マーク・ベイカーが語る9つの核心質問
〜ドリフト・タイミング・ボール選択まで、安定したスコアを生むための“数学”〜
記事に入る前に、音声による要点解説をお聞きいただくと、内容が一段と理解しやすくなります。
要点音声解説
本要点音声解説は、「The Clean Up Crew」掲載の動画内容を整理・補足して、NotebookLM を用いて生成したものです。
64歳のコーチが見抜いた、ボウリングの本質
「ボウリングは“アート”であり、同時に“数学”でもある。」
64歳を迎えたプロコーチ、マーク・ベイカーはそう語ります。
彼が見てきた数千人のボウラーたちは、スタイルもフォームも異なりますが、共通してひとつの壁にぶつかるといいます。
それが、「自分の数字(ドリフト、立ち位置、スライド、タイミング)」を理解していないこと。
彼の言葉を借りれば、「自分のゲームを知らないまま上達しようとするのは、地図を持たずに航海するようなもの」。
この記事では、ベイカーが実際のQ&A形式で語った9つの質問を掘り下げ、そこから導かれる“安定するための法則”を整理します。
質問1:右利きボウラーは左足と右足、どちらを基準に立つべき?
多くの右利きボウラーが最初に抱える疑問がこれです。
「立ち位置を決める時、基準にするのは左足?それとも右足?」
ベイカーの答えは明確です。
「右足を基準にした方が、自分のドリフトを把握しやすい」。
理由は単純。
左足を基準にすると、スライドの位置が変わるたびに数値が大きくなり過ぎ、ズレの傾向を正確に捉えにくくなるからです。
彼は次のような具体例を挙げます。
「もし20枚目に立って、24枚目でスライドして止まるなら、それは“左に4枚ドリフト”しているということ。
この“4枚”を正しく理解できるかどうかで、ラインナップの安定性が決まる。」
つまり、右足を使えば毎回のドリフト数値を一定のスケールで観測できるため、自己分析の精度が大幅に上がるのです。
理論背景
ベイカーの理論の根底には、「ラインナップ=数学的行為」という考え方があります。
自分のスタートと終点を定義し、そこから角度・ズレ・ヒットポイントを数値として理解する。
その積み重ねこそが、“再現性”を生むのです。
コーチングポイント:
ドリフトとは「ズレ」ではなく「個性の数値化」。
右足を基準にすれば、毎投ごとの違いが数値として見える。
自分の癖を理解することが、一貫したスコアメイクの第一歩。
質問2:プッシュアウェイとステップのタイミングを修正するには?
タイミングはボウリングの生命線です。
しかし多くのボウラーが、「第2歩目でプッシュが遅れる」「助走中にリズムが合わない」と悩みます。
ベイカーはこの質問に対し、“第2歩では測らない”と強調します。
「僕がタイミングを測るのは、スライド足が頭の前で平らになった瞬間だ。
その時にスイングが地面と平行であるべきだ。」
つまり、タイミングとは“スイングと下半身の同期”であり、歩数やリズムの問題ではないのです。
理論背景
彼は長年の研究で、「タイミングを下半身とスイングの一致で測る」ことの重要性を発見しました。
リリースの瞬間に体幹が動かず、全体のバランスが取れている状態こそが“理想のタイミング”。
さらに彼は、トッププロたちの例を挙げて説明します。
「トミー・ジョーンズは極めて早く動く。クリス・バーンズは極めて遅く動く。
だが、スライド足が頭の前で平らになる瞬間、二人のスイングは完全に平行だ。」
つまり、個人差はあっても“最終的なタイミングポイント”は共通しているのです。
コーチングポイント:
プッシュアウェイの速さを変えるより、「スライドとスイングの交点」を意識せよ。
体幹が止まり、スイングが平行になる瞬間が“ベストリズム”。
質問3:ツーハンドでドリフトが7〜10枚あるとき、どこを見て狙えばいい?
この質問はツーハンドボウラー特有の悩みです。
体の向き、スライド位置、そしてターゲットが一致しづらいのがツーハンドの難しさ。
ベイカーは慎重に言葉を選びながら答えます。
「どこを見ろとは言えない。なぜなら、君の“見え方”は他の誰とも違うからだ。」
ツーハンドでは身体の回転軸が大きく、視線がボールの軌道よりも内側または外側にズレてしまう。
そのため、実際に見ている矢印と、ボールが通る位置には差が生まれるのです。
ベイカーは言います。
「君が12を狙っているつもりでも、実際は9を打っているかもしれない。
多くのボウラーは“見ている場所”と“当たっている場所”が一致していない。」
実践法
最も効果的な方法は、「自分のショットを記録する」ことです。
立ち位置・スライド位置・ヒット位置を毎回メモし、自分の体感と実際の結果を照らし合わせる。
このデータこそが“自分のレーン感覚の地図”になります。
コーチングポイント:
他人のラインを真似るより、自分のズレを数字で理解する。
自分の“感覚マップ”を作ることが、ツーハンド攻略の第一歩。
質問4:右利きで左足を使う場合、基準は内側か、甲の上部か?
一見些細な質問ですが、立ち位置の基準は安定感に直結します。
ベイカーの答えは柔軟です。
「どっちでもいい。自分にとって一貫して見下ろせる位置を基準にすること。」
彼自身は「足の真ん中」を基準にしています。
アプローチ上の板目やドットを見下ろしたとき、直感的にズレを把握しやすいのが理由です。
左足の内側でも、甲でも構いません。重要なのは「毎回同じ基準を取れること」。
コーチングポイント:
立ち位置の正解は“自分が再現できる位置”。
「自分の基準を守る」=一貫性を保つこと。
質問5:どの板目がヒットするか、数学的にどう決める?
ベイカーの代名詞とも言えるテーマが「ラインナップの数学化」です。
彼は言います。
「もし君が25にスライドするなら、11.5〜13を狙うべきだ。30なら15.5〜17だ。」
これらの数値は単なる感覚ではなく、膨大な映像データと観察から導かれた“経験則”です。
しかし同時に、こうも付け加えます。
「これは僕の肩幅や体格に基づいた数字だ。
ノーム・デュークの数字をそのまま使えば、僕は自分の足首にボールを当てるだろう。」
つまり、ボウリングの“数学”は個人差を前提にした幾何学なのです。
肩幅、腰幅、腕の長さ、回転軌道――これらのすべてが、最適なラインを変化させます。
コーチングポイント:
「15にスライドすれば7を通る」――この“関数”を自分で作ろう。
体格・スピード・回転数を踏まえ、自分の幾何学を記録すること。
質問6:ドリフトはプレーゾーンによって変化する?
答えは明快です。
「変わる。むしろ変わって当然だ。」
ベイカー自身も、右側を攻めるときはドリフトが大きく、内側に入るほど小さくなったと語ります。
なぜか。
外を攻めるときは角度を作る必要があるため、自然に右(または左)へ歩く距離が増えるからです。
逆に内側では、角度を抑えるためにドリフトは減少します。
彼は歴代プレーヤーを引き合いに出しながら説明します。
「ウォルター・レイやフェラロは右へのドリフトを使って外を支配した。
マーク・ロスやホーマンは左へのドリフトで内を支配した。」
つまり、ドリフトは攻め方の証であり、“悪い癖”ではないのです。
コーチングポイント:
ドリフトは修正すべきではなく、理解して使い分けるもの。
自分がどのゾーンでどんなドリフトをするかを、動画と記録で把握しよう。
質問7:「強いボール」とは何を意味するのか?
多くのボウラーが勘違いしています。
「強いボール=より曲がるボール」。
ベイカーはこれを否定します。
「強いボールとは“より早く転がり始めるボール”のことだ。」
つまり、摩擦を早く捉え、レーンのエネルギーを早期に使い始めるボールを“強い”と呼びます。
そのため、フレッシュなオイル状態では強いボールが有効ですが、レーンが乾いてくると逆効果になります。
そのときは“遅く拾う”タイプ(滑り系)のボールに切り替える必要があります。
コーチングポイント:
「強い=早く転がる」。「弱い=遅く拾う」。
レーンの変化に応じて“拾うタイミング”を調整するのがプロの戦略。
質問8:親指の上にオイル跡が出るのはなぜ?
これはボールの回転軌道が誤っているサインです。
「それはボールが親指穴を通って転がっている証拠だ」とベイカーは説明します。
原因は主に2つ。
バックスイングで回転を早くかけすぎている
リリース時に親指を“フリップ”させすぎている
結果として、ボールのトラックがフルローラーのように親指の上を通ってしまうのです。
この問題は単なるフォーム修正だけでは難しく、プロショップでのドリル調整が効果的です。
ピッチ角度やスパン変更で、ボールの回転軌道を正しい位置に戻すことができます。
コーチングポイント:
オイル跡は“レーンの手紙”。
どこに跡が出るかでフォームが見える。
早期回転とフルローラー傾向は要注意。
質問9:右利きツーハンドでドリフトが全くないのは大丈夫?
ベイカーの表情は少し真剣になります。
「それは非常に珍しい。良いツーハンドほど、少し外に歩くものだ。」
ツーハンドの核は、「左肩を右ヒップの内側に入れる」こと。
この動作を可能にするためには、3歩目で身体を外に開く“ドリフト空間”が必要です。
もしドリフトが全くなければ、肩の回転スペースがなくなり、スイング軌道が内に詰まりやすくなります。
結果として、スピードも回転数も落ち、精度が下がる可能性があります。
彼はさらに語ります。
「シムソンとベルモンテ、歴代最高の二人は、どちらも3歩目で左肩が右ヒップを通過していた。
その動きが精度と威力を両立させていた。」
コーチングポイント:
“まっすぐ歩く”は正確ではない。
正しいドリフトが、ツーハンドの回転空間を作る。
ボウリングは「数学」であり、「人生」でもある
マーク・ベイカーが教えるのは、単なるフォーム論ではありません。
それは「自分のボウリングを理解する力」です。
ドリフトを測るのも、タイミングを合わせるのも、数字を記録するのも、
すべては自分を知るための作業。
その積み重ねが、一貫した投球と信頼できるリズムを生むのです。
彼の言葉を借りれば、
「レッスンとは、君のパズルにピースを返すことだ。
完成した絵は“君自身のボウリング”なんだ。」
ボウリングを単なる技術競技ではなく、
“自己理解のスポーツ”として再発見する――
それがマーク・ベイカーの本質的なメッセージです。