ボウリング上達の鍵は“バランス”と“タイミング”にあり
Mark Bakerの最新コーチングセッションから学ぶ
ボウリング界で高く評価されるコーチ、Mark Bakerが率いるトレーニングセッションが、West Pacで再び開催されました。今回は、彼が育ててきたプレイヤーたちの現状をアップデートしつつ、個々の課題と成長を深掘りする内容となりました。
【1】ボウリングはジグソーパズル
マーク・ベイカーコーチの語る「ボウリングとはジグソーパズルである」という考え方は、非常に深い示唆を含んでいます。私たちがジグソーパズルを組み立てるとき、最初に行うのは何でしょうか?そう、枠(フレーム)を作ることです。四隅と外枠がはっきりしていなければ、真ん中の複雑なピースは収まりようがありません。
ボウリングも同じです。ベイカー氏は、この“枠”にあたる4つの要素をこう定義します:
バランス(Balance)
タイミング(Timing)
正確性(Accuracy)
一貫性(Consistency)
この4要素がきちんと揃って初めて、投球という「ジグソーパズル」の中核、つまり“リリース”が正しくはまり込むのです。
しかし、現実には多くのボウラーが「真ん中(リリース)」から直そうとします。これはまるで、枠ができていないのに難解な中央のピースから組もうとするようなもの。結果として、ピースははまらず、混乱と迷いを生むばかりです。
■ マーカー(Markers)という“個人の目印”
さらにベイカー氏が重視しているのが、“Markers”と呼ばれる個人ごとの「目印」や「感覚の再現性」です。これは、ある選手が良い投球をしたときに無意識に感じている感触やタイミング、動作の流れを意味します。
彼は言います。「他人のマーカーは使えない。自分自身のマーカーを見つけることこそが、最も価値ある作業だ」と。つまり、正解は人によって異なるという前提で、一人ひとりの身体感覚に応じた“鍵”を探し出すのがベイカー式の指導法なのです。
このマーカーを見つけることで、ボウラーは安定して再現性の高い投球が可能になります。たとえば「バックスイング時の手首の角度がちょうど良かった時は、その後もタイミングが崩れない」など、些細な感覚でも重要なヒントとなるのです。
■ 「リリースは最後のピース」
ジグソーパズルの最後の1ピースがカチッと収まると、全体の絵が完成します。それと同じように、リリースは投球動作の最後のピースであり、それが「はまる」ためには前段のすべてが整っている必要があります。
ベイカー氏いわく、「リリースの正確性は、前の40フィートの動きの集大成にすぎない」。つまり、滑らかなスイング、正しいタイミング、揺るがないバランスが揃っていれば、リリースは“勝手に良くなる”のです。
この発想を持てば、「リリースで何とかしよう」とする無理な動きは消え、むしろ自然に手放すような滑らかさが生まれます。それがボールに理想的な回転を生み、安定したラインを描き、ピンを正確に撃ち抜くのです。
【2】タイミングがすべて:スイングと足の連携
ボウリングというスポーツは、力強さやスピード以上に、「タイミング」が命です。マーク・ベイカー氏は、あらゆる技術の根幹にこの“タイミング”があると考えています。どんなに素晴らしいリリースを持っていても、スイングとステップのタイミングがずれていれば、その力を発揮することはできません。
■ 自分は“遅い”と思い込んでいるボウラーたち
興味深いのは、多くのボウラーが「自分のタイミングは遅れている」と感じているという事実です。実際にベイカー氏が2,000人以上を指導した中で、「本当に遅れていた」のは年間で5人程度。ほとんどの人は実は“早すぎる”のです。
これはどういうことかというと、スイングが早く始まりすぎて、下半身との連携が取れず、上半身だけが前のめりになってしまっている状態を指します。スイングが早いと、最後の一歩(スライド)で体が急停止しなければならず、結果としてリリースが乱れ、ボールの軌道も不安定になります。
■ プッシュアウェイ神話からの脱却
多くのコーチや教本では、「プッシュアウェイ(最初の手の出し始め)でタイミングを測る」と教えます。しかしベイカー氏はこの方法を否定しています。なぜなら、有名なプロボウラーたちの間でも、プッシュアウェイのタイミングはまちまちで、そこを基準にしても本質的な共通点が見つからなかったからです。
代わりに彼が採用したのが、「スライド足が地面に着くときのスイング位置を基準にする」方法です。これはプロの動作を多数解析した結果、最も正確で再現性が高かったポイントでした。
この時、腕が自然に下がり、手のひらが体に対して最適な位置にあれば、タイミングが合っている証拠。逆に、その位置がズレていれば、スイング全体がズレているという判断ができます。
■ タイミングが合うと「時間が生まれる」
ベイカー氏がよく引用する名言に、ビル・オニール選手の言葉があります:
“When I’m in time, I have time.”
(タイミングが合っていると、時間が生まれる)
これはとても示唆に富んだ表現です。タイミングが合えば、無理に力を入れる必要もなく、リリースまでに余裕ができる。その余裕が、判断力・安定性・手の感覚すべてに良い影響を与えるのです。
実際にタイミングが取れた状態では、ボウラーは「ゆっくり投げている」と感じることが多いのですが、ビデオで見ると全く遅くありません。むしろ、スムーズで力みのない投球になっているのです。
■ よくあるズレのパターン
タイミングがズレる原因はいくつかあります:
スイングが先行して、足が後追いになる(=早すぎる)
逆に足が先に出すぎて、スイングが追いつかない(=遅すぎる)
リズムの中で4歩目(特にパワーステップ)が曖昧になる
投球中の“助走”が速くなりすぎてスイングが間に合わなくなる
これらを修正するには、「自分の歩幅」「スイングの頂点」「ステップごとのリズム」を見直す必要があります。特に2ステップ・3ステップ目で焦って加速しすぎると、4歩目が短くなり、“無理に投げる”フォームに陥りやすくなります。
■ タイミングを整えるドリル例
ステップの数を制限してスイング練習(3ステップドリル)
メトロノームや足音に合わせて一定のリズムで歩く
「手と足を会話させる」イメージを持つ
動画でスライド足とスイングの関係をチェックする
タイミングが合ったときのボウリングは、まるで自動運転のような感覚で「勝手にボールが走っていく」印象になります。そしてその状態こそが、ミスを最小限にし、パフォーマンスを安定させる最大の秘訣なのです。
【3】リズムとバランス:投球の土台
ボウリングの動作全体を安定させるための「基礎の基礎」となるのが、リズム(rhythm)とバランス(balance)です。この2つは見落とされがちですが、フォームを支える柱のような存在であり、すべてのショットの質と安定性に直結します。
マーク・ベイカーコーチは、「バランスはボウリングで最も地味で退屈なトピックだけど、最も効果的な改善ポイントだ」と明言します。ここでは、その意味を具体的に掘り下げていきます。
■ リズムとは「動きの流れ」
リズムとは、ステップからスイング、リリースに至るまでの一連の動作の“テンポ”と“流れ”を指します。
例えば、メトロノームのように一定のテンポでステップを刻み、そこに自然とスイングが乗ってくる状態が理想です。このとき、ボウラーは“動かされている”ような感覚を覚え、無理なくスムーズにボールを運ぶことができます。
しかし多くのボウラーは、「速くしよう」「強く投げよう」という意識から、リズムを崩してしまいます。リズムが早すぎると動きがせわしなくなり、スイングやステップが追いつかなくなります。逆にリズムが遅すぎると、途中で力が抜け、ボールに力を伝えられません。
■ バランスとは「姿勢の安定」
バランスは、文字通り投球時の身体の安定を指します。特に重要なのは、リリース直後の姿勢です。
理想的な投球では、リリース後も身体がぐらつかず、片足で静止できるほど安定している状態が望ましいです。この「フィニッシュポーズ」を見れば、ボウラーのフォームが安定しているかどうかは一目で分かります。
ベイカー氏は、「バランスが良ければ、腕のスイングも自然と正しい方向に出る」と語ります。逆に、スイング中に体がブレると、腕の振りも変わり、結果としてリリースや回転、スピードまでも狂ってしまいます。
■ リズムとバランスの関係:音楽のような一体感
リズムとバランスは切り離せません。正しいリズムがあれば、自然とフィニッシュまでの流れが整い、バランスも良くなります。
逆にリズムが悪いと、スイングやステップのどこかに“無理”が生まれ、それがフィニッシュ時に現れます。たとえば:
スイングが早すぎて、体が前のめりになる
ステップが急すぎて、投球後に体が傾く
途中で加速/減速して、タイミングがズレる
これらはすべてリズムの乱れによるバランス崩壊です。
ベイカー氏は、「最初の4~5球で力まず、自然に立って、自然に投げることができたなら、それが“理想の自分”であり、そこに戻ってくることが成長だ」と指導します。
■ リズムとバランスを育てる練習法
● 1. スローモーション・ステップ練習
ステップとスイングをスローで行うことで、リズムのズレに自覚が生まれます。
● 2. フィニッシュ静止確認ドリル
投球後、3秒間その場で止まることを意識して投げる。ふらつかないかチェックする。
● 3. 鏡または動画チェック
自分の投球をスマホで撮影し、リリース後の姿勢やステップの流れを確認。
● 4. 音を使った練習(足音 or メトロノーム)
歩行リズムを音に合わせることで、スイングの流れと一致させやすくなります。
■ プロの動作に見る「理想的リズムとバランス」
EJタケットやビル・オニール、リズ・ジョンソンなど、世界トップレベルの選手に共通しているのは、「どの投球も同じに見える」こと。これは彼らのリズムとバランスが極めて安定しているからこそ可能なのです。
すべての良いショットは、「無理のない動き」から生まれている。だからこそ、ベイカー氏は言います。
「良いショットを見ても、腕の動きは覚えていない。
悪いショットのときだけ、腕の不自然な動きが目立つ。」
これはつまり、リズムとバランスが整っていると、動きが“意識されないほど自然になる”という証明です。
■ 結論:「静かに投げる人ほど上手い」
派手なスイング、豪快な音、ダイナミックな動き。これらは確かに目を引きますが、安定して高スコアを出すボウラーの多くは、むしろ静かに、淡々と、再現性の高い動きを続けています。
リズムとバランスが整っているフォームは、静かで、美しく、何より強いのです。
【4】正確性が先、パワーは後
~力よりコントロールがボウリングを支配する~
ボウリングにおいて「パワー」は魅力的な要素です。ボールがピンをなぎ倒す衝撃音や、ピン飛びの派手さに多くの人が魅了されます。特に現代では2ハンド投法の登場により、高回転・高スピード=強いボウラーというイメージが一層広まりました。
しかし、マーク・ベイカー氏はこの常識を覆します。彼が繰り返し説いているのは、「正確性があって初めて、パワーが意味を持つ」という基本原理です。
■ 正確性のないパワーは、ただの“暴走”
どれほど高回転・高スピードの投球ができたとしても、狙った場所にボールを通せなければスコアは安定しません。ベイカー氏の言葉を借りれば、それは「350ヤード飛ばすゴルファーが、フェアウェイに1回も乗らないようなもの」です。
ピンアクションは、正確にポケットを突くことが大前提。パワーはその次の“増幅装置”であり、方向性がなければ何の役にも立たないどころか、かえってリスクになります。
■ レーンのゾーニング理論:「45フィートの法則」
マーク・ベイカー氏がよく使う理論に、「レーンは45フィートの道」というものがあります。この45フィートを次の2つに分けて考えます:
前半40フィート:正確性が求められるコントロールゾーン
後半5フィート:回転とパワーが活きるリアクションゾーン
つまり、約90%の距離は「真っ直ぐ進める能力」が問われ、残りの10%だけがボールの“暴れ”によってピンを飛ばす場所なのです。
このバランスを誤解して、「パワー=勝利」と考えてしまうと、練習すべき順序が逆になります。
■ 2ハンド vs 1ハンド:役割の違い
ベイカー氏の観察によれば、2ハンドボウラーの多くは、すでに優れたリリースと回転数を持って現れます。したがって、彼らが強化すべきは「バランスと一貫性」。一方で1ハンドボウラーは、パワーの獲得を目指す前に「タイミングと正確性」を磨く必要があります。
特に1ハンドの場合、無理に力を入れて回転を増やそうとすると、タイミングが崩れ、結果としてパフォーマンスが下がってしまうのです。
■ パワーを得るためには「余裕」が必要
タイミングが合っておらず、フォームが不安定な状態では、どれだけ腕力があっても正しい場所に力が伝わりません。
これは、滑りやすい床でジャンプしようとしているのと同じです。どれだけ脚力が強くても、踏ん張れなければジャンプはできません。ボウリングでも、しっかりと安定した土台(=正確性とバランス)がなければ、パワーは空回りします。
■ ボールの「入り方」がすべてを変える
ベイカー氏は、「パワーよりも“ボールの入り方(角度と位置)”が重要」と繰り返し述べます。
たとえば、やや回転の少ないボールでも正確に6〜8度の入射角でポケットに入れば、ストライクになる確率は非常に高い。逆に、強烈に曲がっていても角度が合わなければ、ピンは残るのです。
この「正確性→ストライク確率アップ→その後にパワー」という流れを理解することが、スコア安定への近道です。
■ 正確性を先に磨く練習法
● スポットターゲット練習
1枚単位で狙ったボードにボールが通るかを徹底確認。ピンではなく“手前のスパット”に集中。
● バランスチェック付き投球
投球後に静止できるかをチェックし、フォームがブレていないかを検証。フォームの安定が、正確性の源です。
● 「音で判断する」練習
ピンヒット音だけでなく、レーンを転がる音が一定かを確認する。ズレていると、音も不安定になります。
■ パワーを“後から乗せる”コツ
正確性が安定してきた段階で、次に意識すべきは「力を入れる場所を限定する」ことです。
腕に力を入れすぎず、スイングは自然に落とす
最後の瞬間(リリース直前)だけ、回転を加えるイメージで指先を意識
「押す」のではなく「手を放す」感覚で、自然な回転を生む
これによって、力んでいないのにピンが飛ぶ“理想のパワー”が実現されます。
■ 結論:安定した正確性は、最大の武器になる
マーク・ベイカー氏の言葉を借りれば、「正確性こそが最強のパワー」です。
どんなにボールが曲がっても、どんなに速くても、ポケットを外しては意味がありません。だからこそ、パワーに目を奪われる前に、まず「1投1投の正確性」にこだわる。それが、プロのように“静かにスコアを積み上げる”ボウラーへの第一歩です。
【5】フォームと姿勢:胸とスイングの一致
~「向いている方向にボールは行く」という真実~
フォームの美しさや効率性を語るとき、私たちはつい腕の動きや膝の曲げ具合、スライド足の残し方といった「部分」に注目しがちです。しかし、マーク・ベイカーコーチはもっと本質的な視点を提示します。
それは、「胸の向きがスイングを決める」というものです。これは非常にシンプルですが、多くのアマチュアボウラーが見落としている極めて重要な原理です。
■ ボールは“胸の向き”に引っ張られる
ボールのスイング軌道を決めているのは、手や腕ではありません。もっと大きな部位、つまり胸(胸郭)です。
胸が向いている方向に対して、自然なスイング軌道はそこから真っすぐに下ろされ、リリースされます。逆に言えば、胸が右を向いたまま体だけ左を向けようとした場合、スイングはねじれ、リリース時にブレやすくなります。
ベイカー氏の言葉を借りれば、
「どれだけ足を左に向けても、胸が右を向いていれば、スイングは右に出る。
ブレイクポイントに胸を向けてから歩き出すべきだ。」
つまり、スタンスや足の位置を変えても、「胸の向き」が整っていなければ、最終的にボールが向かう方向は安定しないのです。
■ 肩ではなく「胸のプレート」を意識せよ
よくあるフォームのアドバイスとして「肩を開かない」「肩をターゲットに向ける」といった表現があります。しかし、肩は可動部位であるため、意識しすぎると無理な力みや不自然な開きが生まれやすいのです。
そこでベイカー氏が重視するのが、「胸のプレート」。つまり胸骨の中心がどこを向いているかを意識すること。これは肩よりも安定した基準となり、スイング全体の基軸として非常に有効です。
実際にプロボウラーの投球をスローで見ると、彼らの胸は常に「目指すブレイクポイント」に対して正確に正対しており、その延長線上で腕が自然にスイングしています。
■ スイングの軌道はフォームの“副産物”
スイングの軌道を矯正しようと、腕や手首の動かし方に集中してしまう方は多いですが、それは“結果に対して直接アプローチしている”にすぎません。
本当に重要なのは、
胸がどこを向いているか
上半身と下半身の連動が取れているか
体幹がどれだけブレていないか
です。これらが整えば、スイング軌道は自然と正しいラインを描きます。
特にスイング中の“体のねじれ”や“腕のクロスオーバー”が多い人は、胸の向きとステップの方向が一致していないケースがほとんど。これを直すことで、スイングは驚くほどスムーズになります。
■ 「指先とつま先理論」:理想の放物線
ベイカー氏がしばしば口にするのが、「ボールは“指先とつま先”の延長線上に放たれるべきだ」という考え方です。
これはつまり、リリース時に手の位置(指先)が身体の軸上にあり、投球の流れが脚部(つま先)と一致している状態が理想だということ。具体的には:
ボールが体から離れすぎていない(= 引きすぎ・押しすぎの回避)
スイングが真下からスムーズに出て、フィニッシュ時に肩の真下に収まっている
スライド足のつま先がしっかりターゲット方向を向いている
これらが揃っていれば、回転もスピードも、無理なく“身体の流れの中”で生まれます。
■ 誤解されやすいフォームの落とし穴
初心者〜中級者に特に多いのが、「スイングは肩でコントロールするもの」という誤解です。これにより以下のような問題が起こります:
肩を開きすぎて引っかける
胸を残しすぎてリリースが遅れる
スイングが横ぶれし、回転軸が不安定になる
こうした問題の多くは、胸とスイングの“ズレ”が原因です。体の軸と腕の動きが一致していないため、毎回スイング軌道が微妙に違ってしまい、再現性のある投球ができません。
■ 改善ドリル:胸とスイングの同期を身につけるには?
● フロントミラー練習
鏡の前に立ち、胸をターゲットに向けたまま、スイング動作をゆっくり確認する。
● スロースイングドリル
ステップを極端にゆっくり行い、胸の向きとスイングが一致しているかを意識する。
● フィニッシュチェック
投球後、リリース位置・肩・つま先・胸がターゲット方向に揃っているかを確認。
■ 結論:向いている方向にしか、ボールは行かない
フォームの中で、目には見えにくく、しかし最も大きな影響を与えるのが「胸の向き」です。どれだけスイングを整えても、身体全体がズレていれば、その効果は半減します。
スイングと胸の向きが一致しているとき、ボールは最も自然に、最もスムーズに、そして最も正確に走ります。だからこそ、胸を意識することこそが、正確なボウリングフォームへの第一歩なのです。
【6】メンタルと自信:すべての根本
~技術を活かすのは、最後は「心」~
マーク・ベイカー氏が「自信はスポーツで最も教えるのが難しい」と語るように、ボウリングという競技においてメンタル(精神面)は極めて大きな影響を持ちます。
私たちは、フォーム、スイング、ボール選びなど技術的な話題に集中しがちですが、どれだけ技術が高くても、心が不安定であればその力を発揮することはできません。
このセクションでは、ボウリングにおける「自信」と「心理状態」が、なぜスコアや再現性に直結するのかを詳しく見ていきます。
■ 自信があるときは、すべてが自然に見える
ボウラーが自信を持って投げているとき、フォームはしなやかで、動きには無理がなく、リリースは滑らかです。そして最も重要なのは、「何をすべきかを“迷っていない”」ことです。
たとえば:
ボールを変えるべきか?
立ち位置を動かすべきか?
スピードを上げるべきか?
これらの判断が迷いなくスムーズに行えるとき、ショットには自然なテンポと確信が伴います。逆に、考えすぎたり、過去の失投を引きずっていたりすると、動作に「ためらい」や「躊躇」が混じり、結果としてミスに繋がります。
■ 自信は技術の再現性を高める“潤滑油”
自信は、技術を機械的に再現するための“潤滑油”です。タイミング、スイング、リリースという一連の動作は、頭で考えるのではなく、感覚として身体に染み込ませるものです。しかし、心が不安定な状態では、こうした“感覚の流れ”が断ち切られてしまいます。
たとえば「この場面は絶対にストライクを取らなければならない」とプレッシャーを感じてしまったとき、多くの人はスイングスピードを変えたり、握りを強めたりしてしまいます。結果的に、それまで積み上げてきたリズムとタイミングが崩れ、ミスショットへとつながります。
■ ボウリングは「静かな自信」がものを言うスポーツ
マーク・ベイカー氏は、自信のある選手の動きをこう表現します。
「彼らの投球は静かだ。慌てることなく、何かを証明しようとせず、
自分のやるべきことを、淡々とやっている。」
これはまさにトッププロの特徴でもあります。テレビの大舞台でプレッシャーが最大になる場面でも、EJ Tackett や Jason Belmonte のような選手は、1投1投に余分な力が入っていません。
それは、自分の力を信じているからこそできる「省エネ型の集中力」なのです。
■ 自信を失いやすい“4つの罠”
ベイカー氏の指導の中で、選手が自信を失う原因として多いのが以下の4つです:
直前のミスを引きずる(後悔)
他人の目線やスコアを気にしすぎる(比較)
「うまくやらなきゃ」と自分を縛る(過剰な目標意識)
投球前に考えすぎる(情報過多)
これらはすべて「今ここ」に集中する意識を分散させてしまい、自信を揺らがせます。大切なのは、1投ごとの“リセット”能力と、「自分で決めたことに責任を持つ」覚悟です。
■ 自信を築く3つのステップ
● 1. 成功体験を「記録」する
良いショットをしたときの感覚、立ち位置、ボール選択を記録することで、“再現可能な自信”の材料が蓄積されます。
● 2. 投球ルーティンを確立する
プロがルーティンにこだわるのは、「心を整える儀式」だからです。投球前のルーティンが安定していれば、精神的なブレも少なくなります。
● 3. 「やるべきことはやった」と思える準備
準備不足は最大の不安要素です。逆に「やるだけのことはやった」と思えれば、自信は自然と生まれます。
■ 最後は「信じる」ことが勝敗を分ける
マーク・ベイカー氏は、選手の技術的課題をすべてクリアしたあと、最後に語るのは「心の話」です。彼のレッスンで何度も出てくるフレーズ:
“If you believe in your shot, it has a chance.
If you doubt it, it’s over before you let it go.”
(自分のショットを信じれば、成功の可能性がある。
でも疑った時点で、もう終わっているんだ。)
つまり、技術を高めるだけでは不十分。それを信じて使える自分であるかが、最終的に結果を左右するのです。
■ 結論:うまいボウラーは、まず「自分を疑わない」
自信は一朝一夕で築けるものではありません。しかし、それがあるかないかで、同じフォーム、同じ回転数でも、出る結果はまったく違ってきます。
だからこそ、ボウラーにとって最も大切なのは「自分を信じる能力」。フォームのチェックと同じくらい、自分の心の状態をセルフチェックする習慣を持つことが、真の上達につながるのです。
【7】ボールリアクションとレイダウンの理解
~“見た目”にだまされず、ボールの本当の動きを読む力~
「今のショット、あんまり曲がらなかったな」
「このボール、奥が甘い気がする」
そう感じたことはありませんか?でも実は、その“感覚”が間違っていることがよくあるのです。
ボウリングにおいて、ボールのリアクション(軌道の変化)を正しく理解することは、武器の性能を最大限に引き出すための必須スキルです。そしてその鍵になるのが、「レイダウン位置」と「ブレイクポイント」の正確な把握です。
■ レイダウンとは「ボールが実際に接地した地点」
レイダウン(Laydown)とは、ボールが最初にレーンに接地した位置のことを指します。これを正確に認識できるかどうかで、その後のボールの軌道判断が大きく変わってきます。
多くのアマチュアは、「スパット(目印)」や「ブレイクポイント(曲がり始める位置)」には意識を向けるものの、実際にボールをどこに置いているかについての認識があいまいです。
しかしベイカー氏は、次のように警鐘を鳴らします:
「ボウラーは“見えるところ”ばかり見て、ボールの“始まり”を見ていない。
曲がらなかったのではなく、“最初から右に出しすぎていた”ことに気づいていないだけだ。」
■ 「見える曲がり」と「実際の曲がり」は違う
ボールリアクションには、大きく分けて3つのフェーズがあります:
スキッド(滑走) – 投球直後の直進ゾーン
フック(曲がり) – 摩擦がかかり軌道が変化する部分
ロール(転がり) – 回転方向と進行方向が一致し、ピンに向かって進む状態
特に2番目の「フック」部分ばかりを見て、「このボールはよく曲がった/曲がらなかった」と判断するのは非常に危険です。
実際には、たとえば次のようなことが起きています:
A)滑走距離が長くて、奥で急激に向きを変えたボール
→ よく曲がったように見えるB)早く曲がり始めて、奥で動きが小さいボール
→ あまり曲がっていないように見えるが、実はたくさんのボードをカバーしている
つまり、ボールがどれだけの“横幅(ボード数)”を移動したか=本当の曲がり量であり、視覚的なインパクトと必ずしも一致しないのです。
■ ボード数で測る「実際の移動距離」
ベイカー氏のレッスンで印象的なのが、「数学的に軌道を可視化する」考え方です。
たとえば:
レイダウン:18ボード(アプローチの右側)
ブレイクポイント:6ボード(フッキングエリア)
ポケット進入時:17ボード
この場合、レイダウンからブレイクまでで12枚、ブレイクからポケットまでで11枚、合計23枚分の横移動が起きている計算になります。これは、実際には“よく曲がっている”部類に入ります。
目で見ただけでは「直線的に見えた」ショットでも、ボールはしっかりと横方向に動いているのです。
だからこそ、“曲がったかどうか”は主観ではなく、数字と軌道で判断すべきだというのがベイカー氏の持論です。
■ ブレイクポイントを見抜く力
ブレイクポイント(曲がり始める地点)を正確に把握するには:
レーンの摩擦ゾーンを理解すること
スピード・回転数・ボールの表面特性を知っておくこと
立ち位置やアングルとブレイクの関係を体感すること
が重要です。
特に、フレッシュオイルの状態ではボールが奥まで滑るため、「曲がりが弱い」と錯覚しがちですが、ブレイクポイントが奥にズレているだけというケースも多いのです。
また、同じボールでも、投球速度が上がるとブレイクポイントは後ろに下がり、遅くすると前に出てきます。つまり、リアクションの変化は「曲がる・曲がらない」の問題ではなく、「いつ・どこで曲がるか」の問題なのです。
■ リアクションの“勘違い”を防ぐチェック法
● スローモーション動画を撮る
接地点(レイダウン)、曲がり始め、ポケット通過の位置を可視化し、ボード数を自分で確認する
● 「まっすぐに見えた」ショットも数値で検証
「今回は曲がらなかった」と感じたショットも、実は20ボード以上動いている可能性があります
● ボールが“走りすぎる”と感じたら、レイダウン位置を見直す
オイルに乗っているのか、早すぎる位置に置いてしまったのかを確認する
■ 結論:見るのは“動き”ではなく、“軌道”
ボウリングの世界では、「どれだけ曲がったか」を感覚や視覚の印象で語る場面が多く見られます。しかし、その感覚が事実をゆがめてしまうことが非常に多いのです。
ボールリアクションを理解するということは、単に「フック量を見る」のではなく、
レイダウン位置からブレイクポイントまでの軌道
ボールの進入角度とピンアクション
摩擦の変化に対する反応のタイミング
といった、より“構造的な目線”を持つことに他なりません。
つまり、上手いボウラーとは、「感覚が優れている人」ではなく、「事実を正確に読み取れる人」なのです。
【8】ボール選びの考え方:Pearl, Harsh, Ion Pro
~「曲がるボール=良いボール」ではない。自分に合ったリアクションを選べ~
ボウリングにおいて、スコアを大きく左右する要素の一つが「ボール選び」です。どれほど正確なフォームやリリースを身につけていても、その日のレーンに合っていないボールを使っていれば、ピンは倒れません。
マーク・ベイカー氏は、「技術はプレイヤーが作るが、武器は選べる」と語ります。ここでは、Pearl、Harsh Reality、Ion Proといった具体的なボールを例に、正しいボール選びの考え方を掘り下げます。
■ ボール選びは「性格」と「状況」のマッチング
まず理解しておきたいのは、「よく曲がる=良いボール」ではないという事実です。
ボールにはそれぞれ“性格”があります。表面素材、コア(内部構造)、ディファレンシャル(回転による揺れ幅)などの設計によって、以下のような特徴が生まれます:
ボールタイプ | 特徴 | 使用に適した状況 |
---|---|---|
Pearl | 滑りやすく、奥で鋭く曲がる | レーンが削れてきた時、遅くなった時 |
Solid | 表面が粗く、摩擦が強い | フレッシュなオイル、重めのコンディション |
Hybrid | PearlとSolidの中間 | 万能型、どちらにも対応しやすい |
Urethane | フック量は少ないが安定感抜群 | 短いオイル、スポーツコンディション |
■ Pearl系:奥で鋭く動く“切れ味重視”タイプ
Pearlカバーストックのボールは、レーン前半を滑って走り、バックエンドで急激に曲がるのが特徴です。
代表例:Storm IQ Tour Pearl, Roto Grip Idol Pearl, 900 Global Zen
こうしたボールは、オイルが削れて“キャリーダウン”してきた後半戦や、ハウスコンディションの遅めレーンで特に威力を発揮します。スピードがあり、立ち位置を深く取らずに角度を作れるボウラーに向いています。
Pearl系のメリット:
奥でのキレ(角度)が出しやすい
スムーズなスキッドによりスピードを維持しやすい
フレッシュオイルでは過剰反応せず、安心感がある
注意点:
摩擦が少ないため、前半の重めオイルでは滑りすぎてポケットに届かないこともある
曲がりのタイミングが遅いため、リアクションの予測が難しいと感じる人もいる
■ Harsh Reality:ソリッド系の代表格、“安定の力強さ”
Harsh Reality(900 Global)は、Solid Reactiveカバーと強めの非対称コアを組み合わせた重厚なボールです。摩擦が強く、レーン手前からしっかりキャッチして曲がり始め、ブレが少なく、ピンを押し込むような力強い動きをします。
Harsh Realityが活躍するのは:
オイルがしっかり入っているフレッシュなコンディション
玉の暴れを抑えたい、ラインをしっかり固定したいとき
ゆるやかなアーク状の曲がりが必要な状況
Harshのメリット:
予測しやすく、扱いやすいリアクション
スピードのあるボウラーでもしっかりブレーキがかかる
キャリーダウンにも比較的強い
注意点:
奥での「切れ」は弱めのため、角度をつけすぎると届かないことも
スローボウラーが使うと、早く失速しすぎるリスクがある
■ Ion Pro:滑らかでコントロールしやすい“ベンチマーク型”
StormのIon Proは、「Phase IIとIQ Tourの中間」的なボールと評価されることが多く、Pearlほど鋭くはなく、Solidほど重くない“中庸の操作性”が売りのハイブリッド型ボールです。
ディファレンシャルが控えめで、大きくフレアしない代わりに、ブレも小さい。そのため、「どんなレーンにも最初に投げて様子を見るベンチマーク」として使われやすい存在です。
Ion Proの強み:
走りも曲がりも“ちょうど良い”ため、試合の序盤に最適
調整のベースとして、アングル変更やボール切替の基準になる
コントロール性が高く、ラインミスしても大きな代償になりにくい
注意点:
極端に遅い/早いレーンでは“中途半端に感じる”こともある
自分のスタイルや戦略を把握していないと効果を最大限に活かしづらい
■ ボール選びは「自分の武器の整理」から始まる
自分に合ったボールを選ぶには、以下の3つのステップを踏むことが重要です:
自分の球質を知る(回転数、軌道、球速)
レーンコンディションを読む(長さ、オイル量、摩耗)
使えるボールの「使い分け理由」を明確にする
例:
「最初はHarshで安定して入りを作る」
「レーンが削れてきたらIon Proで対応」
「奥で反応が足りなくなったらPearl系へ切り替え」
このように、「どのタイミングで何を使うか」を明確にしておくことで、場当たり的な判断ではなく、戦略的なボール運用が可能になります。
■ 結論:「一番曲がるボール」は最適解ではない
ボウリングでは、「最も曲がるボール」よりも、「その場で最も効率よくストライクが取れるボール」を選ぶことが大切です。
マーク・ベイカー氏が重視するのは、「何が一番良いか」ではなく、「今、何が一番合っているか」という視点です。
自分の武器を理解し、レーンと対話し、状況に応じて最適なボールを選べる。
それこそが、本当の意味で“引き出しの多いボウラー”であり、プロに近づくための第一歩なのです。
【9】Rev Rateと正確性
~回転は“力”ではなく、“コントロール”の副産物~
ボウリングを始めた人がまず憧れるのが、「ボールの回転数(Rev Rate)」です。
「たくさん回転すれば、たくさんピンが倒れる」
「フックすればするほどストライクになる」
このように考える方は少なくありません。
しかしマーク・ベイカー氏の指導では、Rev Rate=支配力という幻想は打ち砕かれます。彼は明言します:
「回転数は武器ではあるが、それだけでは“精度のない爆弾”に過ぎない。」
ここでは、回転数と正確性の関係性、そして本当にパフォーマンスを上げるための“回転の使い方”について詳しく解説します。
■ Rev Rateとは何か?基本的な理解
Rev Rate(レヴレート)とは、ボールがレーン上で1分間に何回転するか(RPM:Revolutions per Minute)を示す指標です。
一般的な分類は以下のとおり:
分類 | 回転数(目安) | 特徴 |
---|---|---|
ローレヴ | ~300 RPM | 安定感はあるが動きは小さい |
ミッドレヴ | 300~450 RPM | 一般的なアベレージボウラー |
ハイレヴ | 450~600 RPM | パワフルだが制御が難しい |
エリート | 600 RPM以上 | プロ級のパフォーマンス可能 |
2ハンドボウラーや若いアスリートに多いのが、ハイレヴ〜エリート帯。
しかし、高ければ高いほど良いというものではないのがこの世界の面白さです。
■ 「曲がるけど当たらない」人が陥る落とし穴
Rev Rateが高いと、ボールはレーン上でより多くの摩擦を発生させ、鋭く曲がり、ピンアクションも派手になります。
しかし、これには大きなリスクが伴います。
ターゲットから少しでも外れると、急激に外れる
オイルが少し変化しただけで反応が変わる
入射角度の管理がシビアで、ブレイクポイントを外すと即ミスになる
つまり、高回転ボウラーほど、正確性(Accuracy)を必要とするという皮肉な構造になっているのです。
■ EJ Tackettに学ぶ:「回転の安定=強さ」
EJ Tackett選手は、回転数が常に510前後を記録するトッププロ。注目すべきは、その「振れ幅のなさ」です。緊張感の高い場面でも、ほとんどブレることなく、毎回同じ回転数とスピードで投球しています。
ベイカー氏はこのように評します:
「EJの強さは、510という数字そのものではなく、毎回510で投げられることだ。」
つまり、プロに必要なのは「高いRev Rate」ではなく、「安定したRev Rate」なのです。
■ 回転数を上げる=正確性が落ちる、のワナ
初心者や中級者がやってしまいがちなのが、「もっと曲げたいから無理に回転数を上げようとする」こと。
これによって起こる問題は以下の通り:
手首をこねる:再現性が失われる
握りを強める:スイングが不自然になり、タイミングが崩れる
軌道が暴れる:ボールの軸が毎回変わり、回転軸も不安定になる
結果として、「曲がるけど毎回違う」「狙い通りに当たらない」状態に陥ります。
これこそが、“回転に飲まれる”状態です。
■ 正確性の上に回転が乗るとき、パフォーマンスは飛躍する
逆に、狙ったラインに確実に乗せられる精度があった上で、回転を安定的に与えることができれば、ボールは最大限に活躍します。
これは次のような「積み上げ型アプローチ」が必要です:
正確に立ち位置とターゲットを通せるか?
タイミングが毎回一致しているか?
そのうえで、スイングの自然な流れの中で回転が生まれているか?
この順番が守られていれば、回転は「自然とついてくるもの」であり、無理に加えようとする必要はありません。
■ 回転数を安定させるトレーニング法
● スローリリースチェック
意識的にゆっくり投げて、自分の手からどのように回転が出ているかを確認する。
● 軸回転練習(Axis Tilt / Axis Rotation)
自分のリリース角度を意識し、ボールがどの方向に回転しているかを観察する。
左右の耳の延長線上でのフォロースルーで、回転の正確性が安定。
● 「狙ったRPMを再現」する練習
トラックマシンや測定アプリを使って、例えば「毎回450±10以内で投げる」など目標を設ける。
■ 「あなたにとって最適な回転数」がある
Rev Rateの目標は、「とにかく高くすること」ではなく、「自分のスタイル・体力・フォームに合ったゾーンを見つけて、そこを再現できること」です。
たとえば:
スピードが速いボウラー → 中高回転で角度を作ると効果的
スピードが遅いボウラー → 低回転でも角度を抑えてストレートに近い軌道で勝負できる
左利きや軸が傾いている人 → 入射角よりもミスの幅を減らす意識が大事
「最適な回転」は人によって違い、またその日のレーンによっても変化します。だからこそ、調整力と安定性が重要になるのです。
■ 結論:回転は武器。でも「制御できる範囲の武器」にせよ
ボウリングにおける回転数(Rev Rate)は、正確性の上に構築される“乗算的な武器”です。
正確性を無視した回転は、いわば「照準が合っていない大砲」のようなもの。
マーク・ベイカー氏の教えの核心はこうです:
「正確性がなければ、回転は敵になる。
正確性があれば、回転は最強の味方になる。」
だからこそ、回転を“育てる”前に、“導く道(ライン)”をまず作るべきなのです。
【10】マーク・ベイカー式コーチングの哲学
~「教える」のではなく、「引き出す」こと~
マーク・ベイカー(Mark Baker)は、現在のボウリング界で最も信頼されているコーチのひとりです。彼はかつてPBAツアーで活躍した元トッププロでもあり、その実践経験を活かした指導スタイルは、理論と感覚のバランスが取れた“現場主義”として高く評価されています。
彼のコーチングには明確な特徴があります。それは、「フォームを型に押し込む」のではなく、「選手の中にある正解を引き出す」というスタイルです。
■ 型を教えるコーチと、「感覚を見つけさせる」コーチの違い
一般的なコーチングは、「このフォームが正しい」「この動きを真似して」といった、理想の型に近づけるための指導が中心です。もちろんこれも重要ですが、すべての選手に同じフォームが当てはまるとは限りません。
ベイカー氏はこう言います:
「誰一人として、同じようにボールを投げる選手はいない。
だから“共通項”ではなく、“その人の法則”を見つける必要がある。」
この考え方が、彼のコーチングにおける最大の武器となっています。
■ 「Markers(マーカー)」という概念
ベイカー氏の代名詞とも言えるのが、「Markers(マーカー)」という考え方です。これは一言で言えば、
「その選手がうまく投げられたときに起きていた、一連の感覚的・技術的な“共通点”」
たとえば:
スイングがスムーズだったときの足のリズム
正しいリリースができたときの指先の感覚
ストライクが出たときのフォロースルーの高さや姿勢
ベイカー氏は、それらの“マーカー”を見つけ出し、「それを再現するための手がかり」を本人に気づかせていきます。
つまり彼の役割は、「教えること」ではなく、「気づかせること」。だからこそ、彼のレッスンでは選手が自分で納得して変わっていくのです。
■ 「感覚」を視覚でとらえる映像指導
ベイカー氏のレッスンは、ハイスピードカメラや分解映像を多用します。彼は技術的な理論を細かく語るというより、「実際に“見て”、自分で理解する」ことを重視します。
選手が自分の投球をスローで見て、「あれ?手の位置がこんなに違う」と気づく。そこで初めて、言葉では伝わらない「感覚のズレ」に気づくことができます。
この「視覚化→気づき→再現」の流れが、ベイカー式のレッスンの特徴であり、再現性のあるパフォーマンスを作る鍵です。
■ 有名選手との信頼関係
マーク・ベイカー氏は、Chris Barnes(クリス・バーンズ)、Bill O’Neill(ビル・オニール)、Tommy Jones(トミー・ジョーンズ)といった数々のPBAトッププロのコーチを務めています。
彼がこれほど多くの選手に信頼されるのは、「選手の個性を尊重する」からです。フォームやタイミングの微調整を通じて、“その選手のベスト”を一緒に探すスタイルは、押し付け型ではなく、「共創型」のコーチングと呼ぶべきものです。
彼らは口をそろえて言います:
「ベイカーは“俺の感覚”を理解してくれる数少ないコーチだ。」
■ 感覚ではなく「理論的な感覚」へ導く
ベイカー氏の指導のゴールは、「感覚に頼る」ことではありません。むしろ、“再現可能な感覚”=「理論化された感覚」に変えていくことを重視します。
感覚はときに曖昧で、コンディションや気分によって変化します。だから彼は、その感覚の裏にある動作や数値、軸やタイミングを視覚化し、選手が「なぜうまくいったのか」を論理的に理解できるように導きます。
■ ボウリングの上達=自己理解を深めること
ベイカー氏が教える最大のテーマは、「自分を知ること」です。
自分のフォームの癖
自分のタイミングの傾向
自分がリズムを崩すタイミング
自分が「良い投球」をするときの感覚
これらを選手自身が深く理解することで、ベイカー氏がいないときでも、自分で修正・調整・再現ができるようになります。
つまり、コーチが不要になる状態を作ることこそが、ベイカー氏の最終的な目的なのです。
■ 結論:「教わる」のではなく、「引き出される」から上達できる
マーク・ベイカー式のコーチングは、単なる“技術伝達”ではありません。
それは、選手の中にある“感覚・理論・経験”をつなぎ合わせ、自己再現性を高めるプロセスです。
彼の哲学は、どんなレベルの選手にも当てはまります。
「正解は自分の中にある。コーチはそれを見つける手助けをするだけ。」
それが、マーク・ベイカーの真髄なのです。
【11】まとめ:理解し、信じ、繰り返すこと
~強いボウラーは「知っている人」ではなく、「続けた人」~
ここまで、マーク・ベイカー氏の理論と実践的なコーチング手法について、タイミング・リズム・回転・選球・マーカーなど、多角的に見てきました。
どのトピックにも共通して流れていたのは、「型にはめる」のではなく、「自分自身の中にある正解を見つける」というアプローチ。そして、その発見を信じ、繰り返すことによって、自信と再現性を育てるという考え方です。
ここでは最後に、その全体像を整理し、読者が自分のボウリングにどう応用していくかの「行動の軸」を提案します。
■ ボウリングの上達に必要な3ステップ
① 理解する(Understand)
自分のフォーム、リズム、タイミング、回転数、レーンとの相性、ボールの性格など、技術や道具に関する理解を深めること。
感覚ではなく、目で見て確認する
成功時と失敗時の違いを言語化して説明できる
なぜ曲がったか/曲がらなかったかを他人に説明できる
この「理解」があってこそ、次のステップが成立します。
② 信じる(Trust)
理解したことを、自分の中で“納得”し、迷わず採用すること。これは単なる知識ではなく、「迷わず実行できる自信」の話です。
自分の投球の特徴や長所を受け入れる
コーチや他人の言葉より、自分の体の声を優先できる
どんな局面でも「これでいい」と思える判断を持つ
信じられなければ、プレッシャーの中で技術は機能しません。
③ 繰り返す(Repeat)
一度理解して信じた動作を、毎回同じように繰り返す訓練をすること。
再現性の高いルーティンを作る
練習でも試合でも同じ動きを目指す
成功の“マーカー”を積み重ねていく
これを意識的に繰り返すことで、やがて無意識レベルで「ブレない技術」が身につきます。
■ 繰り返すことの価値は、結果ではなく「再現性」
ベイカー氏の教えを通じて、もっとも大切だと感じるのは「良い投球を1回することより、それを10回再現できることの方が価値がある」という視点です。
たった1回のストライクは“偶然”で済まされますが、それを10回繰り返せば“実力”になります。そしてその実力とは、理解し、信じ、繰り返した人だけに備わるものなのです。
■ ミスをしても、そこに「意味」を見出せるか?
ボウリングはミスがつきもののスポーツです。ピンが1本残る、スプリットになる、ターゲットを外す。大切なのは、そのミスから何を感じ取り、次にどうつなげるかです。
「なぜそうなったのか」を理解する
「それでも自分の投球を信じ続ける」
「微調整しながら、同じ動作を繰り返す」
これが、自信を失わずに上達し続けるための“心のフォーム”です。
■ 最後に:マーク・ベイカーから私たちへのメッセージ
「自信は、教えられるものではない。
でも、発見して、繰り返すことで、身につくものだ。」
— Mark Baker
この言葉は、すべてのアスリート、すべてのボウラーに共通する真理でしょう。
うまくなりたいなら、誰かのマネをするよりも、自分自身を見つめること。
技術を磨く前に、自分の強みと弱みを知ること。
そして、正しい努力を、あきらめずに、繰り返すこと。
それが、ボウリングの奥深さであり、上達の唯一の道です。