EJタケットは“回して”いない
曲がりを生むのは回転数ではなく推進力
記事に入る前に、音声による要点解説をお聞きいただくと、内容が一段と理解しやすくなります。
要点音声解説
本要点音声解説は、「The Clean Up Crew」掲載の動画内容を整理・補足して、NotebookLM を用いて生成したものです。
PBAコーチの提言が覆す「曲がる球」の常識——回すほど曲がる、は本当か
PBAで長年トップ選手を指導してきたマーク・ベイカーが、「ボールをより大きく、より安定して曲げる」ための考え方を改めて提示した。内容は、アマチュアの現場で根強い定説——「回転を増やせばフックが強くなる」——を正面から否定し、曲がりを生む本質を「回転量」ではなく「ロール(転がり)」と「タイミング」に置き直すものだった。
近年は両手投げの台頭もあり、回転数や派手な球筋に注目が集まりやすい。しかしベイカーが強調するのは、映えるフックではなく、狙いに当たり続ける再現性である。回転を“作る”前に、ボールを“運ぶ”。 回すのではなく、下から転がす。 遅く、少なく、必要な瞬間にだけ回転を足す。 今回の発言は、流行の見た目と、スコアを支える実務を切り分ける視点として、十分にニュース価値がある。
本稿では、ベイカーの要点を「現場で誤解されやすい順」に整理し、明日からの投球に落とし込める形でまとめる。
ベイカーが提示した“曲げるための優先順位”——9つの論点で読み解く
1. 「赤道の下」では足りない——鍵は“南極まで手を下げる”感覚
ベイカーはボールを地球に見立て、投球時の“手の位置”を直感的に説明した。親指を穴に入れる一般的な片手投げは、指を「赤道より下」に入れる意識になりやすい。一方、両手投げ、あるいは親指を入れない投法は、手と指をさらに下げ、「南極付近」まで持っていくイメージになるという。
ここで重要なのは、手首を派手に捻ることではない。ボールの“真ん中”ではなく“底”を使う。 その位置に入れられるほど、少ない回内でも球筋が生まれる。内側か外側かという議論の前に、「下にいるか」が最優先だ——という整理が、彼の主張の核にある。
2. 回り込みすぎは逆効果——真っすぐか、早すぎる過反応に振れる
アマチュアが陥りがちな 「曲げたいから回す」 は、結果として球を不安定にする。スイングの最下点でボールの周りに回り込みすぎると、ボールが意外なほど真っすぐ走ったり、乾いた部分に早く触れて急激に反応したりする。要するに、「曲げに行った動作が、曲がるべき地点を壊す」。
ベイカーが見ているのは、フックの“量”ではなく「位置」だ。曲がるべき場所で曲がらず、曲がってはいけない場所で曲がる。 これがスコアを崩す最大の原因であり、回り込みがその引き金になりやすい。
3. EJタケットの“派手さ”は、回転ではなく推進力の勝利
象徴的に挙げられたのがEJタケットのリリースだ。テレビで見る大きな曲がりは、多くの人に 「EJのように手首を回せば曲がる」 という誤解を生む。しかしベイカーは、EJの本質を 「手が回り込まない」、「前へ進む動きが回転より大きい」 と説明した。
回転が推進力を追い越さない。 だから奥まで運べる。奥まで運べるから、形が出る。見た目の“回っている感”に引っ張られず、「力の配分」を見抜け——というメッセージである。
4. 「回せば曲がる」は最大の神話——回すほど増えるのはフックではなくスピン
ベイカーの発言の中で最も刺さる一文はここだろう。曲げようとして回すほど、増えるのはフックではなくスピンである。スピンが増えれば、ボールは読まない。 読まなければ、狙いにも当たらない。 結果としてブレイクポイントも散り、スコアが不安定になる。
現場では「回転を増やせ」と教わった経験のあるボウラーが多い。しかしベイカーは、その“努力の方向”がズレていると言う。曲げるために必要なのは回転の誇示ではなく、「ロールの確立」だ。
5. 回転を入れる“窓”は固定——窓の終わりで回すと、正確になる
ベイカーはリリースを 「ウィンドウ(窓)」 という言葉で語る。ボールが手から離れる区間は一定で、その窓の中でいつ回転を足すかが精度を左右する。
頭が下がっていれば、回転は窓の“終わり”に入る。 頭が上がると、窓の“始まり”で回転が入る。 窓の始まりで回すと手が速くなり、手が速いとターゲットに当たらない。つまり 「柔らかい手」=窓の終わりで、少なく、遅く回すことに直結する。
ここでの示唆は明確だ。回転の量より、回転を“入れる時刻”が先にある。
6. 足が遅いと頭が前に出る——姿勢の崩れがリリースを壊す
ベイカーの指摘は、手首の器用さより先に、歩行と姿勢へ向かう。足が遅くなると頭が前に出る。 頭が前に出ると肩関節が前へ動き、腕は“ぶら下がる”。 その状態で投げ切ろうとすると、肘が外へ逃げる 「チキンウィング」 になりやすい。
つまり、悪いリリースは手首の問題に見えて、実は 「タイミングと姿勢の問題」 である。上半身は下半身の遅れを帳尻合わせできない、という現場的な警告でもある。
7. プッシュアウェイは“押し出しすぎない”——肘主導で数インチだけ外へ
押し出し(プッシュアウェイ)についても、ベイカーは 「手で押しやりすぎる」 癖を問題視する。手だけで遠くへ押すと肩の支点が崩れ、スイングが“死ぬ”。すると戻すしかなくなり、頭が前へ出て悪循環が始まる。
彼が推奨するのは、肘が動いて手が3〜4インチ外へ出る程度の自然な押し出し。さらに 「2歩目を高く(背を伸ばして)安定させる」 ことで、肩に支点を作り、スイングが勝手に落ちる条件が整うという。リリース練習の前に、スイングを壊さない土台を作れ。 これが順番の提示だ。
8. ボール位置と前腕のライン——フォームが進路を“予約”する
狙いの話は、ターゲット論ではなく整列論として語られる。ボールは体の前。前腕はターゲットライン。 シャツの縫い目を基準に前腕を乗せ、押し出しは狙いよりわずかに内側。こうすると、前腕が“ボールを行かせたい方向”を示すため、フォームそのものが進路を決める。
逆にここがズレると、押し出しで横方向の調整が必要になり、スイングの背中側の軌道がぶれる。狙いを手先で取り返すほど、再現性は落ちる。 狙いはラインで作る。
9. アマは右に流れて曲がりを“見たい”——プロは左に歩いて曲がりを“管理する”
ベイカーが突きつけたのは、アマとプロの目的の違いである。アマチュアは「曲がりを見たい」から右に流れがちになる。スイングの中に体が入り、ボールが早くドライに触れて曲がるからだ。しかしそれは制御ではなく、見え方優先になりやすい。
プロは曲がりを管理するために左へ歩く。多様なコンディション、とりわけスポーツショットのようにレーンが難しい状況では、「奥まで運んでから曲げる」ために、ターゲットから離れる歩きが有効になる。
さらにベイカーは 「オイルが多いほど、回しても曲がらない。回すほど滑る」 とも指摘する。オイルが多い時に必要なのは回転の誇示ではなく、「ロールの強さ」。曲げるのではなく、転がして“読ませる”。 ここでも優先順位は一貫している。
曲げるための最短距離は「回さない勇気」——ロールとタイミングが球筋を作る
今回の提言が示したのは、曲がりを作るための優先順位である。
まず下から投げ、ボールを前へ運ぶ。
次に足と姿勢でスイングの支点を作り、窓の終わりで回転を足す。
最後に、曲がりの量ではなく曲がる位置を管理する。
この順番を取り違えると、回転数は増えてもスコアは安定しない。逆に、回転を抑えたように見える投球ほど、実は奥で強い形が出ている——EJタケットの例がそれを象徴する。
「曲げたいなら回す」という分かりやすい常識は、上達を遠回りさせることがある。曲げるために必要なのは、回転の派手さではなく、ロールの確かさとタイミングの精度。曲がりを“見せる”のではなく、曲がりを“設計する”。 その視点への転換こそが、今回のニュースの核心である。