優先順位が逆
まず「バランスとタイミング」を直せ
Mark Baker直伝・7つの実戦処方箋

記事に入る前に、音声による要点解説をお聞きいただくと、内容が一段と理解しやすくなります。

要点音声解説

本要点音声解説は、「The Clean Up Crew」掲載の動画内容を整理・補足して、NotebookLM を用いて生成したものです。

バランスが整うと、ボウリングは別の競技になる──トップコーチMark Bakerが語った「直す順番」と7つの実戦処方箋

 

ボウリングが難しい本当の理由は「疑問が増え続ける構造」にある

ボウリングは、投げて倒すだけのシンプルな競技に見える。ところが実際には、レーンの攻略、ボール選び、立ち位置、狙い、スイング、リリース、そして体の使い方まで、判断材料が無限に増えていく。しかも厄介なのは、スコアが上がるほど疑問が“減る”のではなく、むしろ“増える”ことだ。自分の動きが再現できるようになった瞬間から、「ではコンディションが変わったら?」「右に立つと何が変わる?」「この違和感は直すべき?」と、次の壁が現れる。

今回の番組が面白いのは、視聴者の質問に“初見で答える”形式を徹底している点にある。あらかじめ台本を用意すると、言葉は整う代わりに、思考の熱が薄くなる。冷たい質問に即答するからこそ、コーチの判断基準が生々しく出る。つまり、単なるテクニック集ではなく「何を気にして、何を気にしないか」の優先順位が手に入る回だった。

そして話の前提として、視聴者層が二つに分かれていることも語られる。長年どっぷり浸かったコア層と、ここ数年で始めて急速に伸びたい新規層。新規層は特に「曲げたい」「上手くなりたい」と思って検索し、YouTubeに流れ着く。教材が大量にある時代だからこそ、番組は“役に立つ一つ”として、迷いの整理をしてくれる。今回の結論は、その整理の頂点に置かれる言葉だった。
「最優先はバランスとタイミング。そこが整えば、他は微調整になる」

 

7つの質問が暴いた「見た目」より強いもの

1)「バックスイングで手が開いて戻らない」──指先を疑う前に、パームの向きを整える

視聴者の悩みは、バックスイング中に手が開いてしまい、そのまま戻せないこと。まずMark Bakerは大前提を置く。手が開くトッププロもいる。つまり、開くこと自体を即“悪”と断定しない。問題は、開いたまま閉じられないときに起きやすい失敗だ。右ミス、あるいは上から被せる動き(オーバー・ザ・トップ)につながりやすい。

ここでMarkが出す処方箋は、ありがちな「親指をこう、指をこう」ではない。むしろ逆で、指や親指(グリップ)への意識を置きすぎないことを勧める。ボールを“指で操作する対象”にすると、余計な制御が増え、動きは暴れやすくなる。代わりに鍵になるのが、「手のひらの中心(パームの真ん中)」の向きだ。

  • トップでパーム中央が天井を向くと、手が開きやすい。

  • トップでもパーム中央をターゲット方向へ向け続ける意識があると、手が静かになり、余計な動きが減る。

初心者ほど「インサイドを使わなきゃ」と、構えから腕を内側にねじり込む。しかしそれは日常動作の自然さから外れ、上腕や腕全体の緊張を生む。緊張は不安定さの入口だ。だから、構えはリラックスし、パームをターゲットへ向けたまま、必要な分だけ最後に回す。この“順番”が重要だという。

この話は地味だが、効き方が強い。Markが「膨大なゲーム数を投げても手を痛めにくかった理由の一つは、手が静かだったことかもしれない」と語るのは、フォーム論というより、長期戦の設計思想だ。

実戦チェック

  • トップで「手のひらの真ん中」がどこを向いているかだけを確認する

  • そこがターゲット方向に残ると、手の余計な開閉が減る

  • “指を動かして直す”のではなく、“向きで静かにする”

 

2)昔は学べなかった。今は学べる。でも「映像の罠」が増えた

Markは、昔の学習環境を回想する。スロー再生も録画もなく、テレビ中継の短い場面を見て想像するしかない。憧れの選手は神話のようで、会場で初めて生で見た衝撃は巨大コンサートのようだったという。

対して今は、YouTubeで何度でも止めて見られる。メリットは巨大だが、デメリットもある。
それが、「見た目が変」に取り憑かれることだ。

Markが示す判断基準は明確で、鋭い。
「トップの見た目が、リリースに直結しているのかを見極めろ」
毎回同じように起きていて、下(リリース周辺)で破綻していないなら、過剰にいじる必要はない。スコアが高い人に対して「全部間違ってる」は成立しない。高アベには再現性がある。だから結論はこれだ。
壊れてないなら直すな(If it ain’t broke, don’t fix it)

この言葉は甘やかしではない。修正とは、武器を増やす行為であると同時に、今ある再現性を壊すリスクでもある。動画時代の最大の敵は、上達のための修正ではなく、“映えるための修正”だ。

実戦チェック

  • 直す理由は「見た目」か「スコアに出た症状」か

  • 症状が下(リリース/着地/ライン)に出ていないなら保留する

  • 変えるなら、まず小さく、短期間で検証する

 

3)「右利きなのに左が快適で右へ行けない」──立ち位置の問題ではなく、角度とリリースの問題

右利きで左側のラインが快適すぎて、右へ移動できない。Markはこれを「ものすごく一般的」と言う。慣れたセンター、慣れたオイル、慣れた景色が、移動を心理的にも技術的にも難しくするからだ。

ここで重要なのは、Markがこの悩みを“気持ちの問題”で終わらせない点にある。右へ移動するときに必要なのは、単なる立ち位置変更ではない。
レイダウンからブレークポイントまでの角度(ファネル)が変わる。右になるほど、ラインはより直線的である必要があり、そのためにはリリースも少し変えなければ成立しない

そしてMarkは決定的な一言を置く。
「一つのリリースが、レーン全域で通用することは稀」
右へ行けないのは、メンタルだけでなく、「角度に合わせてリリースを調整する学習」が足りていないケースが多いというわけだ。

実戦チェック

  • 右へ動くほど、同じ回転量・同じ角度では過剰になりやすい

  • 立ち位置だけでなく「角度に合う直線性」を作る

  • 右側は“別の投げ方を学ぶ場所”と捉える

 

4)「矢印は見るが、ドットで構える。ミス後、ドットでどう調整?」──ドットは信用しすぎるな、自分の基準を作れ

Markはフロントのドットを「数学的に整っていない」と切り捨てる。矢印は5枚ごとに整然としているが、ドットは間隔が一定でない、中央に無い部分があるなど幾何学的な整合が弱い。内側を投げる人ほど、そもそも“見たい場所”にドットが存在しないこともある。

では、下流の目印(レンジファインダー)がなく、奥の狙いが作れないときはどうするか。Markの答えは現場的だ。多くのセンターにあるスキャナー表示(ガターキャップ付近)を基準にし、そこから手前の距離を想定してテープを貼るなど、「見える基準を自分で用意する」
厳密なドット計算より、奥でどこを通したいかを具体化し、そこへ運ぶための“目印”を作る。この姿勢が、上達の再現性につながる。

実戦チェック

  • まず「奥で通したい場所」を決める(点でなく帯でもよい)

  • それを目で追える基準に変換する(テープや既存表示の活用)

  • ドット調整は補助。主役は奥のイメージ

 

5)「トップで手が内側に入る(Monacelliみたい)。良い?悪い?」──上だけ似せると、下で破綻する

この質問に対してMark Bakerは、見た目だけで善悪を決めない。トップで手が内側に入る動きは、一流にも実在するからだ。だから「その形=悪」ではない。問題は、その形が下(ボトム〜リリース)でちゃんと機能しているか。トップは途中経過であり、最終的にボールが狙いへ運ばれ、同じ結果を繰り返せるなら“成立しているフォーム”と言える。

Markが引き合いに出すAmleto Monacelliの凄さは、手の形そのものよりも、強い下半身とタイミングの精度にある。土台が強く、姿勢が崩れず、スイングと足が噛み合うから、トップで手が内側に入っても下で破綻しない。逆に言えば、上の形だけを真似ると、多くの人は下で帳尻合わせを始めてしまう。そうなると、被せる・抜ける・回転が暴れるなどの症状が出て、再現性が落ちやすい。つまり論点は「内側に入るかどうか」ではなく、その形があなたの身体条件とタイミングで“成立条件を満たしているか”だ。

実戦チェック

  • 真似るなら「形」ではなく「結果」(ボールの転がり・軌道・再現性)

  • 上の形だけをコピーして、下で症状が出ていないか確認する

  • 似せるより、機能を作る

 

6)「3歩助走がしっくりくる」──歩数を変えるより、相対関係を作り直す

3歩助走は特殊で、ボールが足より先に動き出す必要がある。4歩の典型の流れをそのまま移植すると、1歩分が欠けるため整合しにくい。だから必要なのは、3歩で成立する「ボールと足の相対関係」を作る練習だ。

歩数変更についての具体論も現実的だ。3→4は難しい。変えるなら3→5の方が繋がるケースがある。歩数変更は単なる足し算ではなく、タイミング体系の組み替えであるという認識が通底している。結論はこうだ。
「しっくり来ているなら無理に変えない。ただし、その歩数で成立する整合を作る」

実戦チェック

  • ボールがいつ動き始め、いつ足と揃うべきかを決める

  • 歩数より「出だしのボール位置と足の関係」を整える

  • 変えるなら“全面改造”ではなく、成立条件を検証する

 

7)「ブレークポイントとは?」──点ではなくゾーン。だから“箱”を作る

ブレークポイントは“点”に見えるが、実際は点ではなくゾーンだ。計測機器があれば点として可視化できても、実戦で点を見て投げるのは難しい。そこでMarkが提示するのが“Baker Box”という考え方だ。

  • 距離:42〜46フィート

  • 板目:おおよそ5〜8枚目(幅を持たせる)

この窓の中でボールが変化すれば、ポケット到達率が上がるだけでなく、フィードバックが大きくなる。狙いが明確になり、修正がしやすいからだ。ブレークポイントを「狙えるもの」に変えるための設計図と言っていい。

実戦チェック

  • 点を当てに行かない。窓に入れる

  • “窓に入った/外れた”が分かれば修正が速くなる

  • ブレークポイントは「狙い」ではなく「判断基準」にする

 

8)(補足)ノーサムでタイミングが合わない:先に脚、後から腕

ワンハンド・ノーサム(2フィンガー)で、トップとスライドのタイミングが合わないという質問に対し、Markは「ノーサムは短く速くなりやすいので、高すぎて遅れるのは珍しい」と反応する。高いトップを作れるのは保持できる強さの証拠でもある。

参考例として挙がるのはTom Daugherty。高いプッシュアウェイで長く見せ、短めのスイングで成立させる。ポイントは脚を先に行かせ、ボールが降りるスペースを作ること。腕が先に降りてくると整合が崩れる。ただし「映像を見ないと断定できない」と明言し、一般論に留める慎重さも印象に残る。

 

「身体が正しく機能している」ことが、最大のスキルになる

終盤でMarkが語る核心は、技術論をすべて束ね直す。
「身体の機能」と「ボールを投げる」は別物
プロがプロである理由は、投げる技術以前に、身体が正しく機能している状態で投げているからだ。多くのアマチュアは、身体機能が整っていないのに“投げること”で帳尻を合わせようとする。だから再現性が落ちる。

そして結論として、最優先はこれだ。
バランスとタイミング
地味で退屈だが、最も効く。ここが整えば、他の修正は微調整になり、ボールの転がりが良くなる。ホストが補強した「タイミングが精度を作り、精度がないならリリースが良くても意味がない」という言葉は、ボウリングの上達を一文で表す。

最後にMarkは、忙しさの中でコミュニティに情報を外へ出し続けたいと語り、あと9〜10年、75歳までを目安にしたいと言う。そこには「知識は抱えるものではなく、共有して助けるものだ」という思想がある。

もし今回の回を一行で持ち帰るなら、これでいい。
フォームの一部分を直す前に、バランスとタイミングを直せ。壊れていないものは直すな。壊れているなら順番通りに直せ。
動画が簡単に見られる時代だからこそ、“見栄え”ではなく“再現性”に照準を合わせたい。スコアを上げるのは、派手な修正ではなく、地味な土台である。