2/15、開幕前から主役同士が激突
EJ・タケット vs ジェイソン・ベルモンテ「主導権決定戦」
開幕前から「主役同士」がぶつかる、異例の一戦
PBAの2026年シーズン開幕は間近だ。だが、最高峰の勝負を待つ必要はない。シーズンの空気を先に決めてしまいかねない「前哨戦」が、2月15日(日)に行われるからだ。対戦するのは、EJ・タケットとジェイソン・ベルモンテ。過去10年以上のPBAを語るうえで避けて通れない、現代ボウリングの二枚看板である。
舞台はテキサス州アーリントンにある国際ボウリング博物館・殿堂(International Bowling Museum and Hall of Fame)。試合は東部時間13時(現地正午)開始で、PBAのYouTubeチャンネルで無料配信される。配信で生まれた収益は博物館・殿堂へ寄付され、会場観戦者は選手と交流し、殿堂のツアーも楽しめるという。競技と文化支援が一体になった設計は、ボウリングというスポーツの“根”を思い出させる。
しかしこのイベントの本質は、慈善や記念性だけではない。4月4日の「PBA USA vs. the World」決勝に直結する、実利を伴った真剣勝負である。キャプテン同士の一騎打ちが、チームの主導権まで左右する。だからこそ、この一戦は「開幕前の余興」ではなく「シーズンの序章」として成立している。
キャプテンズ・マッチが面白い理由
1)勝つと得をする。ラインアップ順とレーン選択を握る「先手」
今回のキャプテンズ・マッチは、4月4日の決勝に向けて「ラインアップ選択順」と「レーン選択」を決める役割を持つ。つまり勝者は、団体戦の最初の一手を握る。
ボウリングは個人競技に見えて、短期決戦では“当て方”が勝敗に直結する。相手のエースに誰をぶつけるのか。流れが悪いレーンに誰を置くのか。勝ちが必要な局面で、どの選手に任せるのか。ルール上は単純でも、実際の勝負は情報戦と采配で決まる場面が多い。今回の一戦は、その采配を有利に進める権利を争う試合だ。
2)チーム編成にも影響。キャプテンが「2人を指名」し、残りは“勢い”で埋まる
決勝に向けたチーム作りも、このイベントの核である。ショーの一環として、両キャプテンはそれぞれ2名を指名してチームを形成する。さらに、3月22日のPBAインディアナ・クラシック終了時点のコンペティションポイント上位から、米国籍の最上位選手と海外出身の最上位選手がそれぞれ追加され、各チームは4名体制となる。
ここが巧い。キャプテン指名の2枠は「構想」と「相性」が反映される。一方でポイント枠は、その時点での「勢い」や「結果」が反映される。経験と戦略で骨格を作り、シーズンの流れで血を通わせる。短期決戦の不確実性を残しながら、スターの判断が勝負に作用する余地も確保している。
3)会場が特別すぎる。殿堂内2レーン、木製、そして“人力ピンセッター”
そして今回最大のロマンが、会場そのものだ。殿堂内の2レーンは木製レーンで、しかも20世紀中頃の人力ピンセッティング機構が残っているという。さらに重要なのは「このレーンでプロの試合はこれまで一度も行われていない」点だ。
現代のPBAは、レーンコンディションの把握、ボールの選択、回転数とスピードの微調整といった“再現性”が勝負を支配する世界である。ところが今回は、普段とは違う環境が、僅差の勝負に余計なノイズを混ぜる可能性がある。
木製レーンは反応が読みにくい場合がある。ピンアクションもいつも通りとは限らないかもしれない。完璧に近い技術を持つ2人だからこそ、わずかな違いが大きな差になり得る。つまり、今回は「強い方が勝つ」+「早く合わせた方が勝つ」という、適応力の勝負でもある。
4)4月4日の決勝ルールは“個”と“総合力”の二重テスト
4月4日の決勝は、USA対Worldのシングルス4試合で構成され、各試合は1ポイント。そして、チーム合計スコアが上回った側に2ポイントが与えられる。同点の可能性があれば、ワンボールのロールオフで決着する。
ここで合計スコア2点が効いてくる。スターが1試合を取るだけでは足りない。4人全員が“最低限の仕事”をする必要があり、誰かの大崩れがそのまま致命傷になる。キャプテンは「勝ちやすい相手に勝ちにいく」だけでなく、「崩れにくい構成で合計点を取りにいく」設計が求められる。キャプテンズ・マッチで得るレーン選択や順番の優位は、まさにこの合計点争いで効く。
5)2023年の前例。個の勝利が、団体の流れまで運んだ
2023年のキャプテンズ・マッチでは、ベルモンテが当時の米国キャプテン、トミー・ジョーンズと、ミルウォーキーのホラー・ハウスで対戦し231-185で勝利。続くテレビ決勝ではWorldがUSAを12-2で圧倒したという。
もちろん、キャプテンズ・マッチの勝利がそのまま本戦の勝利を保証するわけではない。それでも短期決戦では、「先に勝つ」「先に語れる材料を作る」「相手に調整課題を押し付ける」といった空気の支配が大きい。今回も同様に、4月4日まで続く心理戦のスタート地点になる。
タケット対ベルモンテ──10年以上続く物語が、ここでまた動く
1)2014年から続く「最初の決勝」が、今も現在形で続いている
両者の最初のタイトル戦は2014年のUSBCマスターズ。ここでの直接対決は、ベルモンテのスターダムへの上昇と、タケットという才能の登場を同時に刻んだ“起点”として語られる。
その後ベルモンテは2013〜2015年のPOTY獲得で、ツアーの中心へ。対するタケットは、2016年のPOTY、さらに2017年のPBAツアーファイナルズでベルモンテを破り、「この時代に対抗できるのは自分だ」と証明してみせた。
2)ベルモンテの“歴史的なメジャー”が、物語の見え方を変えた
2018年のツアーファイナルズではベルモンテが雪辱。以降、タケットが苦しい時期を経験する一方で、ベルモンテはメジャータイトルを積み重ねていく。とりわけ2019年と2023年のTOC決勝でのタケット撃破は、ベルモンテのキャリアに“歴史”という重量を加えた。10個目、そして15個目のメジャーは、単なる強さの証明ではなく、「史上最高候補」という議論を現実に引き寄せる出来事だった。
3)タケットの復権。「二番手の時間」が、現在の支配を生んだ
2023年のTOCが行われた時期は、タケットが再び頂点に戻りつつあった時期でもある。そこで大舞台を落としながらも、数週間後にPBAワールドチャンピオンシップ優勝で“上昇が本物”であることを示した。そして昨季、タケットはそのワールドチャンピオンシップで3連覇という偉業を伸ばしつつ、ベルモンテとのタイトル戦勝利でシーズンを締め、POTY3連覇を達成した。
タケットが語ったとされる「今は自分の時だ」という言葉は、単なる強気ではない。長い間ベルモンテという巨星の陰で戦ってきた時間を、燃料に変えた者の断言だ。
4)2026年の争点が明確すぎる:4連覇か、王座奪還と8回目か
2026年に入った今、2人の目的はさらに研ぎ澄まされている。タケットはPOTY4連覇という前人未到の記録を狙う。達成者はおらず、ベルモンテですら成し遂げていないという。一方のベルモンテは、42歳でタケットの支配を止め、POTY通算8回目という“史上最高”の根拠を積み増したい。
どちらも「勝ったらうれしい」ではない。「勝たなければ物語が書き換わる」。だからキャプテンズ・マッチは、開幕前にもかかわらず緊張感が成立する。
殿堂の2レーンで、4月4日の主導権と「時代」を奪い合う
2月15日のキャプテンズ・マッチは、タケットとベルモンテが、殿堂という象徴的な空間でぶつかる特別な一戦だ。しかも勝敗は、4月4日のUSA対World決勝におけるラインアップ選択順とレーン選択に直結し、団体戦の流れそのものを左右する。
さらに、この一戦は10年以上続くライバル史の延長線上にある。タケットはPOTY4連覇という“未踏”へ、ベルモンテは王座奪還と“史上最高”の補強へ。勝つ理由が強すぎる2人が、プロの試合が行われたことのないレーンで、最初の答えを出す。
開幕前から、シーズンの主役が主役同士でぶつかる。だからこの試合は「見どころ」ではなく、「分岐点」だ。4月4日をより面白くするためにも、まずは2月15日、殿堂の2レーンで始まる第9章の冒頭を見届けたい。