リノで決着:左腕コンビがRPIタイトルを奪取
ベナードとハギットが示した勝負強さ
左利き2人が主役となったリノのフィナーレ
PBAリージョナルツアーの最終盤、ネバダ州リノの大舞台で左利きボウラーが鮮やかな主役交代を演じた。BowlTVのPBA Regional Players Invitational(RPI)ではデオ・ベナードが頂点に立ち、PBA50部門ではマイケル・ハギットが王者を退けて戴冠。会場となったナショナル・ボウリング・スタジアムで、若さと円熟がそれぞれ別の形で「勝ち方」を示した。
ベナードの加速とハギットの無敗、それぞれの“勝利の設計図”
ベナード、予選21位からの戴冠 ―「278」で締める勝負力
今回のRPIでベナードが際立たせたのは、単なる高得点ではなく、流れを取り戻しながら勝ち切るトーナメント運びだ。99人のフィールドで、ベナードは予選を21位で通過。上位通過ではない立場からの勝ち上がりは、相手の勢いを受け止めつつ“必要な局面で上げる”力が問われる。
それでもベナードは、マッチプレーで一人ずつ壁を崩していった。報じられている勝ち上がりは、ライアン・スピア、クリス・コエルツォウ、ディーロン・ブッカー、クリストファー・トゥホルスキー、そして決勝でジェフ・マン。特に終盤は、短期決戦の緊張が増すほどミスが致命傷になりやすい。しかしベナードはそこで崩れず、最後は決勝でマンを278-228で退け、トップ賞の15,000ドルを手にした。
ここで象徴的なのが、決勝のスコアが「278」だったことだ。ベナードは9月に行われたサウスウエスト地区のRPI予選でも、タイトルマッチで278を記録して優勝している。偶然と片づけるには、場面が似すぎている。つまりベナードは、「勝ち切る場面で高い天井を叩く」ことを、繰り返し実行してみせたことになる。
PBA部門 マッチプレー結果
準々決勝:マン 3-0 クロウ/ビエンコ 3-1 テイラー/ベナード 3-1 ブッカー/トゥホルスキー 3-0 ホール
準決勝:マン 2-0 ビエンコ/ベナード 2-1 トゥホルスキー
決勝:ベナード 278-228 マン
自己分析が生んだ「変化」――球速という課題への答え
ベナードがこの勝利を“次の成長”に結びつけている点も重要だ。本人は今季PBAツアーでポイント79位と苦しみ、「何が悪かったかを研究した」と述べている。具体的には、「自分らしく投げていなかった」感覚、そして他人と比較していたことで、本来の強みを見失っていたという。
さらに彼は、キャリアを通じて遅めの球速を武器にしてきた一方で、上を目指すにはより速いボールを、より安定して投げる必要があると理解していた。リノでは、その「新しい道具」を実戦で機能させ、相手を押し切る投球につなげたとされる。言い換えれば今回の優勝は、過去の成功体験に寄りかかるのではなく、課題に向き合った末のアップデートされた勝利だった。
22歳目前で積み上がる戦績――“レジュメ”が示す異次元ペース
実績の積み上がり方も、ニュースとして見逃せない。ベナードは22歳の誕生日まで10日という時点で、すでにPBAリージョナル15勝、PBAツアー1勝、サウスウエスト地区年間最優秀選手2回、ウエスト地区新人王、さらにスティーブ・ネイジー・スポーツマンシップ賞も獲得している。若くして“勝つ力”と“評価される姿勢”の両方を持つことは、継続的に結果を出す選手の条件でもある。今回のRPI制覇は、その積み上げにもう一枚、分厚い実績を足した形だ。
ハギット、PBA50で無敗優勝――勝負どころを落とさない終盤力
PBA50部門の主役は、トップシードとして戦いを進めたマイケル・ハギットだった。52人のフィールドで1位通過し、トップシードの特典として1回戦の不戦勝(1ラウンドのバイ)を得る。だが、タイトルの価値を決めるのは、そこから先の“取りこぼしをしない力”である。
ハギットはその後、ブレイン・ウェニンジャー、エリック・アドルフソン、そして前年王者のランディ・ワイスを破り、優勝と10,000ドルを獲得。特筆すべきは、報じられている通りマッチプレーで1ゲームも落とさなかった点だ。短期決戦で「落とさない」ことは、好調以上に“崩れない技術”を意味する。
PBA50部門 マッチプレー結果
準々決勝:ハギット 3-0 ウェニンジャー/アドルフソン 3-1 マクヒュー/ノウルトン 3-2 ビゲロー/ワイス 3-1 クラークJr
準決勝:ハギット 2-0 アドルフソン/ワイス 2-1 ノウルトン
決勝:ハギット 231-217 ワイス
準決勝の象徴――4-7-10を10フレで決める価値
ハギットの勝負強さを象徴する場面が、準決勝の終盤にある。10フレームで、難度の高い4-7-10スプリットをカバーし、アドルフソンをシャットアウト。ボウリングでは、流れが揺れるのは「あと1つで勝てる」局面だ。そこで最難関級のスペアを決めたことは、技術はもちろん、集中力と胆力の証明でもある。
決勝は連打で封殺――9〜10フレの4連続ストライク
さらに決勝では、9〜10フレームで4連続ストライクを叩き込み、前年王者ワイスを231-217で退けた。追い上げ合戦に持ち込むのではなく、終盤の連打で“相手の勝ち筋そのもの”を消す。これもまた、無敗優勝にふさわしい締め方だった。
「夢が現実に」― 舞台が語らせた言葉
ハギットは勝利後、ナショナル・ボウリング・スタジアムでの優勝を、次のように表現している。
「ここに来るために生涯ボウリングをしてきた」、そして「勝つと信じられない気持ちになる」。
この言葉は、PBA50というカテゴリーが持つ“競技人生の総決算”のような重みと、その中で勝ち切る価値を端的に示している。
同じ左腕でも違う物語 ― 更新と無敗が示した到達点
リノのフィナーレは、左利き2人が異なる角度から「勝者の条件」を提示した大会だった。ベナードは不調の要因を見つめ直し、球速という課題を抱えたままではなく“武器として使える形”にして、予選下位からでも決勝278で締める勝利を実現した。一方のハギットは、難関スペアの4-7-10を含む終盤の精度と、決勝の4連続ストライクという連打で、マッチプレー無敗のままタイトルを奪った。
若さが自分を更新し、円熟が勝負を落とさない。リノで起きたのは、単なる優勝結果ではなく、2つの異なる「勝利の設計図」が同時に提示された瞬間だった。