EJ・タケット無敗の衝撃
USBCマスターズ決勝ステップラダー、記録更新の頂へ

USBCマスターズ決勝へ——“異次元”の勝ち上がりが生んだ最終局面

米ミシガン州アレンパークのサンダーボウル・レーンで開催されたUSBCマスターズは、決勝ステップラダーに向けて濃密な物語を用意した。主役はEJ・タケット。過去2日間の彼の内容は、単なる「好調」という言葉では追いつかない。64人によるマッチプレーを無敗で駆け上がり、歴代最高レベルの平均スコアを叩き出して“記録”と“期待”を同時に背負い、頂点決戦へ進んだ。

一方で、決勝の顔ぶれはスターだけで固められていない。初タイトルを狙うエリック・ジョーンズメジャー2勝のイェスパー・スベンソンリハビリを越えて舞台に立つマット・サンダース、そして直近のタイトル戦の雪辱を期すブーグ・クロール。背景も勢いも異なる5人が、勝者総取りの舞台に集結した。

 

決勝ステップラダーを形作った「記録」「宿命」「再起」

1)タケット、USBCマスターズ史上最高のマッチプレーで首位通過

タケットが示したのは、トーナメントの流れそのものを変えてしまうほどの支配力だった。64人のマッチプレー・ブラケットを無敗で進行18ゲーム平均258.39に到達し、2023年にアンソニー・サイモンセンが作った250.4の大会記録を更新した。勝ち方も盤石で、3ゲーム総ピンフォール形式の対戦を6回すべて制しステップラダー決勝の第1シードを獲得している。

最後のシード決定戦でもタケットは強かった。対戦相手のジョーンズを下し、最上位の座を確定。スコアの高さだけでなく、相手に流れを渡さない運びが際立つ。ピンを倒す力に加え、試合の温度を支配する“優勝候補の立ち居振る舞い”が、今大会では一段と鮮明だ。

 

2)8つ目のメジャー、そして「キャリア・グランドスラム」へ

今回のUSBCマスターズは、タケット個人にとって意味が重い。決勝進出は2014年以来。久々にこの大会の最終局面へ帰ってきた。タケットはPBAの“トリプルクラウン”(U.S.オープン、トーナメント・オブ・チャンピオンズ、PBAワールド選手権)を制した9人の一人であり、ここにマスターズを加えると「キャリア・グランドスラム」が完成する。

このグランドスラム達成者は、ジェイソン・ベルモンテ、ノーム・デューク、マイク・オールビーの3人しかいない。タケットは今、8つ目のメジャータイトルと同時に、歴史的な到達点まで「あと1勝」という距離にいる。記録的パフォーマンスが記録的称号へ繋がるのか——最大の注目点はここだ。

 

3)ジョーンズ、21歳で“ベテラン化”する挑戦者

第2シードは21歳のエリック・ジョーンズPBAツアー初優勝を狙う立場で、タケットを追う構図となった。若いが経験が薄いわけではない。今回がメジャー決勝ラウンド2度目で、初めての大舞台は2024年のPBAワールド選手権(同じサンダーボウル・レーン開催)だった。そのときの決勝フィールドには、タケットとスベンソンも名を連ねている。ジョーンズは強者が集まる環境で、すでに“場数”を踏んできた。

さらに象徴的なのが、憧れのベルモンテとの直接対決だ。ジョーンズは勝者側ブラケット4回戦でベルモンテを782-754で撃破。ベルモンテはSNS上で、ゲーム2以降のボールチェンジと実行力を称えつつ「次は勝つ」とコメントし、リスペクトと悔しさを同時に滲ませた。アイドル越えの勝利は、ジョーンズの自信と周囲の評価を一段引き上げたはずだ。

 

4)スベンソンが第3、サンダースとクロールが続く——5人の個性がぶつかる

第3シードはイェスパー・スベンソンメジャー2勝の実績を持ち、今季のPBAプレーヤーズ選手権でも4位に入った。タケットとスベンソンは、ともに今季2度目のメジャー決勝。大舞台の経験値という点では、この2人が抜けている。

ただし決勝にドラマを持ち込むのは、実績だけではない。マット・サンダースは、勝者側で早めに敗れた後、敗者側で7試合を勝ち抜く“最長ルート”で決勝へ辿り着いた。2日間21ゲームで平均240超という高水準を維持したこと自体、相当な体力と集中力を要する。しかも彼には、競技人生を揺るがす怪我からの復帰という背景がある。

昨年7月、引っ越し事故による右脚の深い裂傷で腱や筋肉まで損傷し、数週間歩けなかった。32歳の左利きボウラーは、今季どころか将来の競技継続すら不透明だったという。それでもリハビリに徹底して取り組み、2026年シーズン開幕に間に合わせた。今月のU.S.オープンでは予選で一時首位付近を走り、最終18位。直近のPBAインディアナ・クラシックは腫れが限界となり棄権したが、それでも今週は大舞台に立っている。「8カ月前は歩けなかった。だが日曜、メジャータイトルを懸けて投げる」——この対比が、サンダースの一投一投に特別な重みを与える。

第5シードのブーグ・クロールもまた、別の意味で“今週を変えたい”立場だ。先週のPBAインディアナ・クラシックでタイトル戦に進みながら、136-152という低スコア決着で敗れ、タイトルマッチ最低スコア記録という不名誉な形で記憶に残った。クロールは「勝たなきゃというプレッシャーをかけ過ぎた。今週は楽しむ」と語り、マインドセットの切り替えを示している。短期決戦のステップラダーでは、精神状態がそのまま結果に直結する。解放感がストライクを連れてくることもある。

 

3月29日、決勝は「記録の完成」「物語の逆転」か

決勝ステップラダーの焦点は明確だ。タケットは大会史上最高のマッチプレー“優勝”で締めくくれるか。そしてそれは、8つ目のメジャーキャリア・グランドスラムという歴史的称号に直結する。一方でジョーンズには初タイトル世代交代の旗印がかかり、スベンソンには強者の安定感がある。サンダースは競技生命の危機を越えて、クロールは直近の苦い記録の雪辱を期し、それぞれの理由で勝ちに来る。

放送は現地時間で日曜3月29日16時(ET)からThe CWで生中継予定。ステップラダーは短いからこそ残酷で、短いからこそ奇跡も起きるタケットが記録を完成させるのか、それとも挑戦者たちが物語を塗り替えるのか。結末は、数フレームの中で決まる

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 👉  USBC Masters

     Qualifying – Round 3

     Brackets