マーク・ベイカーが語る最新ボウリング理論と実戦テクニック
Q&Aセッションより
ベテランコーチのマーク・ベイカーが、人気企画「Questions with the Coach」の最新回で、Redditコミュニティから寄せられた12の質問に丁寧に答えました。ホストはお馴染みのピストル・ピート。今回の内容は、スイングの問題からレーンの攻略法、2ハンドの細かい体の使い方まで、多岐にわたるハイレベルな質問と実践的な回答が盛りだくさんでした。
1. 背の高いボウラーが気づかないうちにスイングが上がりすぎる問題
ボウリングにおいてバックスイングの高さは、リズムやタイミングに大きな影響を与えます。特に身長が高く、関節の可動域が広い(ハイパーモビリティ)のボウラーにとっては、自分では意識していないうちにスイングが必要以上に高くなってしまうという課題があります。これは非常に多くの上級者や体格の良いプレイヤーに共通する悩みです。
◆ なぜスイングが上がりすぎるのか?
マーク・ベイカーによれば、スイングの高さが制御できなくなる原因は、意外にも腕や肩の使い方そのものではなく、「足のリズム」と「スイングのテンポ」が一致していないことにあるといいます。つまり、ステップのスピードが速くなりすぎたり、タイミングがズレることで、腕の動きが早まり、結果としてバックスイングが上がりすぎてしまうのです。
特に5歩助走を取るボウラーの場合、1歩目からスムーズにテンポを保ち、「1・2・3・4・スライド」とリズムよく歩くことが大切です。リズムが崩れると、腕のスイングと足の運びがバラバラになり、タイミングの遅れやズレが発生します。その結果、スイングの頂点が肩の高さを超え、ボールが身体よりも大きく遅れてしまい、ダウンスイングで急激に引っ張る形になってしまうのです。
◆ 正しい改善方法とは?
ベイカーが推奨する改善方法は以下の通りです:
アプローチのテンポを整えること
足のステップリズムとスイングのリズムを常に一致させる。
特に最初の2歩を「高い姿勢でゆっくり」と始めることで、腕のスイングが暴走しにくくなります。
“背筋を伸ばす”ことの重要性
背の高いプレイヤーほど、構えの時点で前傾しすぎると、スイングが自然に高くなりやすくなります。
始動時には上体をまっすぐに保ち、リラックスした状態でスイングを開始することが大切です。
グリップやフィンガーサポートの調整
地元のプロショップ(PSO)でグリップを短くすることで、指にかかる負荷を軽減するのも一つの対策です。
これはスイングの“引っかかり”を防ぎ、過度な力みを抑える効果があります。
◆ スイングとタイミングの関係性
スイングが高くなることで、ボールが後ろで遅れた位置にあり、同時にスライドステップが進んでいると、「レイトタイミング(遅れたタイミング)」が発生します。これにより、ダウンスイングでボールを無理に引っ張ってリリースしなければならなくなり、結果として精度が落ち、ボールの軌道も安定しません。
一方で、足とスイングのリズムが一致していれば、ボールは自然に前に出てきて、腕の力に頼らずスムーズにリリースすることができます。リズムを整えるだけで、スイングの高さやリリースの感覚、さらにはボールの軌道までが劇的に改善されることも少なくありません。
◆ 練習メニューの提案
この問題に悩む方には、次のような練習方法がおすすめです:
「1・2・3・4・スライド」のリズムを口に出しながら助走練習
ミラートレーニングや動画撮影でスイングの高さをチェック
意図的に肩の高さでスイングを止める練習(スイングコントロール)
スローモーションでのアプローチ練習でリズム感の養成
このように、スイングの高さという一見「フォームの問題」に見えるテーマでも、実は身体全体のリズムや使い方が深く関係しているのです。特に高身長のボウラーはその体格を生かしつつ、リズムとテンポを意識していくことで、自然でパワフルかつ正確なスイングを身につけることができます。
2. クロスオーバーステップの誤解と現代的アプローチ
「クロスオーバーステップ」と聞いて、どのステップを指しているか、すぐに明確に言えますか?
多くのボウラーがこのステップを「二歩目」と思い込んでいる一方で、実際のトッププロの多くはまったく違うステップ構成でボールにアプローチしています。今回のQ&Aでマーク・ベイカーが語ったこのクロスオーバーステップに関する解説は、まさに“現代ボウリング”を理解する上で欠かせないポイントです。
◆ クロスオーバーステップとは何か?そもそもの誤解
一般的には、クロスオーバーステップとは「利き足と反対の足が内側にクロスするように踏み込むステップ」のことを指します。右利きのボウラーなら、左足が右足の前を横切るように出る動きです。この動きはスイングのスペースを確保し、ボールが身体の真下を通過できるようにするという目的で多くのコーチが指導してきました。
しかし、ベイカーはここに一石を投じます。「多くのエリートボウラーは、“完全なクロスオーバー”をしていない」と。
たとえば、EJタケットやアンソニー・サイモンセン、ビル・オニールなどの現役トッププロを見てみると、2歩目は身体の下にまっすぐ出し、3歩目で軽くクロスする程度。これがベイカーが提唱する「現代的クロスオーバー」の本質です。
◆ なぜ“2歩目のクロスオーバー”をやめたのか?
ベイカーによると、昔ながらの「2歩目を大きくクロスさせるスタイル」は、下記のような問題を引き起こす可能性があります:
スイング軌道の妨げになる
早い段階で身体を横切るステップを取ってしまうと、後続のピボットステップ(踏み込み足)が入りづらくなり、腕のスイング軌道に身体の一部が干渉してしまいます。
体の安定性が崩れる
クロスが大きすぎると上体が左右に揺れやすくなり、特にバックスイングの頂点で体がブレやすくなります。
リズムとタイミングのズレを生む
2歩目でリズムを崩すと、3歩目以降の足運びやスイングが不安定になりやすく、タイミングがバラつく原因となります。
そのためベイカーは、「2歩目はむしろ“身体の真下”に出すことで肩を安定させ、スイングをスムーズに後ろへ流す」のが理想だと述べています。そして「3歩目こそが本当のクロスオーバーステップであるべき」と強調しています。
◆ ベイカー流・ステップ構成の基本
マーク・ベイカーが推奨するステップ構成は以下の通り(右利きの場合):
1歩目:リズムを作る準備
リラックスして自然に始めるステップ。リズム感がこの一歩から生まれる。
2歩目:身体の真下に出す(まっすぐ)
上体の軸を安定させ、肩の位置を固定。ここでバランスを取り、腕が自然にスイングできるスペースを作る。
3歩目:軽いクロス(本来のクロスオーバー)
左足を少し右寄りに出し、スイングの通り道を作る。このとき、踏み込んだ足がスイングを邪魔しないように。
4歩目:ピボットステップ(回転の起点)
体重移動と回転を同時に行う。ここでボールのリリース準備に入る。
5歩目:スライド&リリース
前傾を保ちつつ、滑らかにフィニッシュへ。
このステップ構成により、スイングが肩や胴体にぶつかることなく、自然と下を通り、安定した投球につながるのです。
◆ 実践的な練習方法
このフォームを身につけるためには、次のようなドリルを取り入れてみましょう:
2歩目だけを意識したスローアプローチ練習
ゆっくりしたリズムで、2歩目を身体の中心にまっすぐ出す感覚を確認。
3歩目の位置をマーカーで確認する練習
軽くクロスする動きがどの位置にあるかを視覚的に把握。
鏡や動画を使ってステップのブレをチェック
特に上体の揺れやスイングの軌道が脚にぶつかっていないかを確認。
◆ クロスオーバーの常識をアップデートしよう
かつては「大きくクロスするのが正しい」とされていたステップですが、現代のプロたちは、もっと効率的で安定したスタイルを確立しています。マーク・ベイカーの提唱する「第3歩のクロス」と「第2歩の安定」は、まさに現代ボウリングの本質。すべてのボウラーが、自分の体格とスイングに合ったステップバランスを見つけることが、スコアアップへの近道です。
3. トーナメントでのレーンブレイク戦略:自分に有利な状況を作り出すための考え方と実践法
トーナメントボウリングは、通常のリーグ戦やフリー投球とはまったく異なる「戦略性」が求められる舞台です。特に、一ゲームごとにレーンが変わる形式(移動制)では、レーンの状況が安定しないうえ、対戦相手の投球によってもコンディションが大きく変化します。
このような環境の中で、どのようにして自分にとってベストな状況を作り出し、スコアを最大化するのか。マーク・ベイカーのアドバイスは、単なる技術的アプローチではなく、「勝つためのマインドセット」にも深く関わっています。
◆ 「他人のためにレーンを壊さない」は幻想?
多くのボウラーが、「次の人のためにレーンを壊しすぎないように」と考えがちです。これは一見スポーツマンシップのように見えますが、ベイカーはこの考え方を真っ向から否定します。
「エントリーフィーには“後ろの人のためにレーンを整える義務”なんて書いてないよ」
これは、非常に実践的かつプロフェッショナルな視点です。トーナメントでは“自分の一投がすべて”。他の人がどうなろうと関係なく、自分がそのレーンで最大限のピンを倒すことが最優先になります。
◆ レーンブレイクダウンとは?
「レーンを壊す(Breakdown)」とは、同じラインを投げ続けたり、特定のゾーンにオイルを飛ばすことで、その部分のオイルパターンを意図的に変化させることを指します。これにより、自分にとって有利なボールリアクションを作り出すことが可能になります。
たとえば:
オイルのある外側を使って“ホールド(滑りすぎ防止)”を作る
逆に内側を荒らして“バックエンドの強い曲がり”を引き出す
自分の得意なラインを他のボウラーに読ませないようにカモフラージュする
ベイカーは「他人のためにレーンを気遣う必要はない、自分のスコアを最大化しろ」と明確に述べています。
◆ ペア移動がある大会では、レーンブレイクの意味があるのか?
「1ゲームごとにペアを移動するなら、わざわざレーンを壊す意味があるのか?」という疑問も当然出てきます。これに対してベイカーはこう答えます:
「次のペアに何があるかなんて分からないんだから、今のペアで最大限の点数を取るのが唯一の目的」
つまり、“その1ゲームでできる限りの環境を整えて、最良の結果を出す”ことが、トーナメントで安定した成績を出すための絶対条件ということです。
たとえ次のレーンがまったく違う条件であっても、そこでまた調整すれば良いのです。その都度、自分のプレーを最適化していく力こそが、トーナメントプレーヤーに求められる資質です。
◆ 初見のレーンにすぐ対応するには?
大会では「初めて投げるペア」に直面することがほとんどです。そんなときに使えるベイカー流のポイントは以下の通り:
前のゲームの感覚をベースに“似たライン”から入る
前のペアでうまくいっていたラインやボールからスタートし、そこから微調整。
最初の2球で“ベストなショット”を打つ
慣れていないからといって手加減せず、全力の投球でレーンの反応を見極める。
相手ボウラーのプレーを観察する
同じレーンの他の選手がどのようなラインやボールを使っているかを参考にする。
事前の“先入観”を持たないこと
「昨日このレーンはこうだった」「この会場はこういう傾向」といった思い込みを排除し、その場その場でレーンを読む。
「ボールを信じろ。ボールが語る情報こそがすべてだ」
ベイカーのこの言葉が象徴するように、自分のボールリアクションに忠実に対応し、過去の感覚にとらわれない姿勢が最も重要です。
◆ 練習ドリル:即応力を高めるトレーニング
“1ゲーム限定”シミュレーション練習
各レーンを1ゲームだけ投げて、ペア移動を繰り返す練習。即座にラインを探る能力が鍛えられます。
“観察力”トレーニング
他のボウラーの軌道・ボール・リアクションを観察し、自分の選択肢と比較分析する力を養う。
“ライン予測→即修正”ドリル
初球で意図的に違うラインを投げ、その反応を見て次の投球で最適なラインを狙う反復練習。
◆ トーナメントは「その瞬間の最適化」の連続
トーナメントにおいてレーンブレイク戦略とは、「自分のスコアを最大化するための自己最適化プロセス」であり、他人との“協調”や“譲り合い”ではありません。マーク・ベイカーはそれを明確に示し、どのような環境でも「自分の感覚」と「ボールの情報」に基づいて判断・行動する力こそが、トーナメントプレーヤーに必要だと強調しています。
4. プラスチックボール使用時のベイカーボックスの調整:低反応ボールでスコアを出すためのライン戦略
現代のボウリングは、高性能なリアクティブレジンボールが主流となっており、プレイヤーはボールの強いコアとカバー素材によるリアクションを前提にラインを組み立てています。しかし、プラスチックボール(代表例:BrunswickのT-Zoneシリーズ)の使用が必要になる場面も少なくありません。
たとえば、
スペア用としての使用
レーンが極端に乾いているときの対応
特定のオイルパターンや練習用途 など、使用シーンは決して少なくなく、特に試合の中で正確なスペアメイクを求められるときには欠かせない道具です。
では、こうした“ほとんど曲がらない”プラスチックボールを使うとき、ラインはどう変わるのでしょうか?
ここで登場するのが、「ベイカーボックス」という概念の調整です。
◆ ベイカーボックスとは?
「ベイカーボックス」とは、マーク・ベイカーが提唱するレーン上の理想的なターゲットゾーンのこと。通常、右投げのボウラーがリアクティブボールを使う場合、レーンの「5〜8番エリア(板目)」あたりにボールを通すことが多く、これがボールのリアクション(曲がり始めるポイント)とピンアクションを最適化するゾーンになります。
◆ プラスチックボールでは“ベイカーボックス”をどう変えるべきか?
プラスチックボールはカバーストックに摩擦がほとんどなく、コアも非対称・対称の複雑な構造を持たないため、曲がりにくく、リアクションが弱いという特性があります。つまり、通常のベイカーボックス(5〜8番)に通しても、ボールが十分に動かずポケットに入らないケースが多くなります。
そこで、ベイカーは以下のような調整を提案しています:
ターゲットゾーンを2〜3枚“内側”に移動させる
通常の5〜8番ゾーン → 7〜10番ゾーン
ボールの入射角を浅めに設定
あくまで“直線的にポケットを狙う”意識でラインを組み立てる
この調整により、ボールはより直線的にポケットに向かい、曲がらない分を「正確なコントロール」でカバーする形になります。
◆ 昔のプロツアーと“今”の比較
マーク・ベイカー自身がプロツアーに出ていた1980年代、使用されていたのはまさにこのような“リアクションのない”プラスチックボール(例:イエロードット)。当時のプロたちは、8〜11番のゾーンを使って、回転量ではなく投球角度とスピードのバランスでスコアを作っていました。
現代ボウラーはこのような戦術に不慣れなことが多いため、プラスチックボールを持つと「曲がらないから投げにくい」と感じがちですが、実はそれを「いかに直線でポケットに通すか」という精密なコントロールの練習として活用すれば、大きなスキルアップにつながるのです。
◆ スペアメイクでの応用:左サイドの狙い方
特に左側のスペア(例:7番ピン、4-7スプリットなど)を狙う際、リアクティブボールを使うと「想定よりも曲がってしまう」「抜けてしまう」といったリスクが高くなります。そこで、一切曲がらないプラスチックボールを使うことで、狙った場所にそのまま向かわせるという戦略が活きてきます。
このときも、通常のスペアラインとは若干異なる「広めの角度」を取ることが重要で、実質的に“7〜11番板目”のベイカーボックスに近い軌道を通す意識が求められます。
◆ 練習メニュー:プラスチックボールでの精度向上
以下のような練習ドリルが効果的です:
「ベイカーボックス確認ドリル」
レーン中央(7〜10板目)を通すようにコーンやマーカーで視覚的に確認しながら投げる。
「左右両サイドのスペア練習」
プラスチックボールを使って、7番・10番などのピンを1本で取る精度を徹底的に鍛える。
「1ゲームすべてプラスチックボールで投げる」
カバーではなくメインの1stボールとして使用し、直線的なラインでポケットを狙う訓練。
◆ プラスチックボールは“制限”ではなく“精密の武器”
プラスチックボールは「使いにくい」「曲がらない」と敬遠されがちですが、それは逆に言えば「最もシンプルで読みやすいボール」でもあります。ベイカーのベイカーボックス理論を応用すれば、どんなボールでも自分の意思でラインを作ることができるようになります。
特に「精度」「角度感」「コントロール力」を鍛えたい中級者・上級者にとっては、プラスチックボールを使いこなすことが次のレベルへのステップになるでしょう。
5. ピート・ウェーバーのような自由なスイングの秘訣:リズム・バランス・自然な流れを極める
ボウリング界のレジェンド、ピート・ウェーバー(Pete Weber)。その名前を聞いただけで、彼の独特なフォームと、極めて滑らかで自然なスイングを思い浮かべる方も多いでしょう。力みのないスイングでピンを弾き飛ばす彼のスタイルは、多くのボウラーにとって憧れの対象です。
では、彼のような「自由でしなやかなスイング」は、どうすれば習得できるのでしょうか?マーク・ベイカーはその本質を、“リズム”と“フットワーク”にあると語ります。
◆ スイングは「引っ張る」のではなく「流れるもの」
多くのアマチュアボウラーがやりがちなミスの一つが、「スイングを自分でコントロールしようとしすぎる」ことです。つまり、意識的にボールを持ち上げたり、腕で引っ張ったりしてしまうのです。これにより、スイングは不自然になり、タイミングもズレやすく、力も入りすぎてしまいます。
一方で、ピート・ウェーバーのスイングは「力を抜いているのに力強い」という矛盾したような印象を与えます。ベイカーはその理由をこう説明します:
「ピートのスイングが自由に見えるのは、彼の足運びとスイングの“速度”が常に一致しているから」
◆ ピート・ウェーバーのフットワークの秘密
ピート・ウェーバーは6歩助走を採用しています。特に注目すべきなのは、最初の3歩で“上体の安定”を作っているという点です。
1〜3歩目:スイング準備ゾーン
背筋を伸ばし、リズムを作る
ボールを前に押し出すプッシュアウェイとスイング始動が自然にリンクする
4〜6歩目:スイングと体の連動
スイングが後ろに流れている間に、身体は前に移動
スライドと同時にスイングが前に戻ってきて、完璧なタイミングでリリースされる
ベイカーは、「足のリズムとスイングのリズムが一致しているとき、ボールは勝手にスイングしてくれる」と言います。つまり、腕で“振る”のではなく、“歩くことでスイングを生む”という考え方が大切なのです。
◆ 「高さ」は結果、コントロールは「リズム」で
多くのボウラーが「ピートのようにスイングを高くしたい」と考えますが、ベイカーはここにも警鐘を鳴らします。
「スイングの高さは“意識して作るもの”ではなく、足と体の流れに乗った結果として自然に生まれるもの」
ピートのような大きなバックスイングは、上体を崩すことなくスムーズにスイングが後ろに流れているからこそ実現できているのです。逆に、腕や肩に力が入ってしまうと、スイングは途中で引っかかり、軌道も乱れ、リリースが遅れてしまいます。
◆ リズムを整える練習法
このような自由なスイングを身につけるには、「体と足と腕の“協調”」を意識する練習が必要です。以下のような練習法が効果的です。
“スイングに歩みを合わせる”ステップ練習
ボールを持たずに助走だけを繰り返し、スイングを想像しながら足のリズムを確認。
「1・2・3・4・5・スライド」のリズムを声に出すと、体に覚えさせやすい。
“プッシュアウェイと最初のステップの連動”練習
ボールを前に出す動きと1歩目が同時になるように。
プッシュアウェイが遅れるとスイングが高くなりすぎてしまう。
動画撮影でスイングの流れと足の一致をチェック
自分のスイングとステップのテンポがズレていないか、スローモーションで分析。
◆ 目指すのは「無意識で振れている」状態
ピート・ウェーバーのスイングは、彼が意識して腕を動かしているものではありません。ベイカーはその状態をこう表現します:
「スイングを意識していないからこそ、あれほどスムーズに振れる」
つまり、最終的に目指すべきなのは、「スイングを意識しなくても、自然に理想の軌道が描ける状態」。そのためには、リズム・バランス・脱力という基本に立ち返り、全身の調和を目指すことが重要です。
◆ 自由なスイングは「歩き方」が作る
ピート・ウェーバーのようなスイングを実現したいなら、「どう振るか」ではなく、「どう歩くか」を意識するべきです。リズムの良いフットワーク、安定した上体、無理のないスイングの流れ——これらが揃って初めて、「自由でパワフル、かつ美しいスイング」が可能になります。
ピートのようなスイングは、一朝一夕では身につきませんが、「身体の自然な動き」を信じて練習を積むことで、必ず近づくことができます。
6. 2ハンドの軸回転を安定させるには:回転を“かける”のではなく“引き出す”技術とタイミングの極意
2ハンドボウリングは、従来の1ハンドスタイルとはまったく異なるメカニズムで成り立っています。最大の違いは、サムホールを使わないことで生まれる高回転と強いボールリアクション。一方で、この「回転の大きさ」をうまくコントロールできず、軸回転が安定しないという悩みを抱えるプレイヤーも非常に多いです。
特に問題となるのは以下のようなケース:
「真後ろから押し出すような直線的な回転」と、「大きく巻きつけるような横回転」のどちらかしかできない
中間的な回転軸が再現できず、ボールが滑ったり、曲がりすぎたりしてしまう
狙ったラインが安定せず、特にオイルが不均一な状況で苦戦する
これに対して、マーク・ベイカーは「回転は意識して“かける”のではなく、“正しいタイミング”の中で自然に“出る”もの」であると強調しています。
◆ 軸回転の安定性は「手の動き」ではなく「タイミング」で決まる
まず最初に理解しておくべきは、2ハンドにおいて「回転をかける手の動き」が主役ではないということです。
2ハンドプレイヤーが軸回転をコントロールできない原因の多くは、回転のタイミングが早すぎる、または遅すぎることにあります。タイミングがズレると、力の入れ方や回転の加え方が不自然になり、結果として再現性が失われてしまいます。
「回転の質は、“どのタイミングで、どの位置で、どの角度で”手首と前腕が動くかによって決まる」
これは、ベイカーが数多くの2ハンドプロ選手(サイモンセン、ベルモンテ、パッキーなど)の映像を分析したうえで導き出した共通点です。
◆ 2ハンドの「回転ゾーン」と“Belmoロゴ”理論
マーク・ベイカーは自身の指導動画『The Game Has Changed』の中で、2ハンドにおける「タイミングゾーン」の考え方を詳しく解説しています。その中でも特に象徴的なのが、「Belmoロゴ(ベルモンテのユニフォーム胸部あたり)を通過する瞬間」を基準とする考え方です。
この瞬間とは、
スライド足が地面にしっかり着地した瞬間
上体がやや前傾になり、手首がボールの下に入り始めるポイント
このときに、回転を加えるのではなく「手が自然と前に出ていく動作の中で、前腕がスムーズにターゲット方向に抜ける」ように意識することで、必要な軸回転が無理なく自然に発生します。
◆ 回転をかけすぎる=肩で引っ張っている証拠
軸回転のブレが激しいボウラーの多くは、「もっと曲げたい」「もっと回したい」という意識から、腕や肩に過度な力を入れてしまっています。しかし、これこそが最も危険な落とし穴です。
肩でボールを引っ張ると、ブレストプレート(胸の中心線)がターゲットから逸れる
結果として、リリース時に体がねじれ、回転の方向や量が安定しない
加えて、スイング方向もズレやすくなり、抜けや引っかけの原因になる
サイモンセンやビーマンのフォームを見ればわかる通り、彼らは手首の動きが非常に小さいのに、ボールは驚くほど回転します。これは、「身体全体が理想のタイミングで動いているから」こそ可能な動きなのです。
◆ 安定した軸回転を身につける練習法
軸回転を安定させるには、まず「肩ではなく、下半身とタイミングで投げる」感覚を体に染み込ませる必要があります。そのための実践的な練習法を紹介します。
1. タイミングスポット・ドリル
スライド足が着地する瞬間を意識し、そのときに手が自然に下に降りてくる動きを確認。
回転をかけにいくのではなく、「前腕が目標方向に向かって伸びていく」イメージを持つ。
2. “直線投球”の反復練習
ボールを意図的に“回さず”に投げ、軸をまっすぐ維持する練習。
そこから少しずつ自然な回転を加えて、意識的ではなく、結果としての回転を体感する。
3. “引っ張り禁止”ドリル
肩の力を完全に抜いて投げる練習。
上体を前傾させすぎず、胸の向き(ブレストプレート)をターゲット方向に固定する意識で行う。
◆ 軸回転を「手でかける」意識から脱却しよう
マーク・ベイカーの考え方は一貫しています。軸回転は“技術”ではなく“タイミングの副産物”であるということ。つまり、軸回転を安定させるために必要なのは、
手首の動かし方でも
手のひねり方でもなく
正しい姿勢、フットワーク、そして体の流れの中にあるタイミング
です。
◆ 2ハンドにおける軸回転の鍵は“タイミングと構造”にある
2ハンドスタイルは、一見するとダイナミックでパワー重視に見えますが、実は非常に繊細なタイミングと身体のバランスが求められるスタイルです。軸回転の安定は、その繊細さを制御できるかどうかにかかっています。
手首を“操作”するのではなく、体の中で“自然に起きる”回転を信じて引き出す。それが、安定した、そして再現性のある回転を実現するための唯一の道です。
7. ファウルラインから離れてフィニッシュしてもOK?―“距離”より大切な「着地点」と「軌道」の関係性
「ファウルラインに届かないとダメなんじゃないか?」
これは多くのボウラーが持つ“常識”の一つかもしれません。しかし、マーク・ベイカーの見解は明確です――「ファウルラインに届いているかどうか自体は、それほど重要ではない」というのです。
一見すると大胆に聞こえるこの発言の裏には、実戦で数多くのプロ選手を指導し、分析してきたベイカーならではの深い理論が隠されています。
◆ 問題は「どこで投げているか」ではなく「どこにボールが落ちているか」
ベイカーが何よりも重視しているのは、「ボールがファウルラインを越えた後、どの位置に着地しているか」という点です。
ボウラーの体がファウルラインから1フィート(約30cm)程度後ろでフィニッシュしていたとしても、ボールが正しい位置に落ちているのであれば、それはまったく問題ありません。
逆に、
フィニッシュ位置がファウルラインに近くても、
ボールがアプローチ上に落ちたり(ファウルの手前)、
極端に早く落ちすぎていたりすると、
それはフォーム上の問題として修正が必要になります。
◆ 実際のプロはどうしている?
ベイカーが実際に指導してきたプロボウラーの中でも、デイブ・ヒューストン(Dave Husted)はその典型例です。
「ヒューストンは、常にファウルラインの2〜3フィート手前でフィニッシュしていた。でも、ボールは完璧な位置に落ちていた。何も問題はなかった」
つまり、体の位置が手前でも、投球全体の構造がしっかりしていれば、それはむしろ“個性”の範疇なのです。
このようなスタイルは、特に膝を深く曲げず、自然な前傾とリリースで“球持ち”を安定させたいプレイヤーにとって、非常に有効な選択肢になり得ます。
◆ 着地位置と“LOF(ロフト)”の関係
ここで注目すべきなのが、「LOF=ロフト(ボールを浮かせて前方に投げる感覚)」の概念です。
フィニッシュ位置がファウルラインから離れていても、
ボールが2〜3フィート前方に着地し、
スムーズな弧を描いてレーンに乗っていれば、
それは理想的なロフトとされます。ボールはより前方からオイルゾーンに入るため、転がりがスムーズになり、軌道も安定します。
反対に、ロフトが短すぎてボールがすぐに床に「落ちてしまう」と、回転が乱れたり、オイルパターンの早い吸収によって予期しない曲がりが発生することもあります。
◆ “ファウルライン至上主義”の落とし穴
とにかくファウルラインに近づこうとすると、以下のようなリスクが生じます:
過度な前傾姿勢になりやすい
膝を無理に深く曲げすぎてタイミングが狂う
スライドを過剰に伸ばしてバランスが崩れる
これらはフォームの再現性を損なう原因となり、特にプレッシャーのかかる場面やレーンコンディションの変化時に、精度を落としてしまいます。
◆ 修正が必要なケースとは?
もちろん、すべての「ファウルラインからの距離」がOKというわけではありません。次のような場合はフォームの見直しが必要です。
ボールがファウルラインの手前に落ちてしまう
リリースタイミングが早すぎるか、膝の屈伸が不十分
ボールがアプローチに落ちている(ファウル)
ロフト不足、前傾しすぎ、手離れが遅いなどが原因
毎回、着地点が異なりすぎる
力加減のムラ、スライドのばらつき、精神的な焦りが影響している可能性大
◆ 改善のための実践ドリル
安定したフィニッシュとボールの着地位置を身につけるために、以下のドリルが効果的です:
1. “着地点チェック”ドリル
テープや目印を使って、ボールが着地するゾーンを記録・可視化
常に同じ位置に落とす意識を強化
2. “スライド位置記録”練習
スライド足のフィニッシュ位置を確認・記録し、変動があるかチェック
アプローチの歩幅やリズムが安定しているかも同時に確認
3. “ロフト感覚”トレーニング
意図的に「やや遠め」にボールを落とす感覚を練習し、理想の落下地点を掴む
レーン手前3フィートにソフトマットを置き、そこに落とす練習なども効果的
◆ 「フォームは距離ではなく機能で見る」
「ファウルラインに届いていないからおかしいのでは?」という疑問に対して、マーク・ベイカーは明確に答えています。重要なのは、体の位置ではなく、ボールの位置と動き。
どんなに前でフィニッシュしていても、ボールが暴れていたり、着地位置が不安定なら修正は必要です。逆に、体が多少後ろでも、軌道・タイミング・着地点が安定していれば、それは一つの“正解”なのです。
ぜひ「ラインに届くか」よりも、「正しい場所に落とせているか」に目を向けてみてください。それがスコア安定への大きな一歩になります。
8. “キューイング”の感覚は意識すべき?―リリースにおける感覚と再現性の本質
ボウリングのリリースにおいて、「キューイング(cuing)」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。これは、リリース時に特定の筋肉や部位に意識を向け、感覚的に“回転やリフトを加える”動作をコントロールすることを意味します。
しかし、マーク・ベイカーはこの「キューイング」に対して慎重な立場を取っています。
「キューイングを意識しすぎると、かえってスイングやタイミングが崩れてしまう可能性がある」
それはなぜなのでしょうか?このセクションでは、リリース時の“感覚”に対する誤解と、その先にある本質的な再現性の確立方法について詳しく解説します。
◆ キューイングとは何を指すのか?
キューイングは、以下のような言葉で説明されることがあります:
「リリース時に親指の付け根に圧力を感じる」
「手首に力をためて、回転を“かける”感覚」
「ボールを“押し出す”ようなフィーリング」
「手のひらでボールを“乗せて”リリースする感じ」
これらはすべて“感覚的な説明”であり、プレイヤー自身のフィーリングに基づく非常に個人的な表現です。つまり、誰にでも当てはまる「正解」ではないという点に注意が必要です。
◆ キューイングに依存するリスク
マーク・ベイカーが「キューイングに頼りすぎるな」と警告する最大の理由は、再現性(Consistency)を損なうリスクが高まるからです。
たとえば:
「今日は手のひらに乗ってる感じがする」
「昨日は親指で引っかけてたけど、今日は感覚が違う」
このように、感覚は日によって変動しやすく、気温・湿度・体調・ボールの種類などの影響を受けやすいのです。
そのため、感覚的なキューイングに頼ったフォームは、日々のブレが大きくなり、安定したスコアを出し続けることが難しくなります。
◆ ベイカー式:リリースは「感じる」よりも「構造で作る」
ベイカーの指導方針は明確です。リリースの感覚を追い求めるのではなく、リリースに至るまでの「フォームの構造」や「タイミング」を整えることによって、自然なリリースを“結果として”生み出す。
「僕はボールを“巻き付けよう”としたことはない。ただ、肘を少し曲げて腕を下ろせば、自然と手首が折れて、回転が加わった」
ベイカーはかつてツアーに出ていた際、自分のリリースについて“感覚的な意識”はほとんど持っていなかったといいます。大切なのは、
プッシュアウェイからスイングへの連動
スライドのタイミング
スイングが体の下を自然に通過する軌道
肘と肩の使い方
こうしたフォーム全体の流れが整えば、回転もロフトも自然とついてくる、という考え方です。
◆ 唯一の例外:リリースの「誤解を修正する」ための一時的なキューイング
もちろん、まったく感覚を無視していいわけではありません。特に初心者や、リリースで大きなミスが頻発しているボウラーに対しては、一時的に「この部分を意識してみて」というキューを与えることがあります。
たとえば:
「親指を先に抜くイメージで」
「手首が外に逃げないように」
「前腕をターゲットに向けて伸ばして」
こうしたキューイングは、「正しい感覚への導入」としては有効です。ただし、最終的には“意識せずにできる”状態に移行することが目標です。
◆ キューイングの代わりに取り入れるべき練習方法
感覚に頼る代わりに、構造やタイミングを整えるためのドリルをご紹介します。
1. 肘のリリースドリル
スイングの最下点で肘を軽くたたみ、手首を無理に使わず回転を生む。
リリース後、腕がターゲット方向に自然と伸びていくか確認。
2. “構造的ローテーション”練習
手首を意図的に回すのではなく、腕全体の振り抜きでボールが回るかを確認。
回転が“勝手についてくる”感覚を養う。
3. “リリース観察”動画練習
スローモーションで自分のリリースを撮影し、手首・肘・肩の動きの連携をチェック。
◆ リリースの“感覚”よりも“流れ”を信じる
キューイングは悪いことではありません。しかし、それは「手段」であって「目的」ではないのです。再現性のあるリリースを手に入れるためには、感覚に頼らず、構造・リズム・タイミングの中で自然に生まれる回転とスピードを育てていくことが何より重要です。
リリースで迷ったときは、“何を感じたか”ではなく、“どんな流れでそこに至ったか”を見直すこと。それが、安定した投球とスコアアップへの近道になるでしょう。
9. 2ハンドの後ろ足は高く上げてもOK?―フォームの美しさよりも安定性を重視した身体の使い方とは
2ハンドスタイルのフォームにはさまざまな個性があります。その中でも特に目を引くのが、リリース後の「後ろ足(トレイルレッグ)」の動きです。
高く蹴り上げるスタイル
地面すれすれを滑らせるスタイル
ほとんど足を上げずにフィニッシュするスタイル
このように多様性のある動きに対して、多くのボウラーが疑問を抱きます:
「後ろ足って高く上げていいの? それとも地面についていた方が安定するの?」
この問いに対して、マーク・ベイカーは「高さそのものは問題ではない。重要なのは“膝の位置”と“上体の安定性”だ」と明快に答えています。
◆ 後ろ足の高さは自由、ただし“膝の位置”は厳守
ベイカーの理論では、2ハンドスタイルにおける後ろ足の高さはプレイヤーの自然なフォームの一部であり、無理に低く抑える必要はないとしています。
特に以下のようなトッププロを例に挙げています:
アンソニー・サイモンセン(Anthony Simonsen)
ビーマン(Chris Via)
パッキー・ハンラ(Paky Hanrahan)
これらの選手は、いずれも後ろ足が高く上がっているフォームでありながら、驚異的なバランスと安定性を維持しています。では、なぜそれが可能なのでしょうか?
その秘密は、“前足よりも後ろ膝が高くならない”という点にあります。
◆ なぜ“膝の高さ”が重要なのか?
リリース時に後ろ膝が前膝より高くなると、以下のようなフォームの崩れが生じます:
上半身が前方に突っ込みすぎる
肩が前に出て、リリース時に手が回り込むようになる
ターゲットラインを横切ってしまい、抜けや引っ掛けの原因になる
バランスを崩し、フィニッシュが不安定になる
つまり、後ろ足が高くなること自体は問題ではありませんが、“膝の位置関係”を守ることが、正確なリリースと安定した投球につながるのです。
ベイカーはこれを「バランスのベース」と呼び、フォームの美しさよりも、機能的な安定性を優先するという立場を取っています。
◆ “地面すれすれ”にこだわる必要はあるか?
一部のボウリングコーチや伝統的なフォーム指導では、「後ろ足は低く、地面をなめるようにすべらせるべき」と教える場合があります。これは、1ハンドスタイルにおいては非常に理にかなった考え方であり、重心の低さとバランスの安定に直結します。
しかし、2ハンドスタイルでは次のような違いが生まれます:
両手でのスイングにより、体幹のねじれが小さくなる
リリースの瞬間に“上半身が自由になる空間”が必要
よりダイナミックな動きの中で、フォームをコントロールする力が求められる
このような背景から、後ろ足を“高く跳ねるように使う”選手も多く、それは決して間違いではないのです。
◆ 高く蹴る vs 低くキープ:メリットとデメリットの比較
スタイル | メリット | デメリット |
---|---|---|
高く蹴り上げる | 回転やスピードの解放がしやすく、ダイナミックなフォーム | バランスを崩しやすく、フォームが崩れる可能性あり |
低くキープする | 安定したフィニッシュと一貫性の高いリリース | スイングが窮屈になりすぎると、回転が弱くなる可能性 |
プレイヤーの体格、柔軟性、フォームスタイルによって、どちらが適しているかは異なります。重要なのは、どちらを選んでも「上半身の安定と軸の維持」ができているかどうかです。
◆ ベイカー流「後ろ足安定チェックポイント」
マーク・ベイカーは、後ろ足の動きに関して次の3つのチェックポイントを設けています:
リリース時に背中が折れていないか?
後ろ足が高くても、背中が前に折れてしまうと安定性を失う。
後ろ膝が前膝より上にきていないか?
バランスの崩れと回転のブレにつながる。
リリース後に上体がスムーズに止まっているか?
フィニッシュでピタッと止まれるかが、全体のフォームの完成度を示す。
◆ 実践的なトレーニング方法
後ろ足の使い方を見直し、安定したフォームを身につけるための練習方法をご紹介します。
1. スローモーション投球練習
通常の投球を3/4のスピードで行い、リリースからフィニッシュの姿勢を丁寧に確認。
高く蹴ったとき、体幹がぶれないかをチェック。
2. フィニッシュバランス保持ドリル
リリース後にその姿勢で3秒間静止。バランスが取れているか確認。
鏡やスマホで動画撮影して、膝の高さと肩の角度をチェック。
3. フォーム比較動画分析
サイモンセンやビーマンなど、トップ選手の後ろ足の動きをスローモーションで観察。
自分のフォームと比較して「どこが違うか」を可視化。
◆ 「後ろ足の高さ」よりも「身体全体の連動性」が鍵
2ハンドスタイルにおいて、後ろ足の高さは見た目以上に自由度の高い要素です。ベイカーが強調するのは、「足が高くても、全体が崩れないならOK」という考え方。つまり、部分的な動きにとらわれるのではなく、フォーム全体としての“機能性”を優先すべきなのです。
理想は、自分の体型とプレースタイルに合った後ろ足の使い方を見つけ、その中で最高のバランスとリリース精度を実現すること。美しいフィニッシュは結果であって、目的ではありません。
10. 膝の曲げ方:深く曲げる vs 軽く曲げる―現代ボウリングにおける「膝の使い方」の最適解とは?
ボウリングにおいて、リリース時の「膝の曲げ具合」はフォームの安定性、リリース角度、バランス、さらにはボールリアクションにまで影響を与える重要な要素です。特に2ハンドボウラーにとっては、回転量やロフト量、身体の上下動をコントロールする上で、膝の使い方がスコアに直結するケースも少なくありません。
しかし、よくある疑問がこうです:
「膝は深く曲げた方がいいの? それとも軽く曲げるだけでいい?」
この問いに対して、マーク・ベイカーの答えはとても明快で実用的です。
「僕は“膝フレックス”の信奉者であって、“膝を深く曲げること”の信者ではない」
この発言は、現代ボウリングの進化と、ボール性能の変化を理解した上での非常に理にかなった指導哲学に基づいています。
◆ まずは“時代の違い”を理解しよう
1970年代〜80年代に主流だった膝の深い屈伸スタイルは、当時のボールが「低反応・低回転」だったことと密接に関係しています。
昔のボール:中空のプラスチック・ウレタン素材。コアも小さく、回転がかかりにくかった。
そのため:膝を深く曲げ、できるだけ低く構えることでボールに“早く”転がりを与え、ラインを作る必要があった。
一方で、現代のボールはどうでしょう?
現在のボール:大型のコア、高摩擦のカバー素材、高回転が自然に生まれる構造。
そのため:無理に膝を深く曲げて早く転がす必要はなく、むしろ膝を曲げすぎると「転がりすぎ」「スピード不足」という副作用が出やすいのです。
ベイカーはこの違いを明確に理解した上で、今の時代に合った“膝フレックス(軽く膝を曲げる動き)”を推奨しています。
◆ 膝を深く曲げるメリットとデメリット
◉ メリット:
体を低く保ち、レーンとの一体感を作りやすい
上体を安定させ、リリース時のブレを抑える
特定のオイルパターン(ショートパターンなど)で有利な場面も
◉ デメリット:
上下動が増えるため、ロフトやリリースタイミングが不安定に
スイングが窮屈になりやすく、回転やスピードに影響
膝にかかる負担が大きく、長期的にはケガのリスクも
特に2ハンドプレイヤーにとっては、“スイング空間の確保”と“重心移動”の滑らかさが何より重要なため、深すぎる膝の屈伸はリズムを乱す原因となりやすいのです。
◆ 膝フレックスとは何か?
ベイカーが提唱する“膝フレックス”とは、「膝を軽く曲げて柔軟性を持たせ、リリース直前に重心を自然に落とす動き」です。
これは、
動き出しの際に“脱力した膝”で滑らかにスタートし、
フィニッシュに向けて自然なタイミングで膝を折り、ボールに適度なロフトを与える
という流れの中で発揮される動作で、“構えで深く曲げる”スタイルとは根本的に異なります。
膝を固定して曲げるのではなく、スイングと連動しながら柔らかく曲げ伸ばしを使うことで、リズムとタイミングの一体化が可能になります。
◆ プロのフォームから学ぶ「適度な膝使い」
以下のトップボウラーたちは、ベイカーが“理想的な膝フレックスの持ち主”として紹介している選手です。
ビーマン(Chris Via):膝はそこまで曲げないが、滑らかな下半身の動きでロフト・回転ともに極めて安定。
ビル・オニール(Bill O’Neill):中程度の膝曲げで、パワーと安定性のバランスを両立。
EJタケット(EJ Tackett):しっかりした踏み込みながら、膝の角度はコンパクトで再現性が高い。
彼らに共通するのは、「膝が必要以上に深く曲がっていない」という点。代わりに、“膝・股関節・足首”が連動して動いており、力みのないフォームを構築していることが分かります。
◆ 膝の使い方を整えるための練習ドリル
1. リズムウォークドリル
助走中、膝をリズミカルに上下させる感覚を掴む練習
スイングと膝の動きが一致しているかチェック
2. フィニッシュ・バランス保持練習
リリース後、3秒間フィニッシュ姿勢をキープ
膝の位置が安定しているか、背中が丸まっていないか確認
3. “深曲げ vs フレックス”比較投球
あえて極端に膝を深く曲げた投球と、フレックスを意識した投球を比較
ロフト、スピード、バランス、回転の違いを体感する
◆ 時代に合った“膝の使い方”を選ぼう
膝を深く曲げるフォームは、決して「間違い」ではありません。ただし、現代のボール特性、オイルパターン、そしてスイングリズムを踏まえると、必ずしも“深く曲げること”が有利とは限らないというのがマーク・ベイカーの結論です。
スピードを落としたくない
ロフトを一定に保ちたい
フォームの再現性を高めたい
こうしたニーズを持つ現代のボウラーにとって、“膝フレックス”は理論と実践の両面から理想的な選択肢となるでしょう。
11. 2ハンドで左サイドのスペアが苦手な理由と対策―構え・軸・視線の“ズレ”を見直して命中精度を上げよう
2ハンドスタイルのボウラーが共通して抱える悩みの一つが、「左サイドのスペア(特に7番ピン)が苦手」というものです。右利き2ハンドボウラーにとって、右にカーブさせるようなメインのストロークとは逆方向に“直線的”に投げる必要があるため、身体の使い方や感覚が大きく変わってくるのです。
「右に曲げるのは得意なのに、まっすぐ投げようとすると全然合わない」 「7番ピンを狙うときに毎回“左に外す”か“右に抜ける”」
このような現象はなぜ起こるのか?マーク・ベイカーは、それを身体の向き、タイミング、そして“胸の向き=ブレストプレート”のズレにあると説明します。
◆ なぜ2ハンドは左サイドのスペアが難しいのか?
主な理由は以下の通りです:
1. 構えの段階で体が開きやすい
2ハンドでは、両手でボールを持つ関係上、構えの時点で体がやや“閉じ気味”になります。ところが、左サイドのスペアを狙う時には身体を左に開いて構える必要があり、普段と真逆の身体の使い方が求められるため、構えから違和感が生まれやすいのです。
2. 肩がパワー源になりやすい
マーク・ベイカーは、「タイミングが早すぎる2ハンドは、肩で引っ張るようにしてリリースしがちだ」と言います。こうなると、胸の向き(ブレストプレート)がターゲットから外れ、ボールがラインから逸れるという結果になります。
3. 直線軌道を維持するのが難しい
2ハンドは元々、手首を使った回転で曲がりのあるボールを得意とするスタイルです。そのため、回転を抑えて“まっすぐ投げる”こと自体が不自然な動作になりがちです。これにより、ボールが左右にズレやすくなります。
◆ “ブレストプレート”とは?―胸の向きが全てを決める
ベイカーが何度も強調するキーワードが、「ブレストプレート」=胸の中心の向きです。
「君の胸(ブレストプレート)がターゲットを向いていないなら、君の手はその方向に行かない。シンプルだ」
つまり、左サイドのスペアを確実に取るには、構えの時点で胸がターゲットピン(7番)に真正面から向いていることが絶対条件になります。これにより、両手とスイングがそのラインに沿って自然に流れるため、正確な直線軌道を作り出すことができるのです。
◆ 正しい「姿勢・構え・視線」の整え方
1. 構えでしっかり左側に立つ
スパット(レーン上の三角形の印)の1番目か2番目(極端なインサイド)に立ち、正面から7番ピンを見つめる。
2. 両膝・胸・顔の向きを完全にターゲットに揃える
体が斜めになっていたり、視線だけがピンを見ているような状態はNG。
3. スイングは“引かず”、まっすぐ“落とす”意識
曲げようとする癖が出やすいため、肩の力を抜いて“腕を自然に落とすだけ”の感覚を持つ。
◆ 2ハンドの左スペア克服ドリル
以下の練習法で、正確なラインと再現性を身につけましょう。
◉ “ブレストプレート固定”ドリル
壁を背にして立ち、7番ピンの方向に胸を向けたままフォームを取る練習。
胸がズレていないかを意識しながらスイング。
◉ “逆スパットライン”練習
7番ピンを狙う際に、スパットをまっすぐ通過するかどうかを確認。
1ゲームまるごと“左サイドのスペアだけ狙う”練習も効果的。
◉ “ノースピン投球”練習
意図的に回転を抑えてボールを投げる練習。
手首の角度を固定し、肩の介入を防ぎながら、まっすぐの軌道を体に覚え込ませる。
◆ 道具の選択:スペアボールを使おう
2ハンドボウラーの中には、曲がりの強いリアクティブボールでそのままスペアを狙ってしまう方もいますが、これは左サイドのスペアでは特にリスクが高くなります。直進性の高いプラスチック製スペアボール(例:T-Zone、White Dotなど)を使用することで、軌道の再現性が飛躍的に向上します。
スペア用ボールではほとんど回転がかからないため、あとは構えとリリースの方向性だけに集中できるというメリットがあります。
◆ フォームと視線を揃えれば“まっすぐ”は怖くない
2ハンドボウラーが左サイドのスペアを苦手とするのは、技術不足ではなく“構造のズレ”にあるというのが、マーク・ベイカーの明確な見解です。
胸(ブレストプレート)がピンを向いているか?
肩や腕に無理な力が入っていないか?
回転を無理に加えようとしていないか?
これらをチェックし、正しい体の使い方と道具選択をすることで、7番ピンは“苦手”ではなく、“取りにいくピン”へと変わっていきます。
マーク・ベイカーからのメッセージ:あなたの“感じる疑問”が、ボウリングをもっと楽しくする
読者の皆さんへ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。私は45年以上、プロとして、そしてコーチとしてこのボウリングという素晴らしいスポーツに関わってきました。その中で私が強く感じているのは、「どんな疑問も、それを感じた人にとっては“かけがえのない学び”になる」ということです。
私のQ&Aに寄せられる質問の中には、「こんなこと聞いてもいいのかな…」「レベルが低すぎるかも…」と遠慮がちなものもあります。でも、私はそうした“素朴な疑問”こそ、最も価値があると思っています。
なぜなら、それは“あなたが真剣にボウリングと向き合っている証”だからです。
◆ 誰かの疑問は、みんなの成長の種になる
皆さんからいただいた質問は、個人的な悩みであると同時に、実は多くのボウラーがどこかで感じている共通の課題だったりします。
「スイングが安定しない」「スペアが取れない」「フォームの感覚がつかめない」
こういった悩みは、初級者だけでなく、実はプロレベルの選手でも持っていることが多いのです。だから、あなたが抱えるその1つの“もやもや”は、あなた自身だけでなく、他の多くのボウラーの学びにもつながっていくのです。
◆ 僕は“感じる側”ではなく、“導く側”だから
私はよく「マークさん自身はどう感じて投げていたんですか?」と聞かれることがあります。でも、正直なところを言えば、私は“あまり感じていなかった”んです(笑)。いや、もっと正確に言えば、感じる前に“繰り返し”を通じて身体に覚え込ませていたということなんです。
私の役目は、皆さんが“感じている違和感”を、“理解できる仕組み”に変えてあげること。だから、どんな質問でも遠慮なく聞いてください。抽象的でも、言葉が足りなくても構いません。感じていることそのものが、あなたの財産なんです。
◆ ボウリングは、技術だけじゃなく“楽しさ”も教えてくれる
ボウリングというスポーツは、他の競技にはない魅力があります。それは、
年齢を問わず楽しめる
成長を実感しやすい
コミュニティとのつながりが深い
精神面がスコアに如実に出る
という特徴を持っていることです。だからこそ、私はこの競技が好きで、今でも皆さんと一緒に学び続けたいと思っているのです。
プロとして生きてきたこの45年間、私にとってボウリングは単なるスポーツではなく、人生そのものでした。そして今、コーチとして、ボウリングを通じて“誰かの人生をちょっと良くする”ことが、私の使命だと思っています。
◆ 最後に:あなたの質問が、明日の答えになる
どうかこれからも、気軽に質問を寄せてください。
あなたがどんなレベルであっても、どんな風に投げていても、どんな悩みを持っていても、私はあなたの“今”を全力で受け止めます。
質問することは、自分の成長を信じるということ。
そして、それを共有することは、他人の成長にも貢献するということ。
だから、あなたの疑問を、どうか恥ずかしがらずに教えてください。
私の答えがすべて正しいわけではないかもしれませんが、必ずあなたにヒントを届けることはできると思っています。
これからも、一緒にボウリングを学び、楽しんでいきましょう。