
ショーン・ラッシュ、スウェーデンでの執念の勝利
4年ぶりのタイトル獲得
キャリア終盤のラッシュに訪れた奇跡の瞬間
プロボウリング界のレジェンド、ショーン・ラッシュ(43歳)が、スウェーデンで開催された2025年ストーム・ラッキー・ラーセン・マスターズにて、約4年ぶりとなるPBAツアータイトルを獲得しました。
ラッシュにとって、この勝利は単なる1勝ではありません。20年以上にわたるキャリアの中で、初めてスカンジナビアの地で掴んだ栄冠であり、年齢や怪我、そして精神的なプレッシャーを乗り越えた結果でした。
痛みと不安を抱えながらの戦い
20年越しの勝利への伏線:スウェーデンでの挑戦
ラッシュがスウェーデンの地に挑み続けた年月は、実に20年以上。これまでにPBAツアーで17回の優勝、PBA年間最優秀選手賞の受賞、そしてPBA殿堂入りという輝かしい実績を持ちながらも、スウェーデンでの優勝は彼にとって「あと一歩届かない夢」でした。
しかし今回の大会では、到着直後の試合で時差ボケをものともせず270点を記録し、絶好の滑り出し。「フレッシュオイルの状態が読み切れていた」と語るように、彼のボール選択とライン取りは完璧で、複数のボールを使い分けながら予選を突破しました。
「スタートさえ良ければ、勝機はあると分かっていた」と語るラッシュの目には、自信が宿っていました。
準決勝:若き挑戦者との世代を超えた一戦
準決勝の相手は、急成長中の若手ネイト・パーチェス。彼とは年齢差が20歳近くあります。
ラッシュは1投目からストライクを決め、序盤から攻めの姿勢を見せました。ところが、2フレーム目ではポケット7-10スプリットを出してしまい、その後も4フレーム目の4-9スプリット、6フレーム目の3-6チョップ、7フレーム目の再スプリットと、ミスが続きます。
一時は27ピンのビハインドを背負う苦しい展開に。
しかしラッシュは慌てませんでした。「若い選手にとって、初めてのこの大舞台はプレッシャーになる」と冷静に読み、試合終盤で見事に巻き返しを図ります。9・10フレームで連続ストライクを決め、プレッシャーをかけると、パーチェスは10フレームで痛恨のスペアミス。これにより、ラッシュが決勝進出を果たしました。
決勝直前のアクシデント:右手が動かない
勝負はここで終わりではありませんでした。準決勝を終え、ウォームアップに入ったラッシュの右手が突然「ロック」してしまうという予期せぬ事態が発生。
これは、夏にフロリダで負った手の怪我の再発でした。さらに、使用していたボールが他のボールよりも若干長いスパンであったことも拍車をかけました。
このタイミングでの手の不調に、ラッシュは動揺します。大会主催者のマーティン・ラーセンには「投げられるかどうかわからない」とまで伝えました。
しかし、ラーセンはこう返します。
「どう投げるかじゃない。君がそこに立つことが大事なんだ」
この言葉と、ライブ配信を見ていた妻・サラの励ましが、彼をもう一度奮い立たせました。
「心の力で乗り越えて。あなたならできる」
ラッシュはその言葉を胸に、残されたわずかな可能性に賭ける決断をします。
苦肉の策が奇跡を呼んだ:20年前のスタイルで挑んだ決勝
「最後の手段として、20年前の戦法に戻した」と語るラッシュ。これは、プロデビュー初期のUSオープン時代に使っていた、ストレート気味のボールコントロール戦術です。
彼は回転数を抑え、1-3ポケットにまっすぐ向かうシンプルなラインを狙い、5番目の矢を通してボールを投げ込みます。
当然、これは技術的な妙技ではなく、痛みを抱える中で唯一可能だった投球スタイル。実況陣もその変化に気づき、「これは奇策というより、サバイバル戦術だ」とコメント。
しかし、ここで信じられないことが起こります。
初フレームで3-5-6の難しいスプリットをカバー
2フレーム目から4連続ストライク(通称:ハンボーン)
対戦相手のリッサネンは3・4フレームでオープンフレーム
この時点で試合の主導権は完全にラッシュに。
「これはタイトルを逃さない流れだ」と実況が伝える中、9フレームでは1-2を難なくスペア処理し、10フレームに突入。
ここで彼は完璧なストライクを放ち、さらに2回連続でストライクを加えてフィニッシュ。
「あの10フレーム目の1投目は、自分のキャリアでも最高の1球だった」とラッシュは語りました。
この勝利により、PBA通算18勝目を挙げ、歴代19位タイ(ネルソン・バートンJr.らと並ぶ)という偉業を達成。
限界の中で掴んだ、記憶に残る勝利
ラッシュにとって2025年は忘れられない年となりました。
シーズン後半には、用具スポンサーとのトラブルが浮上するなど、トラブルも多かった年。しかしその中でも、
PBA殿堂入り
地元イリノイでの2大会決勝進出
そして今回の40代初タイトル
と、本人にとっても大きな意味を持つ年になりました。
「怪我前は、18勝なんてただの数字だった。でも今は『本当にやり切った』と誇りに思える」
そう語るラッシュは、これまでの「Aゲーム」ではなく、「C、D、Eランクの実力で勝ち取った」と、謙虚にこの勝利を振り返ります。
そして彼は次なる目標、通算20勝の大台に向けて、また一歩前進しました。
「この雰囲気、この状況、この勝利…一生忘れられない」
年齢、怪我、精神的な葛藤をすべて乗り越えた男のドラマは、まだ終わっていません。