シェイナ・ン、涙の復活優勝
6年越しのタイトル獲得に込めた想い
2025年、トピーカで開催されたPWBAトーナメントの決勝で、シンガポールのシェイナ・ン(Shayna Ng)が待望のタイトルを獲得した。この勝利は、彼女にとって実に6年ぶり、通算3度目のPWBAタイトルであり、単なるトロフィー以上の意味を持つものだった。
「本当に、長かった……」
勝利後のインタビューで彼女が最初に漏らした言葉には、これまでの苦しみと、それを乗り越えた安堵がにじんでいた。
仲間たちの支えが背中を押した
今回のトーナメントで印象的だったのは、チームメイトの存在だ。彼女の多くの仲間たちは予選で敗退してしまったにもかかわらず、大会期間中ずっとシェイナのそばに残り、声をかけ、支え続けたという。
「みんな自分は投げられないのに、ずっと一緒にいてくれて。私がステップラダー4試合連続で進めるように、全力でサポートしてくれた。心強かったです。」
仲間の声援とサポートが、彼女の精神的な支柱となった。
“右側から崩さない”──明確な戦略とその効果
大会に入る前、シェイナには明確なプランがあった。
「スコアがどんなペースになるか分からなかったし、他の選手がどこを攻めてくるのかも読めなかった。でも私は“とにかく右側でプレーし続ける”って決めてたんです。」
“右で投げ続け、ボールも抑え目にする”という戦略。リスクの少ないアプローチだったが、初日は見事にそれが功を奏した。
しかし、後半になるにつれ、キャリー(ピンが飛ばない)問題に苦しみ始めた。
「ストライクが続かなくなって、焦り始めました。リードしていたのに、周りがじわじわ迫ってきて……“あ、これヤバいかも”って。」
最終ゲーム開始時には、20ピンのビハインドを背負う展開。だが、ここで彼女の闘志に火がついた。
「トップシードで入りたかったけど、それを逃したことで逆に“どうしても勝ちたい”って気持ちが強くなったんです。」
準決勝の相手は親友にして世界王者、ブリアナ・クレマー
ステップラダー準決勝で対峙したのは、ブリアナ・クレマー(Breanna Clemmer)。シェイナにとっては、国際大会で何度も対戦したことがある“戦友”でもあり、“親友”でもある存在だ。
「彼女の実力はよく知っています。世界選手権で何度も一緒に戦ってきたし、プライベートでも仲がいい。でも、それだけに本当に怖い相手でした。」
精神的な重圧も感じながらも、彼女は“一投ずつ丁寧に、自分のボウリングをする”ことに集中した。
2つのボール、2つのレーン──綿密な準備が光る
この試合で特に印象的だったのが、レーンごとに異なるボールを使い分けていた点だ。これは、彼女とボールリペ(用具コーチ)のロブが試合当日の朝に決めた作戦だったという。
「ロブがいてくれたことは本当に助かりました。すごく緊張していた私を落ち着かせてくれて、戦略を一緒に確認してくれた。右と左で違うボールを使うことになって、それがハマりました。」
この冷静な判断力が、プレッシャーのかかる場面で生きた。
パーフェクトゲームの夢と、わずかな悔しさ
決勝戦では、シェイナが6連続ストライクでスタート。場内がざわめき始めた。
「“あれ、もしかして……パーフェクトいける?”って自分でも思ってました。でも7フレーム目で4番ピンが残って、記録はストップしました。」
それでも、会心の投球が続く中、本人が反省点として挙げたのはスぺアの精度だった。
「今日は全体的にスぺアがよくなかったですね。特に10ピン、あれは急ぎすぎてしまった。もっと落ち着いて投げられていれば……」
だが一方で、準決勝での3-6-9-10スぺアのカバーには満足の表情を浮かべた。
「あれは本当に嬉しかったです。あのスぺアは勇気いりましたよ。“まっすぐ攻める”のはなかなかできない。すごく誇りに思ってます。」
“あ、私が勝ったんだ”──信じられない優勝の瞬間
勝利が決まった瞬間、シェイナはしばらく呆然としていたという。
「頭の中でスコアを3回くらい数えて、『あ、私だ……勝ったんだ』って。信じられなかったです。」
6年という長い空白を経ての勝利。その感動は、言葉では言い尽くせないものだった。
勝利は“通過点”──視線はすでに次戦・クイーンズへ
タイトル獲得後、インタビューで彼女が語ったのは、勝利の喜びと同時に、冷静な次への視点だった。
「これは私にとってすごく意味のある勝利。でも、これで何かが変わるわけではないんです。来週のUSBCクイーンズも、同じように準備して、同じように挑みます。」
【結び】一投に込めた、飽くなき信念
6年間、表彰台から遠ざかりながらも諦めず、仲間と歩み、冷静に戦略を立て、勝利をつかんだシェイナ・ン。
「私はこれからも、一投一投を大事にするだけ。それが私のボウリングです。」
6年の時を超え、彼女は再び女王の座へと返り咲いた。しかしその姿勢は、これからも変わることはない。