勝では禁止」というハイブリッド方式を導入しました。これは一部で混乱を招く一方、「複数のボールで対応できるオールラウンドな選手育成につながる」という肯定的評価もあります。
しかし、依然として課題は山積みです。
タンパリングの証拠発見の困難さ
公平なレーンパターン設計の限界
ボウラーへの経済的影響(ウレタン禁止による買い替え負担)
それでも今回の決断は、「ボウリングという競技の未来を守るための歴史的な一歩」と位置づけられます。
まとめ
USBCはウレタンボールの硬度低下と不正加工問題に本格対応
大会現場での抜き打ち検査を再導入、違反には厳罰
レーン環境への影響を抑えるため「オイル吸収90分ルール」を制定
ボウラー・業界の間では賛否両論が続くものの、競技の公平性確保を目的とした施策