敗北を力に変えて
EJタケットが“世界一”に上り詰めるまでの3年間

敗北から生まれた世界一への道

2025年、EJタケット(EJ Tackett)はPBAワールドチャンピオンシップ3連覇を達成し、名実ともに“世界最高のボウラー”の座に君臨した。
かつてテレビ中継の大舞台では実力を発揮できず「プレッシャーに弱い選手」と評されていた男が、なぜここまで成長したのか。

その裏には、屈辱と悔しさを糧にした10年の歩みと、世界一を追い求め続けたライバル・ジェイソン・ベルモンテ(Jason Belmonte)の存在があった。

 

苦悩と内省が育てた真の強さ

2015年の屈辱:自分の甘さに気づいた日

「2015年のPBAワールドチャンピオンシップでの大敗」が、タケットの人生を変えた。

当時23歳だった彼は、タイトル戦でゲイリー・フォークナーJr.に完敗。
平均スコア186.67、テレビ中継での戦績は1勝5敗。
才能はあると信じていたが、大舞台で勝てない選手という烙印を押されてしまう。

しかも、「右投げの自分が唯一の右利き選手だったのに、その利点を活かせなかった」という後悔も残った。

モーティブ(Motiv)社のツアーレップであり友人でもあるブレット・スパングラーは、当時の彼についてこう語る。

「EJはただ“投げていただけ”。戦略も準備もなかった」

この試合をきっかけに、タケットは本気で自分を変える決意をする。

 

小さな自信が、大きな飛躍に

翌2016年、タケットは再びメジャー大会でテレビ中継の決勝に進出。惜しくも敗れるが、「今までで一番いいボウリングができた」と感じたことで、初めて“次は勝てる”という確信を持つようになる。

その言葉通り、同年のPBAベアオープンでテレビ初優勝を果たす。

さらに、2016年末には再びワールドチャンピオンシップの決勝へ。今度はトム・スモールウッドを圧倒し、悲願のメジャータイトル初制覇を達成する。

この一勝で、年間最優秀選手賞(Chris Schenkel PBA Player of the Year)を初受賞し、トッププレーヤーの仲間入りを果たした。

 

ライバル・ベルモンテの存在が与えた意味

しかし、その後の5年間、タケットは再び壁にぶつかる。

圧倒的な実績を残すジェイソン・ベルモンテが、メジャー大会でタイトルを重ねる中、タケットは優勝こそあれど、メジャーでの活躍が乏しく、テレビでの勝率も伸び悩んだ。

「自分がどれだけ勝っても、ベルモンテが常に前を走っていた」
「彼の背中を追いかけている限り、自分は2番手のままだと思っていた」

だが、その劣等感がタケットを突き動かす原動力となる。

 

分岐点となった2023年全米オープン

そして迎えた2023年、タケットのキャリア最大の転機が訪れる。

前年の全米オープンでは500ピン以上のリードを保ちながら、決勝でアンソニー・サイモンセンに敗北。
「勝てるはずだった試合」で敗れたことにより、世間の疑念は一層強まった。

だが、タケットはこの試合を機にかつてないほどの練習と準備に打ち込んだ。

「これまでのキャリアで、これほど準備をしたシーズンはなかった」

その結果、2023年大会では再び首位通過し、決勝で元最優秀選手のカイル・トゥループを破り、ついに悲願のグリーンジャケットを獲得。

試合を決定づけたのは、最後の10ピンが倒れたワンショット。

「もしあのピンが残っていたら、今のキャリアはなかったかもしれない」

この1投が、自信と勝負強さを完全に自分のものにした瞬間だった。

 

真の王者へ:ベルモンテとの決戦を制す

この勝利を機に、タケットは勢いそのままに複数タイトルを獲得。
そして2023年、2025年と、2度にわたりワールドチャンピオンシップ決勝でベルモンテと対決。

過去2度とも敗れていたが、今度はプレッシャーをコントロールし、冷静に2連勝を果たす。

「心拍数を落ち着かせるために、10〜15秒余分に時間を取った。その冷静さが勝因だった」

この勝利で、「EJタケットは“ベルモンテを超えた”」という評価が現実のものとなる。

 

成熟したボウラーとしての現在

2025年現在、タケットは過去3年間で11タイトル、メジャー5勝、収益110万ドル超えという圧倒的成績を残している。

「昔のEJは、無計画に投げていた」とスパングラーは語るが、今では「光の下に出る前の全ての投球が、試合のための準備になっている」とまで評価されるようになった。

「自分はもともと信じていた。でも今は“証明”できた」

 

EJタケットが示した成長の本質

EJタケットは、ただの才能ある若手選手から、「世界で最も信頼されるチャンピオン」へと変貌した。

それは偶然でも、才能だけでもなかった。
敗北を認め、課題と向き合い、ひたすらに挑戦を繰り返した10年間の集大成である。

そして何より、彼は自らの手で“ライバル”ベルモンテという存在を超えた。
タケットの成功は、「信じる力」と「学び続ける姿勢」の重要性を証明する物語だ。

 

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どんなに才能があっても、失敗や挫折を避けることはできません。
大切なのは、そこから何を学び、どう立ち向かうか。EJタケットの物語は、すべての挑戦者にとっての希望となるはずです。