
トロイ・リント、奇跡のカムバック
PBA50ツアーに再び挑む左腕の物語
かつての栄光とその後の試練
2023年のPBA50ツアーは、トロイ・リントにとって生涯忘れられないシーズンとなりました。シニア全米オープンとモーガンタウンクラシックの2大会で優勝し、最終的にPBA50年間最優秀選手(Player of the Year)に輝いたのです。痛めた右膝と闘いながらも、6度のトップ5入りを果たし、すべての大会で脅威となる存在であり続けました。
しかし、栄光の裏では過酷な現実が待っていました。痛みを和らげるためにあらゆる手段を講じたものの、最終的には手術を決断。ボウリングという情熱を取り戻すための苦渋の選択でした。
絶望からの再出発、支え合うコミュニティの力
2024年5月22日、リントはジョニー・ペトラーグリアBVLオープンに出場し、開幕戦でトム・ヘスを破るも、次戦でジョン・ジャナウィッツに敗北。この大会を最後に、彼の姿はツアーから消えました。その後、リントはさらなる手術やリハビリの停滞、そして精神的な限界に直面します。
2025年1月、彼は親しい友人たち――クリス・バーンズ、アンディ・ノイヤー、ライアン・シェーファーらに対して、「もうボウリングはできないかもしれない」と告白。歩行すら困難な状態になっており、医師との会話では、怒りと失望が爆発寸前だったといいます。
「7か月前は投げられていたのに、今は何もできない」
この絶望の中で転機となったのが、理学療法士との出会いです。リントが「何ができて何ができないか話していいか?」と問いかけたところ、理学療法士はこう返します。
「あなたを直せると思う」
この言葉にリントは賭けました。2024年12月17日から、彼は週6日のジム通いと週3回のリハビリを開始。食事管理にも取り組み、結果的に約22.7kgの減量と約13.6kgの筋肉増加に成功しました。並大抵の努力ではありません。さらに追い討ちをかけるように、最愛の母の死という悲しみも経験しました。
それでも彼は決して諦めませんでした。「崩れ落ちそうな時もあったが、自分の性格上、あきらめることはできなかった」と語ります。彼を支えてくれたのは、ペンシルベニア地元の仲間たち、そしてPBA50ファミリーでした。
ライアン・シェーファー(ツアーのルームメイト)
ジェイソン・カウチ(同じく膝の手術を経験)
パーカー・ボーンIII、ダン・ノートン、マイケル・ハギット、クリス・バーンズ など
これらの名だたる選手たちが、リントに「あなたは仲間だ」と語りかけてくれたことが、心の支えになったといいます。
「ボウリングコミュニティは、まるで家族のようだ」
そう語るリントにとって、彼らの存在は何よりの励みとなりました。
復帰戦の舞台、サウスショアクラシック
そして2025年6月26日、彼はついに約14か月ぶりにPBA50ツアーへ復帰。サウスショアクラシックでの予選では、24ゲームで平均219という安定した成績を記録。7ゲームの予選ブロックを2日間連続で1591ピンとし、13位でフィニッシュしました。
「最高の2日間だった。興奮しすぎて、エネルギーを使いすぎている気がする」
このコメントからもわかる通り、彼の喜びと達成感は計り知れないものでした。高いバックスイングと、ボウリングを楽しむ姿勢が完全に戻ってきたのです。
再びタイトル争いへ、PBA50 WSOB IIIが開幕
そしていよいよ、2025年7月10日からPBA50ワールドシリーズ・オブ・ボウリングIII(WSOB III)が開幕。リントは再びタイトル争いの中心人物として注目されています。
本大会は以下の構成となっており、計5つのタイトルが懸けられています。
バラード選手権(7月10日〜)
モナチェリ選手権
ペトラーグリア選手権
ホルマン選手権(新設)
ワールド選手権(7月18日〜)
各選手権では8ゲームの予選が行われ、上位16名が5ゲーム制のマッチプレーに進出。さらに、4大会合計32ゲームのスコアがワールド選手権の出場資格を決定します。ワールド選手権では、ラウンドロビン方式の18ゲームとステップラダー決勝が実施され、真のチャンピオンが決定します。
昨年のWSOB IIでは、クリス・バーンズ、トム・ヘス、ジョン・ジャナウィッツ、マリオ・キンテロらがタイトルを獲得しました。今年もBowlTVで全試合がライブ配信される予定です。
そして今、トロイ・リントの名前が再び注目されているのです。
「雲の上にいる気分だ」
奇跡のようなカムバックを果たした男が、再び頂点を目指してレーンに立ちます。その一投に、これまでの努力と情熱が込められています。
ボウリングが好きなすべての人に、この感動をぜひ見届けてほしい。トロイ・リントの物語は、まだ終わっていません。