PBA中継が新時代へ――The CWで始まる「語れるボウリング」とカイル・シャーマンの挑戦

ボウリング中継が変わる瞬間が来た――「語れるスポーツ」へ進化するPBA

ボウリングは、静かな競技に見えて、実は情報量が多い。レーンのオイルは刻々と動き、同じ場所に投げても同じ曲がり方をしない。ボールは“球”ではなく、素材と構造で性格がまるで変わる道具であり、選手はその性格を理解して使い分ける。さらに、最上位の舞台ほど技術差は縮まり、最後にものを言うのは判断力と心理になる。

だからこそ、ボウリング中継の価値は「映す」だけでは完成しない何を見ればいいのかなぜ今この選択なのか失投はどこで起きたのか。観戦の焦点を定め、視聴者の理解を一段引き上げる“解説”があって初めて、この競技はテレビの前で立体的に立ち上がる。

PBAツアーがThe CWで新たな放送時代に入る2026年、その要となるリード・カラーアナリストに、カイル・シャーマン(Kyle Sherman)が就任した。これを単なる人事だと思うのは早い。今回の起用は、PBAが「競技をどう伝えるか」を明確にアップデートする宣言でもある。

 

カイル・シャーマン就任が意味するもの――“現役の言語”が中継を強くする

1)「興奮している、では足りない」――解説者の言葉が、放送の温度を決める

シャーマンは就任にあたり、「興奮している、という言葉では足りない」と語った。ここに、今回のキャスティングの核心がある。解説は、情報の提供だけでなく、競技への敬意と熱量を視聴者へ手渡す仕事だ。言い換えれば、解説者の体温が放送の体温になる

シャーマンは「プロの試合が可能な限り最高であってほしい」、そして「選手と競技を最善の形で紹介する」とも述べている。自分の役割を“目立つこと”ではなく、競技をよくすることと捉えている点が重要だ。これは、解説の主語が「私」ではなく「競技」になっているということでもある。

 

2)実況はリック・アレン――“スポーツの言葉”でボウリングの入口を広げる

シャーマンの相棒となる実況は、リック・アレン(Rick Allen)20年以上のキャリアを持つ放送のベテランで、NBCのNASCAR中継では2015〜2024年にリード実況を務めた。ボウリングは、ルールはシンプルでも、勝敗の理由は複雑になりやすい。だからこそ実況が中継の「呼吸」を作れれば、新規視聴者の定着率は上がる。

シャーマンは「話せば話すほど、リックがボウリングには学ぶことが多いと感じてくれた」と語る。実況者が競技に対して“学びの姿勢”を持っていることは、放送にそのまま表れる。さらに「彼の顔にワクワクが見えた」「彼のためにボウリングボールも用意した」というエピソードは、新体制が内輪で完結しない放送を目指していることを象徴する。競技の外から入ってきた実況者が、視聴者と同じ目線で驚き、理解し、熱くなる。そこに“入口の強さ”が生まれる。

 

3)デビュー戦は、いきなりメジャー決勝――PBA Players Championshipが“新時代の初速”になる

二人の初回放送は、2026年シーズン開幕戦であり、メジャー王者が決まるPBA Players Championship米東部時間2月22日(日)午後4時から、The CWでライブ放送される。

ここが痛快だ。最初から最大の緊張感とドラマが詰まった舞台が用意される。メジャーは技術の披露だけでなく、選手のメンタルが“露呈”する試合でもある。わずかなミスの兆候、レーン変化への対応の遅れ、思い切ったライン変更の決断。そうした場面が何度も訪れる。解説者の力量が最も試され、同時に最も発揮されやすい環境だ。

 

4)“現役フルタイム選手”が解説をする価値――最新の用具、戦略、心理を同時に語れる

シャーマンはPBAツアー2勝の実績を持ち、元Team USAのメンバーでもある。だが今回、特に効いてくるのは「2026年もフルタイム選手として戦い続ける」という点だ。

現役であることは、解説の説得力を一段上げる。理由は単純で、ボウリングの勝負所は“いまの環境”で決まるからだ。用具は進化し続け、レーンコンディションへの対応は年々細分化される。昔の経験談はもちろん価値があるが、現代のトップが現場で何を基準に選択しているかは、現役にしか語れない温度で伝えられる。

中継で生きるのは、例えばこんな問いを当事者の言語に変換する瞬間だ。

  • ストライクが出るのに、なぜラインを変えるのか

  • 同じボールでも、なぜ回転やスピードを微調整するのか

  • 展開を見て、なぜ“守りの9本”を取りに行くのか

  • プレッシャーが、フォームではなく判断を狂わせる瞬間はどこか

視聴者は、ただ結果を追うのではなく、“勝ち方の設計図”を一緒に読み解けるようになる。

 

5)YouTubeで磨いた“物語る力”――ショットの裏にいる人間を映す

シャーマンは、2017年に始めたYouTubeチャンネル「Brad and Kyle」に触れ、「選手の物語をもっと伝えたい」と語った。ここが、放送で最も化ける可能性がある。

ボウリング中継の難しさは、同じフレームの繰り返しに見えやすいことにある。しかし実際は、各投球に至るまでの準備や迷い、周囲との駆け引きが存在する。シャーマンは「番組に至る1週間の過ごし方」や、「外側からは見えない視点」を提供できると言う。これは、競技を“点”ではなく“線”で見せるという宣言だ。

視聴者が本当に引き込まれるのは、ストライクの瞬間だけではない。感覚がズレたときにどう戻すか。必要以上に焦らず、必要なだけ攻めるにはどうするか。勝者の物語だけでなく、敗者が失ったものの重さまで描けたとき、スポーツは記録を超えて記憶になる。

 

6)巨大な空白――ランディ・ペダーセンの“声”の後をどう歩くか

シャーマンが引き継ぐのは、ランディ・ペダーセン(Randy Pedersen)が築いた長い歴史だ。PBA殿堂入りの名選手であり、2001年からリード解説を務め、26年に及ぶ在任はPBA史上最長とされる。

この“空白”は埋められない。シャーマン自身も「彼の靴を履くことはできない」、「伝説の置き換えは不可能」と認め、「自分ができる最善の形に集中する」と語っている。前任者の模倣ではなく、現役としての最新性と物語を語る力で、別の価値を積み上げる。新しい声で、新しいPBAの“わかりやすさ”と“面白さ”を作る挑戦が始まる。

 

2月22日は、PBAが「見られ方」を変える日――“理解できる興奮”の放送へ

The CW時代のPBAは、単に放送局が変わるだけではない。競技を伝える言葉が変わり、視聴者との距離が変わる可能性がある。実況のリック・アレン“スポーツ中継の入口”を広げ、解説のカイル・シャーマンが“競技の内側”を言語化する。初めて見る人にも入りやすく、深く知りたい人には深く刺さる設計だ。

そして、その最初の答え合わせが、2026年2月22日(米東部時間)午後4時からのPBA Players Championshipで行われる。視聴者が「すごかった」で終わるのか、「なぜすごいのかが分かった」まで到達するのか。その差が、放送の未来を決める。

シャーマンは「競技を最高の形で紹介する」と言った。ならば私たちが目撃するのは、ストライクの連続ではなく、理解が連続していく中継かもしれない。ボウリングが“静かなスポーツ”から“語られるスポーツ”へ変わる瞬間。その扉が、2月22日に開く。