無敗の258.4
タケットが塗り替えたマスターズ記録と決戦の行方

2026 USBCマスターズ、決戦の5人が決まった

米ミシガン州アレンパークのサンダーボウル・レーンで開催中の「2026 USBC Masters」は、2日間のブラケット方式マッチプレーを終え、日曜のテレビ決勝(ステップラダー)に進む5人が出そろった。決勝の舞台は同会場内ストローブル・アリーナ。優勝賞金10万ドルを懸け、ここまで生き残った選手たちが“最後の一日”にすべてを賭ける。

今大会は、単なるトーナメント終盤の紹介では終わらない。記録更新級の支配力初タイトルを狙う若手の集中メジャー覇者の底力けがを越えた復活、そして勢いを武器にした連続進出――異なるストーリーが同じレーンで衝突する。ここでは、各シードの背景と最終日の見どころを整理し、決戦をより立体的に捉えていく。

 

記録、野心、復活――ステップラダーを彩る5つの焦点

1)第1シード:EJ・タケット、“無敗”で大会史を書き換える

第1シードを獲得したEJ・タケットは、今大会の流れそのものを変えてしまった。2日間のマッチプレー6戦を全勝し、18ゲーム平均258.4。しかも過去の大会記録(2023年の250.4)を更新するという形で、数字の上でも歴史に刻んだ。

3ゲーム合計ピンフォールで勝敗が決まる方式では、1ゲームの乱れがそのまま脱落に直結しやすい。そこで高いアベレージを維持するだけでも難しいが、タケットは“勝ち切る”ことまでセットで実現した。土曜の4試合では平均262.3ストライク率は80%超。好調の範囲を超え、「調子が良い」では片づけられない領域に踏み込んでいる。

ここで優勝すれば通算28勝目メジャー8勝目。さらに、PBA史上4人目となるキャリア・グランドスラム達成も視界に入る。しかし本人は「レガシーは考えない。最高のゲームを投げるだけ」と語る。言葉は抑制的でも、内容は雄弁だ。タケットの“無敗”が、最終日も続くのかが最大の軸になる。

 

2)第2シード:エリック・ジョーンズ、21歳の視線は「初優勝」一点

第2シードはエリック・ジョーンズ。マッチプレーは5勝1敗で、唯一の黒星はタケットとの第1シード決定戦だった。つまりタケット以外には勝ち切っている

象徴的だったのは初戦だ。相手と合計686で並び、ワンボールのロールオフへ。そこでジョーンズが踏みとどまり、僅差の空気を味方にした。この“最初のヤマ”を越えたことで、以後の勝ち方には余裕が生まれ、上位シードまで駆け上がった。

年齢やテレビ決勝の経験値から「進出だけで満足していそう」と見られがちだが、本人の感情は真逆だ。「初めてショーに出た時は興奮した。でも今は勝つことしか考えていない」。若さが“勢い”として語られる一方で、ジョーンズの現在地は“冷静な勝負師”に近い。初のタイトル、初のメジャー――最も分かりやすい到達点を、最も強い集中で狙っている。

 

3)第3シード:イェスパー・スベンソン、メジャー3勝目へ「修正力」が試される

第3シードはスウェーデンのイェスパー・スベンソン。ツアー12勝、メジャー2勝の実績を持ち、今回も強さを積み上げてきた。予選は390人中6位、マッチプレーでも4勝1敗。途中には300ゲームも記録している。

今季は開幕戦のプレーヤーズ選手権でもテレビ決勝に進んだが、その後の期間を本人は「ひどかった」と振り返る。だからこそ今回のマスターズは、タイトル争いであると同時に、感覚を取り戻すための“証明の場”でもある。

ストローブル・アリーナでの経験は豊富で「良かった時も悪かった時もある」と語った。これは弱気ではない。むしろ、条件が変わっても立て直せる余地を持つ選手の言葉だ。ステップラダーは、修正の速度が勝敗に直結する。スベンソンが持つ“経験を結果に変える力”が、ここで試される。

 

4)第4シード:マット・サンダース、けがを越えた“復活”が現実になった

第4シードのマット・サンダースは、今大会でもっとも胸を打つ物語を背負う。1年足らず前、自宅での事故により右脚の筋肉と腱を損傷し、歩くことすらままならない時期があった。さらに直近でも痛みと腫れで大会を棄権している。それでも、デトロイトで勝ち進み、テレビ決勝まで辿り着いた。

マッチプレーでは一度敗れて敗者側(エリミネーション・ブラケット)に回ったが、そこからが真骨頂だった。接戦を拾い、強豪を倒し、最後の“4人で3枠”の決定戦で踏ん張る。試合後のコメントには「以前の自分には戻れないかもしれない」という現実と、それでも前に進む感情が同居していた。

ステップラダーは、技術だけでなく“心身の状態を一投に集約する力”が問われる。サンダースは、それを最も切実な形で獲得してきた選手だ。復活の物語が、優勝という結末に届く可能性は十分にある。

 

5)第5シード:デビッド“ブーグ”・クロル、連続テレビ決勝の勢いを武器に

第5シードはデビッド“ブーグ”・クロル。前週に続く連続テレビ決勝という流れを携え、今大会でも大舞台へ。予選は第53シードと下位からのスタートだったが、マッチプレーで連勝を重ね、一気に存在感を増した。タケットに敗れた後も、最後の決定戦で踏みとどまり、席をもぎ取った。

興味深いのは、本人が「マスターズは得意ではなかった」と語りつつも、今回は「楽しむ」と明確に言い切っている点だ。前週の決勝では、トップシードとしての重圧を感じたという。ならば今回は立場が変わり、失うものが少ない分だけ思い切れる。ステップラダーでは、その“振り切れ”が空気を変えることがある。クロルは波乱の引き金になり得る選手だ。

 

最後の一日は、数字ではなく「勝ち筋」で決まる

伝統の5人ステップラダーが戻り、トップシードは優勝までに必要な勝利数が少ない。一方で下位シードは連戦を強いられるが、勢いに乗れば流れを独占できる。だから最終日は、強さの総量ではなく「勝ち筋の明確さ」で決まる。

タケットは歴史的ペース“完結”させられるのか。ジョーンズは初タイトルへの壁を破れるのか。スベンソンは修正力でメジャー3勝目を手繰り寄せるのか。サンダースは復活の物語を優勝で閉じるのか。クロルは勢いを番狂わせに変えられるのか。
答えは、ストローブル・アリーナのレーン上でしか出ない。だが確かなのは、今大会の最終日は「誰が勝っても物語になる」
ということだ。

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 👉  USBC Masters

     Qualifying – Round 3

     Brackets