
再び氷の男へ ─ イェスパー・スヴェンソン、復活の軌跡
静かなる闘志が燃え上がるとき
2025年4月、PBAトーナメント・オブ・チャンピオンズ(TOC)のプロアマ戦で、ボウリング界は再び“氷の男”イェスパー・スヴェンソンの名を口にすることとなりました。
無表情で知られるスウェーデン人プレイヤーが、かつての輝きを取り戻す瞬間を迎えたのです。若手の台頭や長引く不調に苦しみながらも、スヴェンソンは自らの存在価値を再び証明しました。
伝説の再点火:スヴェンソンの過去と現在
■ 神童と呼ばれた日々:18歳未満での快挙
2013年、わずか17歳で出場したWBTブランズウィック・ボールマスター・オープンで、アマチュアながら優勝。これがスヴェンソンという名前が世界に知られるきっかけでした。
続く2015年、正式にプロ入りすると、いきなり2勝を挙げて新人王を受賞。翌2016年には史上最年少でTOCを制覇し、21歳までに5勝を達成するという前人未到の記録を打ち立てました。
「勝つ運命にあった」と自信を語った彼の言葉は現実に。 その姿勢と冷静さから、彼は“The Iceman(氷の男)”という異名を手にします。
■ 光を失った5年間:勝てなかった理由
2020年のインディアナポリスでの連勝を最後に、スヴェンソンは勝てない時代に突入します。
特に顕著だったのがテレビ放送される決勝戦での不振。2020年以降、アメリカ本土でのTVタイトルはゼロという苦しい時期が続きました。
彼が苦しんでいたのは“最後の数インチ”です。勝負どころで何度も、7番ピンや10番ピン、さらには6-8-10のスプリットといった厄介な残り方が頻出。
実際、過去2年間のTV放送ゲーム22試合で、28回も7番ピンを残すというデータが残っています。これは精神的にも技術的にも大きな負担です。
■ 精神力との戦い:父親として、選手として
「長く結果が出ないと、自分を信じるのが難しくなる。でも今は父親として、もっと広い視野でボウリングと向き合っている」とスヴェンソンは語ります。
家庭を持ち、娘の成長を見守る日々の中でも、彼はアスリートとしての責任と向き合い続けました。
スヴェンソンは2025年シーズン開幕から5大会連続で決勝進出ならず。マイク・オルビー・ネバダ・クラシックで5位に入るも、優勝には至りませんでした。
WSOBでも5大会すべてでマッチプレーには進出したものの、世界選手権では決勝進出まであと2ピンと涙をのむ結果に。
■ 転機となったTOC:リヴィエラでの再生
そんな中迎えたのがPBA TOC 2025。スヴェンソンはプロアマ戦で好調の兆しを見せ、本戦でも全ラウンドで5位以内を維持。
かつてのライバル、EJ・タケットが予選最終ゲームでパーフェクト(300)を出して首位に立つと、スヴェンソンも翌ラウンド初戦で300点を記録し、即座にリードを奪い返しました。
「EJが乗ってくると手強い。でも今の僕も同じくらい怖い存在だと彼は思っているはず」と語ったスヴェンソンは、圧倒的な集中力で優勝を勝ち取ります。
さらにその勢いのまま、PBAプレーオフでも勝利を収め、2024年の借りを返すという形でシーズンを締めくくりました。
氷は溶けていなかった──スヴェンソンの新たな伝説
かつての神童は、30歳になってもなお、レーン上の支配者であり続けることを証明しました。
長く続いたスランプの中で自己と向き合い、家庭と競技を両立しながら、最後には「勝つ男」に戻ったのです。
若手の成長が著しい現代PBAにおいて、スヴェンソンのような選手が自らの物語を再び紡ぐ姿は、多くのファンや後進に勇気を与えるでしょう。
伝説とは、才能だけでなく、苦しみと向き合った先にある。 そして今、イェスパー・スヴェンソンは、その新章の主人公として立ち上がったのです。