
歴史のレーンで甦る因縁
バットゥリフ、再びマキューンに挑むTOC決勝へ
2025年4月19日、アメリカ・オハイオ州フェアローンに位置する歴史あるAMFリビエラレーンズ。1966年以来36回にわたりPBAトーナメント・オブ・チャンピオンズ(TOC)の舞台となってきたこの地で、ジャコブ・バットゥリフがまたひとつ、ボウリング界の歴史に名を刻もうとしている。今大会で優勝を果たせば、PBA殿堂入りの資格を手にする9度目のタイトル獲得という節目に立つこの男は、特別な想いとともにレーンに立っていた。
伝説のレーン、AMFリビエラレーンズの魔力
1966年から続くPBAトーナメント・オブ・チャンピオンズ(TOC)の聖地、AMFリビエラレーンズ。そのレーン27-28番は、数多くの伝説的な瞬間が刻まれてきた舞台である。ドン・ジョンソンの299ゲーム、ジョージ・ブラナム三世が1993年に黒人初のメジャー優勝を果たした歴史的瞬間……。その場所に立つというだけで、選手たちは心の奥底から震える。今回はその魔法のような空間に、ジャコブ・バットゥリフが新たな一頁を刻んだ。
観客席には熱心なファンが詰めかけ、緊張と興奮が入り混じった空気が漂う。レーン上にはスポットライトが鋭く照らされ、選手の一挙手一投足に観客の視線が集中する。解説者も、「この空間はプレッシャーだけでなく、名誉の重みを感じさせる」と語るように、そこに立つだけで“何か”を背負わされるような圧力がある。
ジャコブ・バットゥリフは試合前、静かにボールに集中しながらも、その目には確かな意志が宿っていた。「ここに戻ってこれたことだけでも特別だが、まだ何も終わっていない」。口数は少なかったが、その言葉の重みは、まさに今日の彼の投球が物語っていた。
左利き対決とオイルパターンの読み合い
この日の予選ラウンドでは、珍しく左投げの選手が4人登場するという、PBAツアーでも異例の展開となった。通常、オイルパターンは右投げ優勢に変化していくことが多いため、左投げが複数存在することで、パターンの“読み”に複雑さが増す。だが、そんな中でもバットゥリフは確かなアドバンテージを握っていた。
「左投手を追うときは、彼らより少し内側のラインを使うのが好きなんです。普通の左投手が作れないボールの軌道を描けるので、そこが僕の強み」と彼は語る。その戦略が実際に試合で活かされたのが、キービン・ウィリアムズとの対戦だった。
試合は序盤から圧倒的だった。バットゥリフは第1フレームから第8フレームまで、圧巻の8連続ストライクを記録。一方のウィリアムズも冷静な投球で応戦し、247という高スコアをマークするが、バットゥリフの勢いは止まらなかった。まるでオイルの変化を先読みし、レーンの“声”を聴いているかのように、彼のボールはレーンをなぞるように走り、ピンをなぎ倒した。
観客の中には、歓声を上げながらも信じられないような表情を浮かべる者もいた。「これはもう芸術だ」と解説席からも声が漏れる。278というスコアは、今大会における最高得点であり、それを大一番で叩き出す集中力と精神力は称賛に値する。
予選ステップラダー戦、試練の3試合
準決勝に至るまで、バットゥリフには越えねばならぬ壁があった。予選のステップラダーフォーマットでは、まず第6シードとして登場。対戦相手は、第8シードから勝ち上がってきたマット・サンダースだった。
サンダースは、初戦でパッキー・ハナハンを223-208で撃破し、続くAJ・ジョンソン戦では圧倒的な223-146での勝利。勢いそのままに、バットゥリフとの対戦に挑んできた。特にこの対戦では、サンダースが後半追い上げを見せ、最終フレームでの一投が勝負の分かれ目となる展開に。彼がダブル(2連続ストライク)を決めれば勝利、ストライクと9本スペアで同点という場面で、痛恨の右外し。スコアは234-221、バットゥリフが薄氷を踏むようにして次戦への切符を掴んだ。
その後のウィリアムズ戦では、前述のように一気に覚醒。試合後、ウィリアムズは悔しさを滲ませつつも、「僕も良いゲームをしたが、あれだけのゲームを出されたら仕方ない」と潔く敗北を認めた。
2年前の因縁──マキューンとの再戦へ
そして、明日の決勝ステップラダー第1戦でバットゥリフが相まみえるのが、ケビン・マキューン。奇しくも、2023年PBAプレイヤーズチャンピオンシップ決勝で敗れた相手である。あの試合は、殿堂入り資格に王手をかけていたバットゥリフにとって、人生最大の“逃した魚”だった。
「2年前のことは今でも鮮明に覚えている。あの悔しさが、今日の自分を作った」とバットゥリフ。再びその舞台に立ち、同じ相手と相まみえる構図は、運命としか言いようがない。
マキューンもまた、好調を維持して今大会に挑んでいる。決して容易な相手ではないが、バットゥリフには278という完璧に近いパフォーマンスで得た自信、そして観客と歴史が後押しする“リビエラの魔力”がある。
■ 対戦成績結果
予選マッチ:
マッチ1:マット・サンダース 223 def. パッキー・ハナハン 208
マッチ2:マット・サンダース 223 def. AJ・ジョンソン 146
マッチ3:ジャコブ・バットゥリフ 234 def. マット・サンダース 221
チャンピオンシップ予選:ジャコブ・バットゥリフ 278 def. キービン・ウィリアムズ 247
■ 大会スケジュール
場所: AMFリビエラレーンズ(オハイオ州フェアローン)
日時: 2025年4月20日(日)午後3時(東部標準時)
放送: FOX(全米生中継)
決勝ステップラダーマッチ:
第1試合:ジャコブ・バットゥリフ vs ケビン・マキューン
第2試合:勝者 vs EJ・タケット
第3試合:勝者 vs グレアム・ファック
決勝戦:勝者 vs イェスパー・スヴェンソン
■ 解説とまとめ
バットゥリフは2年前、PBAプレイヤーズチャンピオンシップ決勝でケビン・マキューンに敗れ、殿堂資格に手が届かなかった。その雪辱を果たすべく、明日の第一試合で再びマキューンとの因縁の一戦に挑む。
「今日の勢いをそのまま明日に持ち込みたい。278の試合が自信になっている。あとは、愛するこの競技で、自分の誇りを証明するだけ」と語ったバットゥリフ。その表情には、静かだが確かな闘志が宿っていた。
いよいよ迎える2025年シーズン最終戦、そして最後のメジャー大会決勝。名誉と歴史、そして個人の夢が交差するこの舞台で、果たしてバットゥリフは新たな伝説を刻むのか。全国のファンが固唾を呑んでその瞬間を待っている。